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120点の作画ではない宮崎駿「君たちはどう生きるか」感想

公  開:2023年
監  督:宮崎駿
上映時間:124分
ジャンル:アニメ
見どころ:人混みをかき分ける主人公

多元宇宙へようこそですメ~

宮崎駿監督といえば、言わずと知れた国民的アニメ映画監督です。

完全に秘匿されていた本作品について、改めて感想について述べていきたいと思います。

その為、内容にふれるという性質上、あらゆるものがネタバレになる作品ですので、本記事を読みにあたっては、くれぐれもその点をご了解いただければと思います。

そして、名だたる人たちが、様々な考察や感想などを挙げているところではありますが、ささやかながら、当記事においても内容について触れながら書いていきたいと思います。

こんな夢をみた。

まず、本作品をみるにあたって、今までのジブリ作品のイメージでみると、肩透かしにあったような気分の人もいるかもしれません。

後になるほどに、黒沢明監督「夢」のような、何か不思議な世界へといざなわれていきますが、物語冒頭は唐突に始まりを告げます。

けたたましいサイレンの音と、燃える病院。

揺らめく人ごみの中を、主人公である眞人は、母を求めて走り抜けます。

ある意味、ここの冒頭の凄さこそが「君たちはどう生きるか」の最大の見どころとも言えます。

母親が火事で死亡した後、父とともに疎開する主人公

主人公が生きている世の中は、太平洋戦争真っただ中であり、父親は軍需産業で富を築いています。

また、妻の妹を新たに娶り、すでに、おなかの中に子供までつくっています。

当時の時代であれば、姉が亡くなれば、妹と婚姻するというのも、決して珍しい話ではありませんでしたので、そんなものかと思ったりはするのですが、眞人少年からみる、新しい母は、あまりに美しく、残酷に思えます。

嫌悪感もあるでしょうが、ジブリの中でも屈指の美人さで描かれた継母。

母親への愛情が強い眞人少年からすると、写真の中の若かったころの母親に似た、父親の新しい奥さんとなった人であり、新しい母親、という状態に、すぐになじめるはずもありません

表面的なところだけ見ますと、母親への愛情が強い主人公と、継母への想いの区切りをつけるというところが一つポイントとしてはあります。

多感な少年の、成長物語にもみえるのですが、宮崎駿の映画でありながら、今回の作品は、今までと違うことため、注意しつつ見る必要があったりします。

エンタメじゃない宮崎映画

宮崎駿の作品と言えば、なんといってもエンターテインメントとしての面白さが最大限に生かされて作られています。

少年と少女が出会い、冒険をする。

時には、飛べない豚はただの豚と皮肉りながらも、風立ちぬでは、ピラミットのある世界を描く大人の物語を作り出しました。

もう次の作品はないのだろうかと思われていたところに発表された「君たちはどう生きるか」。

タイトル以外は何もわからず、その後にでたキービジュアルとなるイラストは、サギ男の一枚のみ。

公開日に至るまで宣伝らしい宣伝を行わないまま劇場公開された本作品は、ジブリ作品の中にあって、異色の存在となっています。

見た人はなんとなくわかるところかと思いますが、宮崎作品にあった、盛り上がりが最大になる瞬間が、あまり無かったように感じたのではないでしょうか。

物語の前半は、大叔父がつくった謎の塔や、小間使いのおばあさんたちの存在。

複雑な少年の気持ちと、そこに現れる一匹のサギ。

「お待ちしてましたぜ」

不気味なサギ男との戦いと、その後の展開がどうなるのか、わくわくが止まらなくなったはずです。ホラーテイストが漂ってきて、何が起こるかわからない面白さを感じたと思います。

襲い来る既視感

「君たちはどう生きるか」を見ていると、今まで宮崎駿作品を見てきた人であれば、何度となくデジャヴに襲われると思います。

なんか、見たことある気がする。

初めて見た作品なのに、どこか似ているのです。

いわゆる、セルフパロディといえばそれまでですが、今までジブリ作品を見てきた人に対するご褒美のような映像や演出が散らばっています。

勿論、宮崎駿の最後の作品になるかもしれないから、自分の作品の総決算にしようとしているのかと思ったりするところですが、この作品の構造自体が、世界を作る宮崎駿自身を表していると思えば、また見方も変わってくるのではないでしょうか。

大叔父の存在

本作品において、頭がおかしくなってしまったという大叔父の存在は、常に作品の中で独特の存在感を保っています。

作品を作り出す存在が神そのものであるとするならば、「君たちはどう生きるか」の中で、危ういバランスの中、世界を保っている大叔父はまさに神であり、作品を作り出し続けている、宮崎駿自身の象徴として考えられます。

主人公である眞人もまた宮崎駿の分身ではあるでしょうが、大叔父もまた宮崎駿であり、同時に、物語を創造するものの苦しみを背負った存在となっています。

マルチバース世界

近年、人気の物語の構造として人気なのが、いわゆるマルチバース作品というものです。

「スパイダーマン マルチバース」なんかがわかりやすいと思いますが、多元宇宙の可能性の世界が描かれ、交わるはずのないキャラクター達が共闘します。

「君たちはどう生きるか」は、死んだはずの、若いころの母親と、一緒になって戦うことになったりします。

宮崎駿作品において、様々なヒロインがでてきましたが、まさか、亡くなった母親が、自分と同い年くらいの女の子になって、一緒に戦うなんていうヒロインは、異例も異例ですし、思いつくのも、実行するのも難しいヒロインとなっています。

最終的には、それぞれの世界に戻っていくわけですが、ありえたかもしれない世界、まだ何も起こっていない世界や、鳥たちが人間のようになっている世界など、ファンタジーと現実がごちゃまぜになりながら描かれる本作品は、エンターテインメントというよりは、アート作品のような分類で考えないと、楽しみ方がわからなくなってしまうかもしれません。

盛り上がりが爆発しない

物語の前半は、ホラーテイストとなっていて、いったい何が始まるのか、特に、事前情報がなかったこともあって、その雰囲気に驚かされます。

サギ男に誘われて、ファンタジーな世界に入っていってからは、どのように見ていけばいいのか、迷子になりながら食らいつくことになっていくのです。

時に、サギ男との友情のようなものが芽生えそうになってみたり、トリ人間に囲まれながら、よくわからないうちに助け出されてみたり。

大叔父の後をつげ、と言われて、断る主人公等々、大団円を迎えるというには、控えめな終わり方を見せる本作品は、味わいがある作品ではありますが、いつもの宮崎駿を求めると、肩透かしを食らったような気分になるかもしれません。

作画監督は

「崖の上のポニョ」では、何が見どころかというと、ポニョが海面を驚くほどの速度で走り抜けるシーンです。

すごいアニメーションを見た、という想いが、「君たちはどう生きるか」には、それほどなかったというのは、良くも悪くも、宮崎駿が作画監督ではない、というところにも起因するかもしれません。

他のアニメ映画を寄せ付けない圧倒的なクオリティはあるのですが、ついつい、宮崎駿監督の、何度みても飽きない構図や、驚くべきアニメーションを期待するとやや期待外れではあるものの、何か、よくわからないものを見続けることができる映画体験を久しぶりにできたことは間違いありません。

すでに、宮崎監督は次回作に取り掛かっているという噂もあるようですので、作画監督を別の人に行わせつつ、120点ではなくても、80点前後の作品を作り続ける量産型ジブリが沢山みれるようになるのだとしたら、それはそれで、楽しみ過ぎるところです。

これからも、スタジオジブリと宮崎駿の活躍とご健勝をご祈念しつつ、末永く見ていきたいアニメ作品が増えることを願うばかりです。

以上、120点の作画ではない宮崎駿「君たちはどう生きるか」感想でした!


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