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金木犀が雨に溶けて、

数日前、金木犀を吸い込んで、というタイトルで何か書こうと頭の片隅で考えていたのだけれど、人間の気持ちなどすぐに移り行くもので、違うものとなった。

自転車で風を切る瞬間、横断歩道で左斜め前を眺めている時、金木犀の香りを身体で感じる。その刹那、何故だか金木犀の香りを売りにした商品が頭に思い浮かぶ。ちゃんと役割を果たす姿を見届けることはいつもできない。

金木犀の訪れで秋を感じるのか、秋を感じている最中金木犀を思い出すのか。

目を見つめて、鼻筋を眺め、言葉を感じ、語彙を飲み込んだ。

会いたかった、そう思ったんだ。
でも、ずっと会いたかった訳ではなくて、ずっと、会いたくなかったんだ。
思い出さない思い出にすることには意味があって、その思い出の蓋を開けたときに、ちゃんとそのままの思い出の形をしていて欲しいから。

だから一度も、「会いたい」だなんて言葉にしたことはなかった。文字にも。頭の中でだって考えたことはなくて。

それでも、恋愛について語る時、脳裏に浮かぶのはいつだってたった一人、彼だけだった。彼なら秋をどんな言葉を使って言い表すだろう。どうやって私に伝えるだろう。きっと、長ったらしい言葉で、お気に入りの詩歌から抜粋したいくつかの文章を織り込み、そして、最後はあっけない言葉で終えるだろう。春も夏も冬を肯定も否定もせずに、秋という季節を最大限に感じながら。


そんな彼からの言葉に私は一体なんと返すのだろう。冬よりも好きだとかそんな簡素な言葉を返すのだろうか。

“彼”を見つめていると、涙が溢れそうになった。泣き喚きたいのに、平気な顔をする自分自身を頭に散らつかせながら。あれからどれほどの年月が経っただろう。あれからどれだけ涙を流してきただろう。あれから、何度思い出すことができただろう。

会いたかったよ。
会いたくて、仕方がなかった。
愛していたし、
愛しているよ。
どうしようもなく。


“彼”と再び会った時、
もう彼のことはきっと思い出さずに済むだろう。

2018年を思い出した今日を、超える明日を過ごそうと思う。







p.s  僕がこのプリンを食べたら死者でも出るのかい?


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