不思議な道具はだいたい暴走する。「もしも昨日が選べたら」
公 開:2006年
監 督: フランク・コラチ
上映時間:107分
ジャンル:コメディ/ファンタジー
アダム・サンドラー主演のコメディ映画「もしも昨日が選べたら」は、タイトルと内容にかなり隔たりがある作品となっています。
時間を操作して何かが起きるという作品はありますが、本作品は、映画「バタフライ・エフェクト」のような過去に戻って、できなかった行動を起こすような話では全然ありません。
何せ原題が「CLICK」となっており、作中で登場する万能リモコンを押すときの動作をさしているようなタイトルであり、主人公がもしもこういう人生を選んでいたならば、という話ではないことは先に書いておきたいと思います。
本作品は、どちらかというと、ドラえもん的なのび太の失敗談を映画にした、ぐらいで考えてもらったほうが素直に楽しめると思います。
クリストファー・ウォーケン演じる謎の男が、ドラえもん、または、キテレツ大百科の如く不思議なリモコンを渡すことで物語が動いていく作品となっており、アダム・サンドラー演じるマイケルは、笑うセールスマンの如く、その道具に取りつかれて、破滅へ向かっていく。
そして、最後には、よい話に持って行く、という点で、なんとも憎めない作品でもあります。
主人公が返品不可と言われて渡されたものは、人や動物まで操作することができる万能リモコン。
いたずらをする程度で使っていた主人公マイケルは、クリストファー・ウォーケン演じる男に、本当の使い方を教えてもらう。
それは、自分の過去をみることができたり、面倒くさい出来事をスキップすることができるリモコンだった。
過去を改変するというよりは、妻とのケンカや、人生の面倒くさいことを、リモコンでスキップするうちに、痛い目にあう、という、ドラえもん的なつくりの作品となっています。
ネタバレとなりますので、気になる方は一度、作品をご覧になってから戻ってきてもらいたいと思いますが、本作品をみて思い出すのは「素晴らしき哉、人生」でしょうか。
クリスマスには必ず放映されるというフランク・キャプラ「素晴らしき哉、人生」は、住宅金融会社を経営する男が、死のうとするものの、2級天使クラレンスによって、自分がいなくなった世界を見せられて、再び生きる気力を取り戻す、という話になっています。
「もしも昨日が選べたら」もまた、とある人物が実は天使だった、という設定がでてくるあたり、「素晴らしき哉、人生」へのオマージュが感じられるところです。
また、話しのつくりそのものは、中国・唐代の小説「枕中記(ちんちゅうき)」の「一炊の夢」の換骨奪胎したものといってもいいでしょう。
夢が叶う枕で寝てみると、出世したり、妻を娶ってみたり、様々な出来事を体験し、最後には死んでしまう。
気づくと、粟粥が炊けるぐらいの時間の出来事であったという、故事である「一炊の夢」は、夢落ちとして典型的なものではあるのですが、「もしも昨日が選べたら」を見ていると、そうなるしかない物語の作りになっているので、落ちという点ではそれほど裏切られた気持ちにはなりません。
古典的なものを現代風に作り変えて、仕事よりも家族が大事、というテーマの味付けで作られているものとして、「もしも昨日が選べたら」は、実に見やすい作品となっています。
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