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『ナイフ・プラス・ハート』レビュー 【未確認映画解放同盟】7/10-7/16出町座で上映!

7/10-7/16出町座にて、「未確認映画開放同盟」第1弾として『ナイフ・プラス・ハート』『ライト・オブ・マイライフ』『ソーリー・エンジェル』の3作品が上映されます!
私たち映画チア部は上映に先立って作品を鑑賞させてもらい、レビューを書かせて頂きました!
noteは作品ごとに分け、3記事投稿します。
作品を鑑賞する際の何かしらの手助けとなれば幸いです!

『ナイフ・プラス・ハート』

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2018年/フランス・メキシコ合作/R18+/102分
英題:Knife + Heart 原題:Un couteau dans le Coeur

監督:ヤン・ゴンザレス 脚本:ヤン・ゴンザレス、クリスティアーノ・マンジョーネ
出演:バネッサ・パラディ、ニコラ・モーリー、ケイト・モラン

あらすじ

舞台は1979年夏のパリ。ヴァネッサ・パラディ演じる同性愛ポルノ映画の女性プロデューサー、アンは映画の編集者で自身の別れた恋人であるルイスを取り戻すべく野心的なポルノを撮ろうとしていた。しかし出演俳優が次々と惨殺され撮影は難航、アンは次々と不可思議な事態に巻き込まれていく。幻想的でエモーショナルな70年代ポルノスリラー。

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イントロダクション

クィアポルノを通した放蕩的な快楽が、覆面の連続殺人鬼がもたらす鮮血の死が、そして何よりも迸る映画愛が、1979年のパリを舞台に恍惚的に渾然一体と仕上げられている『ナイフ・プラス・ハート』。2018年カンヌ国際映画祭の公式コンペティションにも選出されている衝撃作だ。
監督は、フランスの若手映画監督の中でも異彩を放つ鬼才ヤン・ゴンザレス。監督映画『真夜中過ぎの出会い』(2013)が、彼の長編デビュー作にして既にカイエ・デュ・シネマ誌において2013年ベスト10作品の一つに挙げられていることからも、彼の異才ぶりは明らかだろう。
ブライアン・デ・パルマ、ダリオ・アルジェントらの影響を公言しており、実際地下街ネオン的な照明の下に過剰な死をもって飾られるオープニングからも、その影響を色濃く見て取れる。
映画の構築に多大な役割を果たしている音楽は特に印象的で、担当は監督の弟アンソニー・ゴンザレスによるソロプロジェクトM83。
ラスト5分、モノクロのモノローグ、フェリーニの『サテリコン』を艶やかに見直すかの如き祝祭、フィルミングするということの輝き。光と影、音と静寂。観客は皆、余りの美しさに息を呑むだろう。

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レビュー

1979年パリ。揺らめく赤い照明の中、黒い覆面の男がディルド型の仕込みナイフでポルノ俳優を殺す場面から映画は始まる。開始数瞬から強く眼を引く幻想的なビジュアルは、この映画を一貫する魅力だ。
その仕込みナイフによって性的快楽と死が一体化する瞬間、突き刺された背中から流れる血は、死という純潔を奪ったことへの破瓜にさえ思える。快楽の陰に潜む唐突な死は、来るエイズの足音を、そしてセクシュアルマイノリティの脆い立場を連想させる。
80年代へ突入し失われていく快楽、或いは全盛を過ぎ去ったジャッロ。この映画の性と死の郷愁は強く、美しく、浮世離れしながらも確実に現実に根を張るものだ。

ポルノ映画の中に快楽を追求した同性愛者たちの姿は儚く刹那的。彼らを出演者にして、現実に起こった悲劇を容赦なくポルノ映画に撮る女アンは、その映画を利用してルイスへの病的な愛を何とかつなぎとめようとしている。映画の中の現実を、映画の中で映画にする入れ子によって、幻想と現実の境目は激しく狂っていく。そのように現れる映画の罪、その罪の果てと、発露する映画への思いは、デニス・ホッパー監督作『ラストムービー』を彷彿とさせる。
ヤン・ゴンザレス監督のポルノ映画への強い思い入れを感じながら、終わりの暗闇の中の笑顔には、モノクロの中笑顔を浮かべ幕を閉じる日活ロマンポルノ『マル秘色情めす市場』を思い出した。(松澤)

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現実と幻想とを繋ぐ、エロティックユーモア、ヴァイオレンス、そしてM83のエレクトロニックな音楽。それらが繋がれたとき、わたしたちは言い得ぬエモーショナルに包まれる。
未知の気持ちよさ、快感に飲み込まれていく。なんだか悪いことをしているような、でもやめられないという感覚に陥る。

この映画をいわゆる”ジャンル映画”にカテゴライズしてしまうのは、もちろんジャンル的な色味は強いんだけれど、それだけではすごくもったいない。大学時代に修士論文でポルノを扱ったというヤン・ゴンザレス監督。70年代に存在した社会批判のためのポルノ映画の存在、同性愛者が居場所を見つけるためのツールとしてのポルノ映画の存在。ポルノ映画史を彼の解釈と表現によって新体験の再体験が出来る。

手放しに飲み込まれていって気持ちよくなってしまうもよし、たまに後ろを振り返ってその美しさに恐ろしくなって表現や技巧に思いを巡らせるのもよし。
この映画を映画館で見ず知らずの人たちと観るっていう行為事態がなんだかとてもおもしろい気がする。知らない人たちとラストの不可思議なさわやかさに見送られて、あの終わったあとの(……)って感じまできっと、いい体験になる映画だと、思う。(水嶋)

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『ナイフ・プラス・ハート』上映スケジュール@出町座
2020/7/10(金)〜7/16(木)
7/10(金)~7/12(日)16:15(~18:00終)
7/13(月)~7/14(火)20:55(~22:40終)
7/15(水)~7/16(木)18:35(~20:20終)
*7/16(木)で終映。
https://demachiza.com/movies/6874
あらすじ:水嶋美並
イントロ:松澤宏道
レビュー:水嶋美並、松澤宏道

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