食でわかる歴史。ドキュメンタリードラマ「ザ・フード アメリカ巨大食品メーカー」。
公 開:2019年
監 督:ニック・ホワイト
話 数:全3話
ジャンル:グルメ/ドキュメンタリードラマ
他の国の文化を知るにあたり、漠然と歴史を追っていっても、なかなか頭に入るものではありません。
例えば、「銃・病原菌・鉄」は、世界史に興味のある人は読んだことがあるでしょうし、アメリカの文化・歴史であれば、かなり長い本ですが「ザ・フィフティーズ」を読んだりもしているかもしれません。
しかし、なかなか最後まで読めなかったり、頭に残ることは少ないことでしょう。
さて、前書きはこれぐらいにして、文化を知るにあたって、我々がもっとも身近なものといえば、「食」ではないでしょうか。
美味しい、不味いという基準はわかりやすいということはありますが、そもそも、生きていくのに食べ物は必要です。
それでいて、地域性や国民性、時代性も含めて反映される。
「ザ・フード アメリカ巨大食品メーカー」は、そんな食の側面から、アメリカ文化をとらえていこうとするドキュメンタリードラマとなっています。
誰しも聞いたことがあるアメリカの巨大企業の創成期を描き、当たり前に口にする食べ物について、考えさせられることになる内容となっています。
アメリカの当たり前
アメリカにおいて、ケチャップといえばハインツです。
当たり前に我々が口にしているケチャップも、当たり前に存在していたわけではなく、一人の男の執念によってつくられています。
そもそも、ステーキが臭くて食べられないから、魚醤のような匂いのケチャップで誤魔化して食べていた、というのですから、現代人の我々からは考えもつかない時代です。
特に、食の安全というのが、まったくなかった時代です。
肉を食べたければ、家畜をさばいて食べることや、物々交換をしながら生きてきた人たちが、産業化の影響によって、都市部に集まるようになったところから、食というのは変容していったことがわかります。
急激な都市化の裏側で、何が入っているかもわからない食べ物が溢れかえる。
行商人が混ざりものの入ったミルクを売るなんていうのは当たり前の時代の中で、アメリカンドリームを目指して、改革が行われていった数々の起業家が描かれます。
ハインツ。
ハーシーズ。
マクドナルド。
コカ・コーラ。
ケンタッキー・フライドチキン。
ちょっと挙げただけでも、知らない人のいない大企業です。
大企業の成り立ち
コカ・コーラの歴史についても描かれており、南北戦争で焼け野原になった後に復興したアトランタにおいて、数々の怪しい薬の中に埋もれるようにして販売されていた、コカ・コーラ。
商品としては良くても、様々な事情でうまくいかなくなりそうなところを、商品を開発した人間ではなく、広げた人間もしっかり描かれます。
コカ・コーラにしても、マクドナルドにしても、作り出した人ではなく、アメリカ全土に広げることができたことも含めて、大きな影響があったこともわかります。
マクドナルドについて気になった人は、ぜひ「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」を見てもらいたいと思います。
「ザ・フード アメリカ巨大食品メーカー」で取り扱っているマクドナルド兄弟と、レイ・クロックとのやり取りの違いであるとか、マクドナルドという名前の偉大さも含めてよくわかる内容となっています。
カーネル・サンダースの苦労話もわかります。
模倣も含めてなんでもあり
今でこそ、売れた商品をそのまま模倣した商品については、非難の対象になりがちですが、「ザ・フード」で描かれる時代は、何でもありです。
ケロックのグラノーラに至っては、レシピを盗まれて、先に商品化されてしまった会社が大きくなっていったりしますし、売れる商品があれば、二匹目のどじょうを狙って、似たような、粗悪品をつくりだすのは当たり前。
良くも悪くも、誰もがお金持ちになろうという気概に溢れていた時代と場所だったといえましょう。
「ジョジョの奇妙な冒険 1部」の言葉を借りるのであれば、
それぞれの野望
ハーシーズあたりは寂しい側面もあったりします。
労働者の環境が劣悪な状態の中で、ハーシーズは、町をつくって労働者を守ろうとします。
喰うか喰われるかの世界の中で労働者を守ろうとしたのに、ストライキにあってみたり。
24時間を3分割して、8時間は労働、8時間は自由時間にしろ、という現代だと当たり前のような主張も、この時代に生まれたのだな、というのもわかったりします。
食から見るアメリカ
「ザ・フード アメリカ巨大食品メーカー」は、生まれたときから既に当たり前のように存在している食文化を、見事に圧縮して教えてくれる内容となっています。
一つの創始者の話を延々と見せるのではなく、これでもかといくつかの企業をシャッフルして見せてくるので、良くも悪くもテンポよく見ることができます。
本作品を見ると、無性にその食べ物が食べたくなるのが危険なところではありますが、こんな形で映像を見ることで、興味の幅を広げるきっかけになるところも含めて、魅力の作品となっています。
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