今見るとより際立つ差別意識「ズートピア」
公 開:2016年
監 督:リッチ・ムーア、バイロン・ハワード、シャレド・ブッシュ
上映時間:108分
ジャンル:コメディ/アドベンチャー
差別や偏見といった事による衝突や、行き違いといったものは、過去の歴史をみても、枚挙にいとまがないほどです。
男女の差別や、人種の差別、根の深いものから、容姿や年齢、様々なものといった誰しもが対象となるものまで幅広く存在しています。
人間が人間である以上、偏見はなくならないものではありますが、時代によっても変わっていく考えを取り入れながら、いかに生きていくのか、というところがポイントになるでしょう。
色眼鏡というのは、自分自身ではわからないものです。
観察するための自分自身そのものの見方が歪んでいては、わかるはずもありません。
ポリティカルコネクトネスが叫ばれて久しい昨今の中で、この手の意識の変革というのは、年を追うごとにはっきりとしていくものです。
さて、ディズニー作品において、「マイエレメント」が作られたりする中ではあるものの、内容といいビジュアルといい、まったく、古びることなく、むしろ、より鮮烈に現代社会の問題を明らかにしてくれる作品、それこそが「ズートピア」となっています。
差別意識は難しい
冒頭でも書きましたように、差別意識というのは、大変根深い問題となっています。
映画作品については、モチーフとして様々な作品で登場するのは、いうまでもないでしょう。
過去の作品であれば、差別が行われていることが前提にありながら、それをユーモアに変えて乗り切ったりしますし、差別の歴史そのものが、文化を作っていったという事実もあります。
「それでも夜は明ける」であるとか、「ブラック・クランズマン」といったもの、「グリーンブック」においては、偏見と差別が逆転した世の中における友情といったものまで、取り扱われる幅は広いです。
ともすれば、非常に重たくなりがちなテーマではありますが、ディズニー作品になりますと、マイルドでありながら、心に届きやすくなっています。
差別の歴史
「ズートピア」においては、肉食動物と、草食動物によって、大きな区分けがなされています。
主人公のジュディ・ホップスは、新人の警察官です。
ズートピアそのものは、一時のアメリカの歴史と類似している部分が見受けられます。
アメリカは、入植した順番によって雰囲気も変わっています。
移民にも、ポーランド系であるとか、イタリア系といったところもありまして、同じ白人であったとしても、同じというわけではないのです。
また、〇〇系の職業は、警察が多いですとか、小売業が多いのは、インド系などなど、大きな偏見とともに、そのような傾向があったりします。
出身によって職業が制限される、ということは現代においてありませんが、海外の歴史においては、中心となる人種と異なる人がその職業についたときには、大なり小なりの抵抗があったりするものです。
「ズートピア」では、肉食と草食というくくりもそうですが、その中においても、ウサギやゾウ、狐やナマケモノなど、多様な動物たちが暮らしています。
当然、体の大きさも異なりますので、同じ町に住んでいながら、すみ分けが行われてもいます。
体のサイズが違うのだからしょうがないと思ったりするところですが、ゾウの店で、キツネがアイスを買おうとすると、嫌がらせのようなことをされたりするのは、現代の感覚からすると、非常に居心地が悪い思いがあります。
「ズートピア」は、肉食も草食も一緒に暮らす、ユートピアなのだ、というふれこみがありながら、実際は、数多くの差別や偏見が存在しているところが、皮肉です。
では、そんな偏見や差別と戦おうとするのが主人公なんだ、と思うところですが、彼女もまた、偏見を捨てることができなかったりします。
ジュディの偏見
キツネは、ずる賢い。
ウサギは、小さくてかわいい。
ジュディ・ホップスは、ウサギでありながら、警察官になろうと努力します。
小柄なので、大柄な動物と同じ訓練をしても、うまくいきません。ですが、それでも、努力を重ねていく姿は、素晴らしいです。
ですが、そんな彼女もまた、偏見に戦おうとしながら、偏見をもっていたりもします。
ふとした瞬間にその考えがでてしまい、結果として仲たがいをしてしまったりと、脚本のできも非常に良い作品です。
本作品は、自分は大丈夫と思っているジュディ自身が、差別や偏見と戦いながら、自分自身の中の偏見に気づき、やがて、新たな相棒とともに、町を守ろうとする姿を描いています。
いわゆるバディもの、と呼ばれる作品ではあります。
「48時間以内に、犯人を見つけ出せ」
と言われるあたりは、もう、そのまんま映画「48時間」ですし、バディもので有名なものといえば「ビバリーヒルズ・コップ」は欠かせません。
映画のオマージュ
ミスター・ビックなんかは、完全に「ゴットファーザー」のヴィトー・コルレオーネです。
マフィアというのは、アメリカの歴史を語るにあたって欠かせない存在です。
もしも、こっちの方面で興味がわいた人がおりましたら、マーティン・スコセッシ作品の「グットフェローズ」であるとか「ディパーテッド」なんかをみてもらうと、アメリカがどのように繁栄していくのか、裏社会側から知ることができます。
時代の流れ
「ズートピア」は、2016年に公開の映画となっています。
当時であれば、黒人や白人、同じ白人であったとしても、その中でもある意識の違い等がメインであったと思いますが、多様性がより協調された世の中では、その時のイメージよりもはるかに、際立って感じられるから不思議です。
差別しないことを意識するあまりに、それが差別意識になっている、なんていうことも、他人から指摘されないとわからなかったりするでしょう。
外国の人に対して、日本語が上手ですね、というのもある種の差別意識の動きといえるでしょう。
「マイ・エレメント」でも、「共通語が上手ですね」というセリフもありまして、たとえいい人たちであったとしても、気づかないところで、そのような言動をしてしまっていたりします。
そのため、よほどに気を付けなければ、誰かに違和感を与えていることになるかもしれません。
ディズニー的面白さ
差別意識とはいうものの、本作品は、ディズニーが作成する、実に見やすいデフォルメされたキャラクターたちが活躍します。
深読みしなければ、何にでもなれる、という前向きな物語となりますし、見方によっては、厳しい現実を見せつけられる作品ともいえるでしょう。
ただ、何よりも前提にあるのは、そんな肉食動物や草食動物、その他もろもろがちがっていても、分かり合うことができるし、お互いに協力していける、ということを示してくれる、非常に明るい物語であるということです。
あと、なるべく画質のよい状態でみることをおススメしたいと思います。
これもまた、主人公たちにとっては喜ばしい表現ではないでしょうが、高画質で彼らをみると、それはそれは、もふもふとしていて、とってもかわいいのです。