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マンガ大賞受賞作品。葬送のフリーレンから入る異世界入門。


いわゆる異世界もの、というのが漫画やアニメを席巻し、だいたいの設定については異世界ものでつくられてしまっているのではないか、というほどその多様化については目を見張るほどの一大ジャンルとなっています。

生まれ変わったら異世界人だった、というものは枚挙にいとまもありませんし、ゲーム的世界が現実になってしまった人たちなど、単なる異世界ものであったとしても、その取扱い方や切り口も含めて多種多様です。

あまりに種類が豊富すぎて、いったいどれを見ればいいのかわからないという人も多いかと思いますので、ムービーメーメー的なお勧めの異世界ものを紹介しつつ、異世界作品へのとっかかりになるような感想&説明を述べてみたいと思います。

もしも、異世界転生してしまったときに役立つかも、しれません。


人生は後日談の方が長い


異世界転生ものの定番の一つとしてあげられるものの一つに、主人公が勇者であるということが多いと思います。

勇者だから魔王を倒せ、というのは、昔からのファンタジーの王道といえるところです。

ドラゴンクエストなどのゲームもそうですし、古くは「ロードス島戦記」といったものに至るまで、とにかく悪い奴を倒してくれ、っていうのはド定番といえるでしょう。

ですが、異世界ものでの定番から外れつつも、その面白さを加速させている作品があります。

それこそが、全国の書店員さんが選ぶマンガ大賞を受賞した「葬送のフリー連」です。

「葬送のフリーレン」の面白い点は、主人公が勇者ではなく、長命のエルフであるフリーレンを主人公にした点といえるでしょう。

見た目は変わらないエルフのフリーレンは、勇者と一緒に魔王と倒しますが、1000年以上生きるとする彼女からすれば、勇者と旅をした10年間は、瞬きをする程度の短い時間です。


魔王を倒すという一大イベントが終わったあと、そんな祭りの後が徹底的に語られるのが「葬送のフリーレン」の新しいところとなっております。


良い悪いは別として、甲子園に出場した球児たちも、当然生きていかねばらなりません。活躍する人もいれば、ごくごく平凡に暮らす人もいる。

そんな当たり前ではあるものの、ファンタジー世界のエルフという種族をとりあげるからこそ、浮き彫りになってくる心の機微が描かれているのが面白いです。

魔法の設定

異世界ものにおいて何よりも大事な設定は、リアリティレベルをどこに置くか、という点です。

剣と魔法がある世界、と聞くとありきたりな世界に思えますが、魔法という概念そのものをどうとらえるのか。生活とどうかかわっていくのか。魔法は市民生活の中でどれくらい浸透しているものなのか。

子供から大人まで魔法がどんな人でも使える世界だとすれば、現代の我々がつかうようなガスコンロ等の設備が果たして必要なのか、というところも考えてしまうところです。

魔法という決定的な違いがあることで、人々の生活や歴史は簡単に変わってしまうのです。

話は反れますが、アメリカンコミックでいうところの特殊能力をもったヒーローが現実にいたら、歴史は変わった、という観点でつくられた作品「ウォッチメン」なんかは、政治的な問題含めて面白い作品となっていたりします。

さて、魔法ということに戻りますが、魔法がある世界は、どんな考えで人々は生活するのか。

人間というのは不便だからこそ何かをつくりだすものです。

魔法だけで物事が終わるのであれば、全て魔法でいいじゃないか、となるはずですし、そちらの理論が発達するはずです。


我々の世界もまた電気技術が大幅に発達していることから、電気主体で動いていますし、入手や加工が容易であるからこそ、その根本は化石燃料に頼っていたりするわけです。

魔法があるなら、当然、化石燃料で熱を発生させて、電気をつくりだすような真似はしないでしょう。魔法でいいはずです。

平地が多く畜産が盛んなところだからこそ、肉料理が名物になるように、物事には必然性があり、それは、ファンタジーの世界であったとしても変わりはしないはずです。

それを、剣と魔法があればいいと、強引に設定をつくってしまうと、どこか浮世離れしたものとなってしまい、物語に没入しずらくなってしまう要因にもつながってしまいます。


「葬送のフリーレン」は、魔法についてのリアリティレベルはしっかり設定されており、また、長年生きたエルフだからこその感想も散見されます。


魔法が発達した世界であれば、魔法について管理する協会のような組織があるわけですが、フリーレンは「しょっちゅう変わるから、覚えてられない」というのです。

人間にとっての100年は長くても、エルフにとっての100年は大した時間ではない。

そんな、時間感覚の差も含めて、面白くつくられています。


時間の流れ


勇者たちが、寿命で亡くなってしまった後、フリーレンは、とある場所を目指します。

勇者ヒンメルの死よりxx年といった表示が常にでるのですが、長くなればなるほど、人々から勇者の記憶が薄らいでいたりしますし、一方で、いつまでも勇者をたたえている人たちも存在しています。


時間の厚みがちゃんと描かれており、その厚みを最大限に発揮でいるのか、フリーレンという主人公の存在となっているのです。

時々、フリーレンが勇者一行と旅をしていたときに子供だった人たちが、老人となって再びフリーレンと邂逅したりする場面が、度々入ってくるのも見逃せないイベントの一つです。


年月を超える勇者の気持ち

さて、本作品は、そんな長命なエルフが主人公となっておりますが、フリーレンというキャラクターは、色恋などに興味がないキャラクターであり、自分の好きな魔法集めをして人生を過ごしています。


ただ、その長い年月の中で、あっという間に死んでしまう人間に興味を持つようになります。

それは、もちろん、ヒンメルという勇者が老衰で死んだことをきっかけとしています。


作品を読んでいると、そんなものかなぁ、ぐらいで読み進めてしまうところですが、後半になるにつれて、勇者ヒンメルの、フリーレンへの思いが読み取れてくるあたりが、面白いです。


勇者であるにも関わらず極度のナルシストでもあるヒンメルは、ことあるごとに、自分の像をつくらせます。しかも、できる限りイケメンポーズを披露しながら。

こういうと語弊があるかもしれませんが、これだけ大量の異世界ものをみていると、「葬送のフリーレン」もまた、単なる勇者との後日談をひたすら描いた作品というワンアイデアものだろうなと思ってみていました。

ですが、長命の種族の寂しさや、人生というのは短いとか長いとかは関係ないこと。時代が移り行くことを描いており、単なる異世界もの、ではない、ということに気づかされるところです。

何より、ヒンメルがいかにフリーレンを愛し、自分自身がいなくなった後でも、彼女が寂しくないようにいろいろな計らいをしていたかがわかってきて、でも、フリーレンはそれに気づいていません。

弟子であるフェルンや、戦士シュタルクと一緒に旅をしたりする中で、少しずつ人間という種族の考えに気づいていった結果、1000年以上生きる彼女は、人間を知っていく、というつくりになっているのです。

何百年生きても成長しないヒトもいれば、短い寿命でも深く世界を知るものもいる。「葬送のフリーレン」は、そういう作品なのです。

異世界ものの面白さ


いわゆる異世界ものと毛色が違う、という点についてはわかっていただけたと思いますが、本作品が、異世界ものの面白さがないか、というともちろん、そうではありません。

詳しくは書きませんが、フリーレンは、曲がりなりにも勇者一行と旅をした魔法使いであり、伝説的な魔法使いの弟子でもあることから、絶大な力を持っています。

ただ、そんな彼女であっても、過去に11回、自分よりも魔力が低い相手に負けた、ということを言っており、強いから必ず勝てるというわけではないことも示されています。


フリーレンと一緒に旅をするメンバーも一騎当千のつわものであったりする点なんかは、フリーレンがパーティをつくっていく物語として楽しむこともできますし、世界設定のバランスがいいことから、違和感なく楽しむことができます。

魔族というものがどういう存在か、という定義も面白く、人間がいかに、見た目で物事を判断しているのか、ということもわかる等、人類における普遍的な内容も多く含まれているところも特徴です。

副読本

さて、長命であるがゆえのフリーレンの寂しさというポイントを踏まえて、読んでおくとより理解が深まる作品を最後に紹介して終わりたいと思います。


まずは、言わずと知れたファンタジーものの王道「ロードス島戦記」です。


TRPGから生み出された本作品は、「葬送のフリーレン」と同じく、エルフはいるドワーフはいるし、剣や魔法があるという点で、ファンタジー世界の王道といえる作品であり古典となっているものです。


また、フリーレンは不老不死ではありませんが、不死なる存在について書かれたものであれば、「不滅のあなたへ」といったものも、抑えておきた作品になります。

フシと呼ばれる謎の存在が、人間性を獲得していきながら生きていく歳月を描いたものとなっており、不滅である存在が人々の歴史を眺めていくような壮大な物語でもあります。

ちなみに、作者の代表作である耳の聞こえない少女を描いた「聲の形」は、アニメ映画化もされているところです。

また、高橋留美子の「人魚の森」シリーズにおいても、人魚の肉を食べて不老不死になった人間を描いたりしており、決して珍しいテーマではないものの、その描き方は非常にデリケートなものになっているところです。


いわゆる「なろう系」と呼ばれる異世界転生もので面白いものは、「無職転生 生まれ変わったら本気出す」も設定やバランスが面白い作品となっております。


ファンタジーものに限った話ではありませんが、ファンタジー世界を描くにあたっては、我々が想像でしかつくりだせない魔法という存在が身近になっており、それに立脚した世界観が必要となってきます。

世界観を確立させつつ、非現実的な設定に血肉を与えていける状況を作るという点で、想像よりもはるかに難しいのが異世界ものとなっていますが、「葬送のフリーレン」は、間違いなく、そんな世界を成功させている作品となっておりますので、まだ見ていない人がいましたら、ぜひ一読してみていただきたいところです。

以上、マンガ大賞受賞作品。葬送のフリーレンから入る異世界入門。でした!


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