土偶を溶かす
忍耐とか、継続とか、思想とか、そういうものによって私を形成する層がミルフィーユ状になっていく。
「目が全然笑ってないもん」
そんな声と共に、私は一生見ることのできない、他者から見た"まあや"というものを想像した。
「目全然合わせないからさ、」
そんなふうに目の話をしながら、私は顔を傾け、彼と目を合わせた。
「今は大丈夫だけどね」
そう言われた瞬間、そういえばeye to eyeについてダラダラと書き物をしたことがあったな、なんてことを思い出していた。
目と目を合わせている瞬間を意識した最後は、一体いつ頃なのだろう。
「へぇ」
「そうなんだ」
このなんの変哲もない相槌が、土偶の鎧を被った私を溶かしていく。
「へぇ」
「そうなんですね」
こうやって私も、溶かされていく自分で在りながら、傾聴する。
「でも、」
「じゃあ、」
とか、そういった接続詞によって会話に枝が生えていく。
その枝がぐんぐんと伸びて、まるで新しい自分が見つかったかのように、喜びを表現するかのように、私たちが交わす言葉が螺旋階段を駆け上っていく。
階段を登り切ったその先には、誰もいない。
ただ、真上に青空という空間だけが広がっている。
そういう景色を見るたびに、私とあなたという人物が会話をするたびに、私は私であって良かったと思うんだ。
私を纏う”緊張”が、夏の暑さの下で溶けていくアイスクリームのように、ポタポタと地面に落ちていく。
あゝこの瞬間も、過去になっていくのだろうと、なんとなく思った。
溶けていく、溶かされていく、心臓が剥き出しになって、次から次へと自己が顔を出す。
「緊張していた時期もありましたね」なんてことを口にする未来は訪れるのだろうか。
横断歩道のもっと向こう側から、大きく手を振っている姿が見える。
私の目が真っ直ぐに彼の存在を射抜く。
彼は、今日初めて地球に降り立ったような顔をしていた。
そして、彼が”私”という世界をまたゼロから読み始める。
私たちは、お互いが入っていたカプセルを置き去り、この世界を歩いていく。
そして、時間がくればまたその殻へと戻る。
「山に籠ってる陶芸家みたいな感じでさ、」
「なんですかそれ」
私は、首の後ろをくすぐられたような気持ちになりながら笑った。
彼の感性が暮らしている海を、次は冒険したい。
文字を書くことが生き甲斐です。此処に残す文字が誰かの居場所や希望になればいいなと思っています。心の底から応援してやりたい!と思った時にサポートしてもらえれば光栄です。from moyami.