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たいてい起きてる僕 たいてい寝ている君

2011.3.11、その日ぼくは仕事を休んでおり家にいた。パートナーと2人で暮らしていて、パートナーは仕事へ行っていた。

ちょっと買い物へ行こうかと思っていた矢先、ガタガタと揺れ始め、その揺れはどんどん大きくなっていき収まる気配がない。
基本的にはそういう時、家の中にいた方が安全だし、うちには家具らしい家具もないのでなおのことそうだというのはわかっていたのだが、住んでいたアパートは築40年を超えたある種の歴史的建造物だったため思わず外へ出た。

幸い、すぐ近くに大きな見晴らしの良い公園があったのでそこへ駆け込んだのだが、公園の敷地に入った途端怖くて歩けなくなった。公園には何人かの人たちが近くの車止めや木につかまっている。ぼくも車止めを握ってしゃがんでいた。とても立った状態でいられない。

周囲を見ていると、あらゆるものが揺れている。住んでいるアパートも心なしかこんにゃくのように動いている。電柱はぐにゃぐにゃとゴムのように揺れ、電線は縄跳びの紐のように跳ねている。

感覚的には15分くらい揺れていた気がした。しばらくして揺れは収まったものの、なんだかまだ揺れているような気がしながらとりあえず家へと戻る。
家の中はいつもと変わらず。唯一とも言える家具である書棚の配置が良かったのもあり、棚の中で一部の本が倒れていた程度で家の中では全く被害はなかった。

テレビを点けてみると、大きな地震であったことが報じられている。あまりの規模にその時はピンと来なかった。
とりあえず余震もありそうだし、買い物しておこうかと近所のスーパーへ行ってみる。

お客さんは少なく、店内の被害もあまりない。とりあえずインスタント系のものを少し買って家へ戻る。

しばらくするとパートナーが帰ってきた。いつもは電車で通勤していたので、これは電車が止まっているので遅くなるか帰れないのではないかと思っていたのだが、その日はどういうわけかバイクで行っていたらしい。虫の知らせか。

パートナーから状況を聞き、テレビなどで情報収集をする。これは大変なことになっているということがだんだんわかってきた。ひとまず食料をもう少し買っておこうと再度スーパーへ行くと、さっきとは違って棚がほとんど空になっている。

身内の安否が気になったのだが、携帯電話は通じず。当時はネット回線を引くために固定電話を引いていたので、もしかしたらとそちらから身内へかけてみるとつながった。どうやら無事だったようだ。

その後も余震は頻繁に発生し、揺れがある度に玄関のドアを開けていた。夜中になってもなかなか収まる気配はない。テレビでは原発の状況をずっと映し出している。不安ばかりが募る。

何か情報がないと不安ではあるし、かといってテレビの映像は余計に不安になる。そこで夜はラジオをつけておくことにした。いろいろ聞いてみたが、少しでも普段通りの会話を聞きたかったぼくはTOKYO FMを流していた。
番組は「SCHOOL OF LOCK!」中高生向けの番組で、番組内の「とーやま校長」「やしろ教頭」の2人の、不安を感じている生徒(リスナー)に対してかけている言葉がとてもやさしく、ほっとできた。

不安な日々が続く中、日課のようにラジオを聞くようになっていた。様々なリスナーの不安な声、前向きな声、それらを真剣に受け止めるDJ、そういうやりとりを聞いていてぼくもどこか励まされていた気がする。
そんなある日(もしかしたら初日だったかもしれない)ラストナンバーとして、ある曲が流れた。

聞いた時、これはこの時このために作られた番組オリジナルの曲だとばかり思っていた。そのくらいその頃の状況やぼくの心境にフィットしていて、誰の何という曲なのかということを考えもしなかった。

時は流れて、住んでいる歴史的建造物アパートの耐震強度がヤバいということが判明、建て替えのため退去してほしいとのことで、急遽引っ越し先を探すこととなった。
その頃、ひょんなことからある大学生(当時)と知り合い、家へと遊びに行くことになった。その友人の住んでいた街の雰囲気は心地よかったため、引っ越し先を探していたぼくは勢いでその近くへ引っ越すことにした。

引っ越したことで頻繁に会うようになったある日、その友人からCDを借りた。その中にあの日聞いた曲が入っていた。びっくりした。たぶん、この時CDを借りなければ一生出会うことのないジャンル、アーティストとの出会い。

たぶん、震災が無ければ引っ越しもしていないし、大学生と頻繁に会うこともないので貸し借りすることもなかった。そして不安な日々の中で一度だけ聴いたあの曲は、そのまま記憶の中に埋もれていた。

神の存在とか運命とかあんまり信じてる方ではないけど、いろんな偶然のようなものが重なって、思わぬ時に突然繋がることがあると、何か不思議なものを感じる。

曲としては2009年発表のアルバムに収録されている古い曲なんだけれど、この曲を聴くと今でも、あの2011年の不安な日々、友人たちとの思い出、辛いことや楽しいことが混ざったなんとも言えない記憶がどっと押し寄せてくる。

...
みんなみんな 重なりあって
不思議な音楽が今夜もこの星を包む

00:00:00 / □□□(クチロロ)

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