飼い猫ケインが死にかけた話【詰まってどえらいことに!】
私はオスのキジトラの猫と一緒に暮らしています。彼の名前は「ケイン」です。
ちなみに、名前の由来は「クワイ・チャン・ケイン」です。といってもほとんどの方は知らないと思いますが…。
彼がまだ子猫だった時に、一度死にかけたことがあります。これは、その時の話です。
猫と暮らしている飼い主と、人間と暮らしている猫たちの役に立つことがあればと思い、その顛末を書いてみます。
できごと
ことの発端
ある日のことです。勤め先から帰ってくると、床のカーペットの上に蒲鉾形の嘔吐物がありました。
猫は毛繕いで飲み込んだ毛玉をよく吐きます。ケインはそれまで、ほとんど毛玉を吐くことはありませんでしたが、まぁ猫だからしょうがないなと後片付けをしました。
しかしよく見ると、朝食べた固形のキャットフードが、ほぼそのまま吐き出されています。
さらに不可解なのは、夜の時間に自動餌やり器から出たキャットフードにまったく手を付けていないようなのです。あれだけきれいに吐いたのなら、お腹が空いているはずなのに…。
しばらくケインの様子を見ていると、キャットフードのにおいを嗅いでいますが、食べようとしません。
同じフードばかりで飽きてしまったのかと想像していると、ケインは多量の透明な液体を吐きました。飲んだ水のようです。
見守っていると、水だけは時々飲んでいます。
翌朝、やはり餌は食べていません。
会社も休めないので、とても心配でしたがウェットフードを出したまま出勤しました。
何が起きている!?
会社の休み時間に「猫 嘔吐」というワードで検索してみます。
検索結果にざっと目を通して、ケインの症状に該当しそうだったのが「異物誤飲」です。症状がそっくりです。
「猫 緊急 夜間 病院」で調べてみると、あまり近くはありませんが、24時間診てくれる大きな病院が見つかりました。
終業後、走って家に帰ると(文字通り「走って」です。当時は通勤ランナーでした)、ケインはやはり何も食べていません。
床のカーペットには、緑色の液体を吐いた跡が複数ありました。
シャワーを浴びて、電話でタクシーを呼びました。
緊急病院へ
嘔吐を繰り返すケインをキャリーバッグに入れて、呼び寄せたタクシーに乗り込みます。病院の地図を印刷したものを渡すと、タクシーの運転手さんは住所をナビにセットして走り出しました。
車中でケインがときおり、か細い声で鳴きます。タクシーは川沿いの道を30分ばかり進みました。
立体交差している幹線道路沿いの敷地に建つ病院は、動物病院とは思えないほど立派な建物でした。
受付で名前を告げると、電話で連絡してあったのですぐに了解してもらえました。5分ほど待って、対応に出てきた女性にキャリーバックを託します。
待合室にあった猫雑誌をめくりながら待ちます。天井に設置されたモニターには、この病院がテレビで取材された時の映像が流れています。夜中にもかかわらず、他にも受診を待つペットと飼い主が複数いました。
診断結果
20分ばかり待ったでしょうか。先ほどの獣医に呼ばれて、腰くらいの高さの診察台がある診療室に招き入れられました。
レントゲン撮影を含めて診断した結果、やはり何かの異物を飲み込んでしまい、腸に詰まっている可能性が大きいとのことでした。
「朝まで点滴をして様子を見て、たぶん開腹手術になるだろう。手術にはそれなりの費用がかかる(おおよその見積あり)」という意味のことも告げられました。
ケインのいない部屋
その日はケインを病院に預けて、タクシーを拾って家まで戻りました。
獣医からは、携帯電話に連絡をするということでした。
部屋に帰ってきたときは、すでに日付が替わっていました。
腰をおろして一息つくと、住み慣れた部屋がいつもと違っていることに気づきました。強い違和感がありました。
失ってわかる存在感があります。
ケインがこの部屋に来て半年あまりしか経っていませんが、ケインの存在がこの部屋の一部となって、分かちがたく結びついていたのです。
そのことに初めて気づいたのが、この夜でした。
手術
朝方の4時過ぎに携帯電話への着信で起こされました。やはり手術が必要とのことでした。
6時には、執刀したであろう男性の医師から連絡がありました。
手術は無事に終了し、腸から固い異物が摘出された、とのことです。
会社の休み時間に改めて病院に電話すると、異物は「コルク」のような物であるとのことでした。
飲み込んだ異物とは
術後に受けた説明で「開腹したところ腸が腫れるほどで、命が危ないところだった」という話を聞きました。
そしてケインの腸に詰まっていた「コルク片」と「手術時の写真」を見せてもらえました。
くださいと言って貰ってきたものを撮したのが以下の画像です(一部モザイク処理をしています)
この「コルク片」を見て、私には心当たりがありました。
だいぶ前の話ですが、発泡性のブドウジュース(アルコールの入っていないシャンパンのようなもの)を試しに買って、飲んでみたことがありました。
そのコルク栓を床に転がして、ケインに遊ばせていたのです。円錐形をしたコルク栓は、転がすと弧を描いて転がるので、子猫の注意をひいて遊ぶにはちょうど良かったのです。
ケインの命を奪うところであった私の大きな失態は、そのコルク栓をそのまま床に転がしっぱなしにしてしまったことです。
テーブルの下に転がっていたコルク栓を、ある日ケインは見つけて、囓り取った一部を飲み込んでしまったのでしょう。
ウールサッキング
猫には「ウールサッキング」と呼ばれる問題行動があります。
ウール(羊毛)のような布製品を好んでサッキング(吸う、しゃぶる)する行為を指します。
ケインにこの兆候があるのに気づいたのは、膝掛けとしていた毛布に複数の穴があることに気づいた時でした。
普段は毛玉をほとんど吐かないケインが、緑色のアスパラガスを吐き出したことがあります。「えっ、アスパラガス?」と驚き、よく見てみると、それは緑色の猫じゃらしのおもちゃの先端を飲み込んだものでした。
パソコンテーブルの下で複雑に絡み合っているスマホの充電コードや、オーディオケーブルを囓って断線させたこともあります。
手術につながった今回の「異物誤飲」と「ウールサッキング」の因果関係は定かではありません。
しかし、私がコルク栓を放置しなければ100%防げたという事実に変わりはないのです。
術後
無事に手術を終えた日、会社からいったん家に帰って、それから病院までケインを迎えにいきました。
猫が患部をなめないように装着されるエリザベスカラーは、去勢手術をしたときには嫌がって付けられなかったと獣医にきいたのですが、今回はおとなしく付けています。
お腹の毛はきれいに剃られ、全体の半分くらいに渡ってまっすぐに縫合されています。お腹の脇に貼られたシールには、麻酔の効果があるそうです。記入された日時がきたら、はがしてくださいと言われました。
首にはバンダナ状の布が巻かれていて、カテーテルを体内に挿入した跡を塞いでいるとのことでした。
担当の女性の獣医から色々な説明がありました。
投薬について
粉薬は水に溶かして、針の付いていない注射器を口の脇に差し込んで飲ませること。
小さな錠剤を猫に飲ませる手順も教わりました。
両手で下あごと上あごをそれぞれホールドし、上を向かせて喉の奥に錠剤を放り込む。そのやり方を実地で試してみるということで、獣医が連れてきたのは白くて大きメインクーンでした。
メインクーンを実際に目にしたのは初めてでした。
大きな体躯に、威厳のある風格と、優しく賢いという特徴を持つ猫です。噂に違わず、見ず知らずの人間に触られても物怖じしない穏やかな猫でした。
処方食の缶詰は、水と合わせてすりつぶし、どろどろにして与えること。
ただ、食事を与えるタイミングは少量をこまめに、できれば日に5回くらいに分けて与えてください、と言われた時にはまいりました。
会社勤めのひとり暮らしには、とうてい無理なアドバイスです。部屋にある自動餌やり器は固形状のキャットフードしか使えません。
これに関しては、獣医との会話でも解決策は見つからず、朝と晩の2回で、まぁ仕方ないということになりました。
術後2、3日もするとケインの食欲も戻り、皿に入れた流動食をきれいに残さず食べるようになりました。
回復、そして成長
1歳弱という若い回復力で、ケインは日増しに元気になっていきました。
毛繕いをしようと身体を曲げながらも、エリザベスカラーの内側をザリザリと力強くなめ回している姿は、おもしろく、ちょっとかわいそうで、そして可愛くもありました。
今回の顛末では、お腹を切ったケイン自身が一番辛かったはずですが、なんでそんな目に遭ったのかという因果関係はわかっていないでしょう。
その分、飼い主である私が学んで、同じことが起きないように注意しなければと思います。
また、猫は自分の身に起きている症状(痛みや苦しさ)を説明することができません。
飼い主がその症状を見て、考え、行動する必要があるのですね。
この noteが、少しでも役に立てれば、私も嬉しいです。
あとがき
この note は、過去のブログ投稿をリライトしたものです。
その投稿の最後で、こう書いています。
「あれから、もう2年になるのだ」
ブログでそう書いたのは、実は今から12年前のことです。
つまり子猫ケインの受難は、今から14年前の出来事になります。
ケインは今年で15歳になります。人間の年齢に換算すると、70歳も半ばに当たる老猫になりました。
子猫の時の異物誤飲以外に病気を患ったことはありませんでしたが、加齢に伴い、新たな疾患も見つかりました。それにつてはまたの機会に書きましょう。
ケインからはたくさんのものをもらいました。ケインがいなかったら私の人生は大きく変わったものになっていたでしょう。
ありがとう、そしてこれからもよろしく。
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