実はコメディ。風刺と男のブロマンス「ゼイリブ」
メ~メ~。
ジョン・カーペンター監督といえば、「遊星からの物体X」や「ハロウィン」が有名ですが、その中でもカルト的人気を誇っている映画といえば「ゼイリブ」ではないでしょうか。
ドクロのような顔の宇宙人に密かに乗っ取られつつある地球の中で、西部劇ものの用心棒の如く現れる主人公が、陰謀含めてつぶしてしまおうとする痛快ストーリーです。
ホラー映画のように語られたり、物質主義であるとか資本主義者による搾取が云々といわれたりもしますが、もっと素直にコメディとしてみることでとっつきやすく、面白い作品として見ることができると思いますので、有名作品「ゼイリブ」について、簡単に感想&解説をしてみたいと思います。
流れものによる一撃
主人公であるナダを演じるのは、プロレスラーでもあるロディ・パイパーです。
服を着ているときは小柄な体躯からわかりませんが、工事現場で意味なく上半身裸になったときには、その肉体に驚くところです。
ロディ・パイパーは、「恋のボディ・スラム」や「SFヘルスラッシャー」などで俳優に転身し、「ゼイリブ」で主演を務めています。
「ゼイリブ」の内容については、不景気になってきたために10年務めた仕事を続けられなくなり、都会にでてきた主人公が、とあることがきっかけで、この世の中の陰謀に気づき、それを破壊しようとする、といった内容になります。
真面目なのか不真面目なのかはわかりませんが、本作品については、一般人はメディア等から知らないうちに
「従え」「考えるな」「消費しろ」
といった、支配者階級にとって都合のいいことを押し付けられて、知らないうちに思考力を失っているといったことに対して注意を促しています。
もちろん、そういった真面目な側面もありますが、コメディと思ってみたほうがより面白くなってきますし、そのスレスレのところが本作品に深みを与えているともいえます。
宇宙人だから殺していいのか。
主人公は、とあるサングラスをかけて驚きます。
街の中にいる人たちの中に、骸骨のような顔が混じっていることに気づいたのです。
また、雑誌な広告には、人々を洗脳するような言葉の数々。
主人公からすれば、自分自身がなぜこのような境遇にいるのかわかった瞬間でもあったでしょう。
宇宙人がいることに気づいてしまった主人公は、すぐさま警察官に追われますが、宇宙人だとわかるとためらいもせずに撃ち殺してしまいます。
たしかに宇宙人は悪いことをしているかもしれませんが、少なくとも今の今まで主人公は、普通に暮らしていたはずです。
宇宙人の中にもいい人もいれば悪い人もいるはずなのに、片っ端から殺し始めてしまうのです。
この時点では、視聴している我々からすれば、主人公の頭だけがおかしいのか、本当に宇宙人がいるのかはわかりません。
カルトな何かにあてられてしまった人の、とんでもない行動に見えるのを、ヒヤヒヤしながら楽しむのが面白いところです。
謎のケンカ
さて、「ゼイリブ」の中でも有名なシーンがあります。
それは、主人公であるナダと、フランクの7分近く続く謎のケンカのシーンです。
正直言って、物語の本筋とは全然関係ありませんし、96分しかない映画の中で、もっといれるべきシーンがあったはずなのにもかかわらず、いつまでも戦わせています。
主人公を演じるロディ・パイパーに気を遣ってプロレス技の応酬があったほうが面白いだろうという意図もあったかもしれませんし、そのあとに、暴力描写が多いことに対する皮肉を登場人物に言わせていることを考えて、自虐的なギャグとして言っていると考えることもできると思います。
思いますが、それにしても長いです。
では、どう考えたほうがしっくりくるのか、という視点に基づき、本作品を少しうがった見方をしてみたいと思います。
ブロマンスの要素
ブロマンスといえば、いわゆる男同士によるきわどい友情を総称したものだと考えてもらえれば、大きくはずしてはいないと思います。
解釈の幅はあるとはいえ、「シャーロック」でいえば、ホームズとワトソンの友情であったり、バディものと呼ばれる映画であっても、男同士の友情がかなり濃く描かれているものがあったりします。
性的なものはまた別のものになるわけですが、ホモソーシャルな結びつきのほうが強いものになるでしょう。
ロディ・パイパーは、工事現場で意味なく上半身裸になります。
それ自体は別によくある話ですが、周りの労働者は誰一人として、そんな恰好をしていません。
そんな中、その後殴り合いのケンカをすることになるフランクは、しきりに主人公のことを見ています。
行く場所がない主人公に、フランクは
「4番通りに行けば、食い物とシャワーが。行くなら案内するぜ」
と親切にしてくれます。
単純にいい人なのかとも思いますが、ケンカのシーンを深読みするには十分な行動といえるでしょう。
ケンカの意味
あまりケンカの話ばかり深堀するのもなんですが、一応、フランクは妻子ある身であり、出稼ぎの為に働きにでてきており、なぜか、違法占拠された場所で寝泊まりしています。
一応、「もう関わりたくない。俺には家族がいる」と言って拒絶しますが、主人公を見つけて給与を届けてくれます。
ナダが男だからわかりにくいですが、フランクからすれば、妻子を捨てて主人公と一緒に行くかどうかを決断する場面でもあるのです。
ブロマンスものの中ではたびたび、殴り合いのシーンがでてきます。
解釈の違いこそありますが、男同士の殴り合いというのは、性的な行為の代替という解釈もあるにはあるのです。
古典的な漫画のイメージで、殴り合って立てなくなった不良がおめー強いなみたいなものだと思ってくれたほうがソフトな印象かもしれません。
濃厚な殴り合いがあったからこそ、フランクは妻子を捨てて、ナダと共に、戦う覚悟を決めることになるのです。
ツッコミどころを楽しむ
そのあとは、やっぱり、宇宙人の存在が主人公の妄想などではなかったことがわかります。
なぜか偶然地下組織のメンバーと合流することができたり、突然、警官たちに追われたりしながら、敵のアジトへと乗り込んでいきます。
正直、ツッコミどころは満載です。
宇宙人たちは、腕時計にしかみえない小型の装置で簡単に肉体を別の場所に転移させたり、アンドロメダ星雲までいける科学力をもっていたりするわりに、パラボラアンテナ一つ壊しただけでその効果が無くなってみたり、律儀に経済的な面から地球を支配しようとしていたりします。
ヒロイン?にあたるホリーに至っては、なぜ主人公であるナダがこだわるのかさっぱりわかりません。
はじめこそ誘拐同然に家にまで押し掛けたことに対する罪悪感があるにしても、窓を破壊するほど突き落とされたり、敵の本拠地にも関わらず普通に生活している彼女に疑問も抱いたりしません。
結局、ホリーにはひどい目にしか合わされていないにも関わらず、ホリーを助けなきゃと危険な目にあうわけです。
最後には、ドクロのような顔が露わになった宇宙人たちに、人々が驚いておわり、という結末は、驚くほどのあっけなさです。
人々がテレビに限らず、スマートフォン含めたネットまわりなどから、色々と思考停止に陥りがちな現代において、色あせることのないメッセージ性と、コミカルな宇宙人たちとの戦いは、今見ても面白い作品となっております。
以上、実はコメディ。風刺と男のブロマンス「ゼイリブ」感想でした!
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