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「そこに海を感じながら」 〜映画『i ai』シネ・リーブル神戸 舞台挨拶レポート〜

取材:植野さくら、西村紬 
文章:西村紬


i ai について

私たちは、映画『i ai』の神戸の映画館パルシネマの特別上映を観に行き、一般公開後の3月初旬、神戸のシネ・リーブルでのマヒトゥ・ザ・ピーポー監督と森山未來さんの舞台挨拶に伺った。その後、おふたりのインタビューに参加させていただいた様子も是非ご覧いただきたい。


「i ai」メインビジュアル

「i ai」
i ai は“相逢”。もう一度逢う。
同じ時代の雨に打たれているあいあい傘の下、
人と人が会って、別れて、また出会う青春映画。
エンドロールが終わった後も共に生きよう。

兵庫の明石。期待も未来もなく、単調な日々を過ごしていた若者・コウ(富田健太郎)の前に、地元で有名なバンドマン・ヒー兄(森山未來)が現れる。強引なヒー兄のペースに巻き込まれ、ヒー兄の弟・キラ(堀家一希)とバンドを組むことになったコウは、初めてできた仲間、バンドという居場所で人生の輝きを取り戻していった。ヤクザに目をつけられても怯まず、メジャーデビュー目前、彼女のるり姉(さとうほなみ)とも幸せそうだったヒー兄。その矢先、コウにとって憧れで圧倒的存在だったヒー兄との突然の別れが訪れる。それから数年後、バンドも放棄してサラリーマンになっていたコウの前に、ヒー兄の幻影が現れて……。

 ミュージシャンであるマヒトゥ・ザ・ピーポーが監督、富田健太郎を主演に迎えている映画で、学生や若い方にも観て欲しい映画なので、映画チア部京都支部で紹介しようと思う。

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舞台挨拶 

 舞台挨拶では、映画を兵庫県の新開地と明石を舞台とした理由や、場所や海の特徴について聞くことができた。森山さんの出身地が兵庫県ということもあり、森山さんの育ってきた目を通した景色の見方はもちろん、監督は海の匂いを知っていることも起用の理由だと語っていたことに、映画での海の描かれ方と共に感銘をうけた。 
 この映画は、リアルを追い求めている。フィクションであるはずなのに、リアルなのだ。そこには、ロケ地では常に海の匂いがするため、海を背後に感じながら撮影していたり、瀬戸内の水平線が霧で曖昧になる明石の海へのこだわりがあったりすることがある。リアルという部分では、THIS POP SHITの関係性や映画の中で発する言葉が直接的にメッセージ性を持っているというところも、リアルを意識させるかもしれない。
 舞台挨拶がシネ・リーブル神戸ということもあり、観客は兵庫県に近しい方が多かったため、海のあり方が共感できる方と共に共感も多い場だったように感じた。そんな舞台挨拶の後に、囲み取材を行った。

インタビュー

撮影秘話

── 1番好きだったのがTHIS POP SHITのメンバーたちがビデオ回して、大学生みたいに裸で3人でお風呂入ったり、部屋の中で「うわー!」って暴れたりするところでした。撮影中も士気が取れていたのかなと思ったんですけど。撮影中に、演者の皆さんとかスタッフさん含めて、印象的に残ってるエピソードとかがあれば教えていただいてもいいですか。

森山未來さん(以下、森山):THIS POP SHITは、彼ら4人の関係が深かったです。
 僕は瑛太と結構長い付き合いなんですけど、芝居では20年以上ちゃんと絡んでなかったような感じだったんです。映画では、久我(瑛太)とヒー兄(森山)の関係は象徴的じゃないですか。それを考えながら、自分と彼との今までのパーソナルな関係を考えながらやってみました。バス停の所での芝居とか、もちろん脚本に書かれてることだったりとか、ト書きだったりに不足してやってる部分もあるんですけど。自我とまでは言わないけれども、お互いの関係がそのまま立ち上がってるような時間になってましたね。

マヒトゥ・ザ・ピーポー監督(以下、監督):THIS POP SHITの4人とかはやっぱりすごいね。未來さんがおっしゃる通り、すごく関係が近いので、撮影のないオフの時は4人で普通にレコード屋さんに遊びに行ったり、海遊びに行ってきたりしてたので、それをカメラに写して、実際に映画の中で使われてたりするので。その点に関しては、ある種のドキュメンタリーに近いような要素も挟まれてるようなところはあります。

── 特にその4人に関しては、マヒトゥ・ザ・ピーポーさんの過去を見てるような存在かなっていう気はするんですけど。撮影中は、距離感はどうだったんですか?

監督:距離感は近かったと思いますね。過去というよりは、今も自分のバンドに関しては現在進行形なので。普段からバンドの中にある空気感みたいなことを表現するために、もう1つバンドを作ってみたような始め方をした気がします。

印象的な言葉たち

── 監督の言葉の表現に”美しさ”と”説得力”を感じました。例えば、「ライブハウスは夢の墓場である」とかは、非常にストレートで心に残る言葉が多かったと思うんですけれど。森山さんにとって、記憶に残ったセリフや言葉があれば教えていただければと思います。

森山:「さよならなんてないんだ。出会い続ける。」僕の最後のクランクアップのシーンがライブハウスの演奏シーンだったんですけど。「この言葉は僕がいただきます。」と監督にお伝えしました。

印象的なシーンたち

── ヒー兄の長屋の洗濯物がトリコロールになります。最初のシーンで洗濯物が白の時に、雨が降っているのはどうしてなんですか。

監督:赤は生命力みたいなものだったり、血のイメージだったりとか、スケーターの赤の流れるものは血流みたいなイメージがあったりとか。青はその対岸にある死のイメージがありました。白はやっぱりなんか物語が始まる1番最初のね、まだ色がついていないイメージがありました。

森山:俺もそこまで分析的に見たことはないけど、まさに命というか、死というものが近いとか、、その距離感によってその色が変化してたりとか。ヒー兄は赤色を身に纏っている時間が多いから、その日の物理的、あるいは心の距離っていうものが洗濯物には反映されてるのかなって、勝手に思ったりはしました。

── ヒー兄が最後青い色を顔に塗るシーン、あれはゴダールがお好きなのかなと思いました。

監督:それは考えなかったですね。
 でも、色にイメージを置いてゆくのは最初からイメージがありました。絵が語り出したり、街が語り出したりしてるようなこととかに耳を澄ましたいっていうのもあったんで、風景がちゃんと話してることとか、あとはやっぱり風が話してて洗濯物が揺れたりだったりとか、そういうことも言語だなと思いますね。

映画と音楽

── 映画と音楽の違いっていうのをお聞きしたいです。最後のシーンでコウによるメッセージがあったと思うんですけど、それは普段バンドの中でマヒトさんが言われてることとも共通する部分があるなと思いました。表現方法を変えた理由というか、音楽にはなくて映画にあるもの、または逆などありましたら教えていただきたいです。

監督:制作してみて、映画はすごく立体的で、いろんな人の関わりの中で組み上がっていると思いました。自身の活動で、”全感覚祭”って祭りやってるんですけど、その祭りが出来上がっていくのに近いかなと思っていて。音楽みたいに、自分で作って自分で歌うっていうことよりも、たくさんのものと接続して、もちろん繋がるものが増えれば増えるほど、コントロールできなくなっていくものも多かったです。そのことで、自分じゃなくなってることっていうのを楽しめたのが、やっぱ映
画の素晴らしいところだよね。

ロケ地の匂い

── パルシネマの特別上映を見させていただきました。その時にパルシネマの場と映像がリンクするところがすごく良くて、なにが起きてるんやろうって不思議な気持ちになりました。パルシネマをロケ地にする決め手はなんでしたか。

監督:入口のところから渦巻いて。やっぱり場所が持ってる匂いだったりとかが。フラットなところよりも、歴史などいろんなものが絡みついてるね。そういう場所って、いろんなものと接続しやすいというか、メッセージみたいなものを勝手に感じ取っていて、ここしかないなと決定しました。

── 今回、森山さんを主役に選んだ理由を聞かせていただきたいです。

監督:今回は海の映画なんですけど、その海の匂いを知ってるっていうのがまず第一。あとはやっぱり体を使って世界のいろんなものと対峙して欲しかったということで、その日の風や街の言葉をキャッチできるっていうことがすごく特別な才能だと思っていました。

── 森山さんはいろんな監督とお仕事をされてきたと思うんですが、マヒトゥ・ザ・ピーポー監督はいかがでしたか。

森山:マヒトはすごく言語を大事に使っているし、自分で本を書いたりしてるから、言葉の世界と音楽の世界という部分で、自分の座標軸みたいなものを探っている人なんだろうなという印象を持っていて。だけど、それは僕が、フィジカル/身体というものをある1つの表現の素材の重要な位置として考えてるのと近いということで、やっぱり音楽も身体もノンバーバルで、すごくプリミティヴなコミュニケーションのツールですよね。それで人と関わっていく、溶け合っていく、一体感を作っていくのには、音楽性と身体性っていうのは非常に重要なパートも担っている。
 そこと言語っていうものは全く違うコミュニケーションの能力だと思うんですね。だけど、僕も言葉と体の関係性っていうものをいつも考えながらパフォーマンスを作ったり、作品に参加したりするんですけど。マヒトにとっての言葉というものと、そのコミュニケーションツールというものとのバランス感覚は非常にわかる気がしていて。彼自身の音楽性と言葉の叙情性や詞的な部分だったりだとか、人との距離感を自分なりに図るための言葉の書き方っていうものに対してすごく興味を持つし、勝手に僕は嫉妬心を感じている部分だし。
 歌はCD、パフォーマンスはDVDになったりとかしますよね。配信とかもあるけれども、オンラインでその瞬間に終わるものなんですよね。そんな刹那で僕らは何を体験したのかっていうことに欠けているものを映画の中に切り取っていく。だから、なんて言うんでしょうね、そこで起こってることを本当にそのまま切り取るんだという意識と、あとは彼が持つ言葉、あるいはプリミティブな映像表現に魅力を感じました。楽しかったというのもあり、物理的に分からないところが全然ないって感じがしました。

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公開情報

 一旦関西での上映は終了してしまったが、是非、足を運んで映画館で観てほしい映画だ。また、各地でトークショーなどのイベントも積極的に行なっているとのこと。アップリンク吉祥寺にて、5月24日(金)~27日(月)上映。5月24日(金)20:05の回の上映後には、俳優の辻凪子さんとプロデューサーの平体雄二さんのトークショーも行われる予定。
その他の公演情報はこちら!
https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=iai0308

『i ai』(2022年/118分/日本)
監督・脚本・音楽:マヒトゥ・ザ・ピーポー
出演:富田健太郎、さとうほなみ、堀家一希、イワナミユウキ、KIEN、K-BOMB、コムアイ、知久寿焼、大宮イチ、吹越満、永山瑛太、小泉今日子、森山未來
主題歌:GEZAN with Million Wish Collective「Third Summer of Love」(十三月)
配給:パルコ


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