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大阪ミニシアター巡り🚗第2弾【第七藝術劇場】支配人小坂さんインタビュー🎤(後編)

(前編)の記事はこちらから読むことができます🔽

(後編)では映画編成という仕事についてのお話や、小坂さんが今のお仕事に就かれた経緯や学生時代に影響を受けた作品などについて掲載しています🌟
インタビューの最後には、これからミニシアターに行ってみたい!という方に向けて、おすすめのミニシアターの楽しみ方についてお話いただきました💭

ミニシアター好きの方も、これからミニシアターへ行ってみたいという方も必見です!✨(さや)




聞き手:(なつめ、さや)

●「映画編成」という仕事

チア部:映画編成とは、そもそもどういうお仕事ですか?

小坂さん:劇場で上映する作品を選ぶ仕事です。シネコンなど大きい映画館だと本社に編成担当の人がいて、その人が決めた作品が全国の映画館一律で上映されると思うんですけど、いわゆるミニシアターでは劇場のスタッフがその劇場のことを決めているので、個性が出やすいですよね。

チア部:作品を選ぶ基準や、選ぶ時に心がけていることはどんなことですか?

小坂さん:映画を選ぶ基準というのはいくつかあります。

極端な話、例えば、編成担当の好みで、自分が面白いと思った映画だけを選んで、自分のメガネにかなわない作品は上映しないという基準もあります。でもそうすると、恐らくお客さんが来なくて、その映画館は潰れると思います。やっぱりお客さんに来てもらわないと、経営的に劇場が続いていかないので、お客さんが来る映画かどうかという基準もあります。正直な話、お客さんが来る映画と作品として良い映画は、必ずしも一致しないんですよね。だからお客さんが来るということだけ追求すると、あんまり面白い映画がかかってないなって結局お客さんが来なくなると思うんです。だから色々な基準を持たなければいけない。

ナナゲイの場合、さっき言ったみたいにドキュメンタリー映画が多いんですね。今も、上映予定作品としてポスターがかかっている作品の半分くらいがドキュメンタリーなんですよ。これは、僕が編成をやり始める前からドキュメンタリーが多かったのを引き継いでいる部分もありますし、僕個人的にも社会的な作品、社会とつながりのある作品が好きで選んでいるという部分もあります。また、年間に何百本と公開される映画の中から、個人の目で作品を選ぶことには限界がありますので、信頼している配給会社さんからご紹介いただく作品は、その内容においても信頼を置いています。

僕個人的には、単純にエンターテインメントでスカッとして終わるタイプの映画よりは、観た後に自分の日常を疑ってしまったり、自分の人生これで良いんかな?って思ったり、ちょっと引きずるタイプの映画のほうが自分的にも好みですし、そういう映画を上映している劇場でありたいというのはあります。そういう映画によって自分の行動が変わったり考えが揺さぶられたりすることがあると思うんですけど、それを選ぶ基準として持っているところはあります。そうすると、やっぱりドキュメンタリー映画が多くなってくるんですよね。元々の劇場の歴史と、僕自身の好みや思いもあって、社会的なことや文化的なことを扱っているドキュメンタリー映画が多いという現状があります。

映画を選ぶ基準がバラバラなのが、ミニシアターの面白さだと思います。お客さんが入ることが正義だと思っているところもあるでしょうし、自分の映画的な好みを1番の基準にしているところもあるでしょうし。編成の人間が変われば、結構上映する作品の傾向も変わるんじゃないかなって思います。


チア部:シアターセブンの編成もされているとのことですが、ナナゲイとシアターセブンの色分けはどのようにされているんですか?

小坂さん:シアターセブンでもドキュメンタリー映画が多かったり、ナナゲイで好評だった映画をシアターセブンでも上映したりとかで作品が結構被っているところもあります。強いて言うなら、キャパのことを考慮しています。ナナゲイは1スクリーンで93席あって、シアターセブンは2つスクリーンがあって、今コロナで制限していたりして変動はあるんですが、大体50席のスクリーンと30席のスクリーンです。

どっちが上だとかはなくて、90席で上映するのが良い作品と30席で上映するのが良い作品っていうのは、あるんですよね。ナナゲイよりもキャパが少ないシアターセブンでは、自主制作映画とか、地元の監督が作って東京とかではかからず、ここでしかかからないような映画とか、大々的に配給会社がついて全国公開しない映画とかを多く上映しています。30席は、頑張って宣伝すればお客さんが結構入ってくれるようなキャパなんですよね。結構キャパによって上映できる映画が変わってきて、それが面白いんですよね。

ナナゲイのスクリーン(93席)

チア部:趣味でも映画を観られると思うんですが、仕事で観るときと趣味で観るときとではやっぱり違いがありますか?

小坂さん:多分、全然違うと思います。

チア部:まず、お仕事以外で映画を観ますか?

小坂さん:仕事上で観る作品数が多く、どうしてもプライベートで映画を観る時間が限られてしまうので、だからもう毎日「映画を観たい!」と思っています(笑)。

上映依頼が来た作品はDVDとかオンラインとかで本編のサンプルが届いて、家で観ることが多いんですけど、さっき言ったようないろんな判断基準が頭の中にあって観るので、そういうのなしで純粋に自分が観たい映画を観たほうが良いと思います(笑)。どうしても仕事で観る映画が多くなってしまっているので、できるだけ時間を作って1本でも多く観るようにしています。

チア部:映画編成の仕事と、ナナゲイ支配人の仕事の両立はどのようにされているんですか?

小坂さん:支配人って、劇場によってやっていることが全然違うと思います。劇場で巻き起こるすべてをやっているタイプの支配人もいると思うんですけど、僕はいろんなことを他のスタッフに任せて分担してやっています。例えばアルバイトの人のシフトを組んだりとか、ロビーの掲示を考えたりとかもほとんどお任せなので、他の劇場の支配人の方に比べると仕事してないと思います(笑)。僕は編成を中心に、それから映写は自分でやっているという感じです。劇場によってはあらゆる仕事をやっておられる支配人の方もいると思うので、そういう方はかなり大変だと思います。昔は結構劇場に泊まり込んで…とかそんな人も、少なくはなったけど今もいるんちゃうかなぁ。


●小坂さんご自身について

第七藝術劇場の入り口でのお写真(小坂さん)


チア部:学生時代から映画に関わる仕事に就きたいと思っておられましたか?

小坂さん:映画関係と特定はしてなかったんですけど、学生時代に音楽活動をやっていたこともあって、漠然と、音楽とか映画とか文化に携わる仕事に就きたいなあとは思っていました。でも映画の仕事といってもあまり思いつかなかったというか。制作は全くやっていなかったのでそれは多分ないだろうなと思っていて、そうなると配給か映画館かしかないのかな、みたいな。あまり具体的には考えていませんでした。

チア部:どういうきっかけで今のお仕事に就かれたんですか?

小坂さん:実は大学院に行っていて、そのまま研究職もありかなと思いつつ、自分の能力的に大学でやっていくのは無理かもと思って、かなり手抜きの就活をやっていたんですよ。たまにエントリーシート出して、ちょろっと面接に行って、みたいな。本当にやる気のない就活をしていたときに、たまたまシアターセブンが募集をしていました。映画館で働きたいと思って探していたわけではないけど、文化的なことをしたいというのが常に頭にありつつ、就活めんどくさいなって思っていた時に見つけてました。とりあえず1回応募してみたらアルバイトで即日採用になってたので、大学院を休学してフルで働き始めて、なんやかんやで今に至っています。

チア部:大学院を休学して…!!

小坂さん:休学って2年か3年の限度があるんですよ。その限度がきてしまったので、とりあえず卒業はしておこうと、週5で働きながら大学にも行っていた時期がありましたね。とりあえず論文だけは出して、大学は卒業しました。あれから10年くらい経つんですけど、10年経ってもまだここで働いているとは思ってもいませんでした。


チア部:元々映画や文化的なことがお好きだったということですが、好きなことや趣味を仕事にする楽しさ・面白さと、反対に大変さ・難しさ・困ったことを教えてください。

小坂さん:僕個人的に、基本的には好きなことを仕事にしたほうがいいと思います。自分に向いてないと思うこととかやっていてしんどいこととかは、仕事にするとしんどいじゃないですか。だから基本的には自分が楽しいことを仕事にしたほうがいいだろうなと思います。まあ、好きなことってなんやねん!?っていうのが難しいんですけど。

たださっき言ったみたいに、本当に自分の観たい映画を、何も考えずに観る目を失ってしまって。仕事としては楽しいんですけど、もしかしたらここで働く前のほうが映画を純粋に楽しめていたのかなって。そういうこともあるので、良いことばかりではないと思うんですけど、基本的には仕事は自分がやる気がすることをやったほうがいいのかなあとは思います。


チア部:学生時代に観て影響を受けた作品はありますか?

小坂さん:大学生の頃はとにかくレンタルビデオ屋でDVDを借りまくって観ていたんですけど、その頃観たもので今につながっているのは、原一男監督の『ゆきゆきて、神軍』(1987)と森達也監督の『「A」』(1998)という、どちらもドキュメンタリー映画です。衝撃度でいうと1番高かったかもなという感じですね。観られたことはありますか?

チア部:原一男監督のお名前だけは聞いたことがあります…!

小坂さん:お二人とも主にドキュメンタリー映画を撮られている監督です。
『ゆきゆきて、神軍』は、太平洋戦争下に兵士として戦地に行っていた奥崎謙三という人物が、戦地での上官のある行いをずっと心に抱えていて、戦後しばらく経ってもちろん日本が平和になった頃に、元上官たちのもとを訪れ、彼らの戦中での行為の責任を問いつめる衝撃的なドキュメンタリーです。

『「A」』は、オウム真理教が1995年に地下鉄サリン事件というのを起こした当時メディアがその報道で一色だったときに、オウム真理教の施設の中に森監督が入って、中から外に向かってカメラを回すという。オウム真理教に味方したわけではなく、どちらかというと中の視点から日本社会を眺めた作品です。

この2つはかなり強烈でした。『ゆきゆきて、神軍』はものすごく強烈な奥崎謙三という人物が主人公なんですけど、この人がとにかく強烈すぎて、こんな強烈な個性の人が存在するのかと驚くぐらいの人で、人間観が揺さぶられました。『「A」』は、報道的にはオウム真理教が悪だとバッシングされるんですが、視点を変えてみると、その報道をしているメディアや社会の側が異常なものに見えてくるという面白さがあります。映画によって社会をそういう風に見れるんだと衝撃的でした。

チア部:それはいつ頃に観た映画なんですか?

小坂さん:多分大学の1回生か2回生だと思います。大学時代京都に下宿してたんですけど、下宿先の隣にめっちゃ大きいレンタルビデオ屋があって。大きいドラッグストアくらいの広さで3階建てで、1階は邦画で2階は洋画で…みたいなめちゃくちゃ充実してるビデオ屋で、1枚100円で借りまくってたんですけど、そこにドキュメンタリー作品が結構揃ってたんですね。。

チア部:それくらいの年代の、今の学生にお勧めの映画は何ですか?

小坂さん:その2作はおすすめです。
今の大学生ってレンタル屋に行くんですかね?

チア部(なつめ):あんまり行かないというか、まずお店が近くにないですね。

チア部(さや):私はたまに旧作を借りに行きます。家から自転車で行けるくらいの距離にあるので。

小坂さん:でも今TSUTAYAとかってめっちゃ減ってるらしくて、借りれるところ自体が減ってますよね。

さっきの2作とは全然違うんですけど、大林宣彦さんの作品は大学生に観てほしいなと想いますね。大林宣彦さんの作品は観たことありますか?

チア部(さや):昨日ちょうど『花筐/HANAGATAMI』(2017)を観ました!

小坂さん:え~!すごい偶然!他の作品は観たことありますか?

チア部(さや):『海辺の映画館-キネマの玉手箱』(2019)が観たかったんですけどまだ観れてなくて…。

小坂さん:そうなんですね。

大林監督は2020年に惜しくも亡くなられてしまいましたが、その直前まで闘病しながら映画を撮り続けておられて、作品数も多いんですけど、デビュー作から晩年の作品まで、とにかく普通の映画の文法と違うんですよ。なんか結構変わった映画じゃなかったですか?

チア部(さや):同じ台詞が繰り返されるけど、その意味も理解しきれないとか、なかなかどういうことなのかわからなかったです。

小坂さん:普通の映画の文法からするとよくわからないことが起きるんですよね。なんだこのシーン?みたいなシーンがあったり、同じシーンや台詞が繰り返されたり、謎の字幕が入ったり、明らかにコントみたいなカツラをかぶった役者が真剣に演技をしていたり。とにかく自由なんですよ。これは笑いを狙っているのか真剣にやっているのかわからない、まじめに観ていたら頭がクラクラしそうな。でも最終的には感動を呼んだり、何に泣いているのかわからない得体の知れない涙を流してしまったりする。そういうものを、デビュー作から亡くなる直前まで撮り続けておられた。

『その日のまえに』(2008)のときに、「70歳の新人監督の気持ちで撮りました」と言っていて。その作品もはちゃめちゃやっているんですよね。
観てもらうのが早いと思うんですけど、何やってもいいんだな、型に囚われなくてもいいんだなと思えます。70、80歳になっても、なんじゃこりゃ!?みたいなことをやり続けられる。だから大学生の方には、大林さんの作品を薦めたいですね。先ほどの『その日のまえに』や『異人たちとの夏』(1988)なんかをまず観てほしいです。

チア部:観てみます!
最後に、ナナゲイから宣伝がありましたら、是非。

小坂さん:12月10日(土)から公開の、セルゲイ・ロズニツァ監督新作『ミスター・ランズベルギス』を宣伝します。ちょっといきなりハードルが上がるんですけど、4時間8分の大長編ドキュメンタリー映画です。途中休憩を挟んで、ほぼ2作品分。

ロシアやウクライナが今年すごく世界的に中心的な場所になってしまいましたが、これはソ連からリトアニアというすごく小さい国が独立するときの、独立運動の中心人物でその後国のトップに立ったランズベルギスという政治家を追ったドキュメンタリーです。セルゲイ・ロズニツァ監督は、生まれた当時国としてはソ連だけど地域としてはウクライナの地域で育った人で、モスクワで映画を学んだり、各地を転々とした人です。
ここ最近、彼のウクライナ・ロシアに関する映画がどんどん公開されています。今年の騒動が起こる前から作っていた作品だけど、今年こんなことになってしまって、かなり世界的に注目度が高まったという。

この映画はソ連とそこから独立するリトアニアを追った映画ですけど、今の政治的な話題としてとてもホットな内容だと思います。当時のアーカイブ映像と現在のランズベルギスへのインタビューを組み合わせて編集した4時間の作品です。
これからミニシアター行ってみようかという人にはハードルが高すぎるかもしれないですけど、逆にこういう作品ってミニシアターでないとなかなかかからないし、4時間観てできる体験がきっとあると思うので、敢えて超ド級のこういう映画を観てもらうといいかもしれないですね。おすすめです。





最後にご紹介いただいたセルゲイ・ロズニツァ監督の新作『ミスター・ランズベルギス』、途中休憩を挟んでの鑑賞方法は今はすごく減っていると思うので、本当にミニシアターならではの体験という感じがします!

映画好きの方も、ミニシアター好きの方も、ミニシアターへ行ってみたいという方も!
ぜひ第七藝術劇場で、大長編をみんなで見るという体験をしていただきたいです✨

第七藝術劇場のホームページはこちら🔽

第七藝術劇場『ミスター・ランズベルギス』紹介ページはこちら🔽


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