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『逆光』監督・主演 須藤蓮さん&脚本 渡辺あやさんインタビュー(後編)

4月16日(土)からシネ・ヌーヴォにて上映が始まる映画『逆光』!
監督・主演の須藤蓮さんと脚本の渡辺あやさんのインタビュー後編です!

前編はこちらから👇


(聞き手:かんな・なつめ)

チア部:映画のタイトルの由来を教えてください。

須藤さん:あやさんの思いつきです!

チア部:え、そうなんですか!?

渡辺さん:うん。なんかふっと。

ある朝掃除をしながら、「あ、『逆光』ってどうかな?」って思ったんですよ。なんで思いついたかは自分でもわからないんですよ、脚本の中に一言も「逆光」って出てこないし。でもなんか、「逆光」って良いんじゃない?って。

この年までこの仕事してきて何となく思うのは、そういう風にふっと思ったことと理屈っぽく考え込んでたどり着いたことを比べると、ふっと思ったことの方が正しいってことです。そういう風に思いついたことっていうのはすごく強いんです。その時はわからなくてもしばらくしてから「ああ、そういうことか」って自分でわかるっていうことが結構あって。だから、なんかすごく良いような気がしたんですよ。

それで(須藤さんに)言ったら、「うん…まあまあじゃない」って(笑)「他に何か思いついたら却下だけど、思いつかないからとりあえずそれで」みたいな。

須藤さん:違う違う、タイトルは決めたい!みたいなのあるじゃないですか!タイトルぐらいはせめて思いつきたい!みたいな。
まあ、ちょっと無理でしたけど(笑)

でも、『逆光』ってめちゃくちゃ良いタイトルだなと思いますね。

渡辺さん:映画を観た人が、「なんで『逆光』なんだろう」っていろんな風に思ってくれるその…なんていうかな。

須藤さん:距離感ですかね。

映画が抱いている感情とか人物とか余白の距離感とタイトルと映画の距離感が同じですよね。『逆光』っていう映画と本当の「映画」の距離感って美意識だと思っていて。その距離感が近いと「若いな」って感じて、遠いと大人びて感じるというか。

だから、『逆光』っていうタイトルと作品の内容の距離感っていうのは、渡辺あやさんの現在の美的感覚なのかなって思いました。どうですか?

渡辺さん:う~ん、いや、わからん(笑)

でもなんか「逆光」については色々エピソードがあって。

例えば尾道は、いわゆる観光名所と言われるところで写真を撮ると全部逆光になるらしいんです。太陽の位置との関係で。っていうことを、尾道のカメラ屋さんに教えてもらったんですけど。
だから『逆光』なの?って聞かれたりもします。

須藤さん:うん、なんで『逆光』なの?ってめちゃくちゃ聞かれますよね。

渡辺さん:あと、三島由紀夫が可愛がっていた野坂昭如っていう昭和の小説家が三島由紀夫について書いているエッセイのタイトルが、「赫奕たる逆光」っていう。
「赫奕たる」っていうのは「燦然とした」みたいな意味らしいんだけど。それを後から人に教えてもらって、わあ…って思いました。

須藤さん:あれ結構鳥肌ものでしたよね。三島由紀夫論が、三島由紀夫そのものが、「赫奕たる逆光」っていうっていうのは。

渡辺さん:野坂昭如には、三島由紀夫がそう見えたんだろうね。

須藤さん:多分、野坂昭如にとって三島由紀夫という人はものすごくまぶしい人だったんだろうなと思います。


渡辺さん:映画って観てくれたんでしたっけ?『逆光』って感じしました?

チア部:ええ…そう言われるとどうでしょう…(笑)

須藤さん:でも俺撮ってて別に『逆光』って感じするなあとは思わなかったですけど(笑)

渡辺さん:そのわからなさが良いですよね。

須藤さん:うん。
逆光って、太陽を背負ってる状態のことですよね。

渡辺さん:うん。顔が影になっててね。

作品のキャッチコピーを考えている時に、「まぶしくて見えない」とか「まぶしくて苦しい」とか思いつけたみたいに、作品とタイトルの間に色々入ってこれる感じが好きなんですよ。

須藤さん:「なんで『逆光』なんだろう」って想像力を働かせる余地がありますよね。

渡辺さん:うん。観てくれた人の想像力に委ねられるというか。

須藤さん:余韻ってそういうことですよね。

渡辺さん:うん。だって例えば『尾道』とかだったら、何も膨らまないじゃないですか(笑)

須藤さん:『真夏』とか…『真夏の恋』とか(笑)「そうなんだあ…」で終わっちゃいますよね(笑)


チア部:ざっくりした質問なのですが、映画の中で特にこだわったのは何ですか?

須藤さん:こだわったところか…全部ですね。そう聞かれると難しいんですけど…。

渡辺さん:私ありますよ。文江です。ふふふ。

晃も吉岡もみーこも、他の映画に出ていても割と大事にされるキャラクターじゃないですか。
でも文江は、他の映画に出ていると割と大事にされないキャラクターだと思うんです。ああいう感じの女の子って、賑やかしな、三枚目なキャラクターとして物語の中に置かれることが多いんですけど、私は映画で描いたように、文江のことを大事にしたかったので。
結果、大事にできたなって思います。


須藤さん:文江についてはすごく言われます。他の感想ないんかってぐらい言われます。普段こういう映画は得意じゃないけど、文江が出てるから好きになれたって人すらいますもん。

渡辺さん:そっかそっか、それは嬉しいな。

須藤さん:何を大事にしたかな…多すぎてわかんないですけど。

変な意味じゃなくて、攻めてるか攻めてないか、とか、観たことない感じになれるかどうか、とか。衣装の選び方とか映像の切り取り方とか。監督だから映画全体を見ようと、見たいと思ってるから…。

でもやっぱり映像かな。いやでも脚本もキャラクターも大事にしてるから…。

バランス感覚ですかね。あとは美意識とか。

それから、ハッとさせられる瞬間ですかね。特に映画館で観てる時に、ぼーっと観てるんだけど、ふとした瞬間にハッとできるか、みたいな。この映画にハッとさせられるかどうか、みたいな。

あとはカットの変化のタイミングとか、間合いとか。

渡辺さん:私はあと、人の、キャラクターの魅力も大事にしました。観てて好きになっちゃうとか、そういう風になればいいなあと。
例えば男の子たちがみーこを観ていて、みーこに会いたい!となってほしいなあと。


須藤さん:あとは、ムードかな。
…だめだ、薄っぺらい言葉しか出てこない(笑)でも本当なんですよね。

現場の熱量とか。それもすごく大事にしました。みんなが得意なことをやってるか、とか、みんなが良いと思ってやってるか、とか。

あとは役者のテンション。こんなクオリティーの画に切り取られてるんだとか、こんな脚本をやれるんだとか、こんな衣装を着られるんだとか。やっぱり役者のことは肌身で感じられるので、役者の気分みたいなものは大事にしました。

渡辺さん:例えばNHKのドラマとか映画の仕事をするときは企画会議が通るかとかなぜ今これをやるのかとか、そういうところから始めないといけなくて、しっかりとした文章になってないと企画が通らないんですよ。
でも、会議に通った作品が必ずしも良い作品とは限らないし、通らなくても良い作品はできるんじゃないかと思っていて。

例えば『逆光』なんかは企画書をどう書いていいかわからないし、なぜ今これをやるのかという理由も特にないんですけど、ちゃんと良いものになるって証明したいっていう気持ちがありました。

みんなもっとこういう風に作品を撮ったら良いのにと思ったし、こういうやり方ができる環境を作ってあげられたら良いなと思ったし、業界全体がそうなっていけばいいなあって思って作りました。ちょうどコロナ禍だったし、シリアスで難しいっていうよりも、感覚的に楽しくて気持ちいい映画体験になればいいなあと。

チア部:70年代を再現するのに力を入れたところはありますか?

須藤さん:70年代って行ったことがないじゃないですか。今目の前にあるテーブルが何年代だとか、正直俺には分からなくて…。だから、そういうのが分かる人に何人か美術部に入ってもらいました。

あと、衣装とかもぱっと見て70年代って分かるわけじゃないので、衣装と美術はすごくちゃんと見てもらいました。尾道の古道具屋さんからかき集めて、新しいものは外したりとか、ロケーションは当時からありそうなものにしたりとか。撮っている間は、70年代が成立しているかどうかは、もはやもうそんなにとらわれていなかったのですが(笑)

でも、一番は衣装かな。エキストラ1人1人に対してもこだわりました。

あとは色味!色彩は、デジタルで観たときに綺麗になるように、かつ古い建物独特な空気感を大切にしていました。カットの切り方だとか、建物1つの撮り方だとか、全体で納得できる感じを意識していました。

チア部:出演者の衣装はどこから…?

須藤さん:僕が昔働いていたバイト先の近くにある古着屋さんにカリスマ的な店員さんがいて、すごく仲良しなんです。そこが最近お店を立ち上げたんだけど、コロナ禍で立ち上げられなかった時期があったんです。そのときに衣装をやってくれないかってお願いしました。だから、その人の私物とか、あとは高円寺の古着屋さんを全部まわって、その中でいいなって思ったのをピックアップしていってという感じですね。衣装選びは2週間、3週間ぐらいかかりました。


チア部:カメラワークや演出にこだわりを感じたのですが、参考にした映画とかってありますか?


須藤さん:トラン・アン・ユン監督とか…。

渡辺さん:『ノルウェイの森』とかかな。

須藤さん:そう、『ノルウェイの森』を撮った監督!

あとは『青の稲妻』のジャ・ジャンク―監督とか…。360°カメラをまわすところとか、ダンスシーンの撮り方とか。色んな映画の良いところを参考にしたので何とも言えないんですけど。

カメラワークで一番真似しているのは『ノルウェイの森』です。

でも、やっぱり真似ってできないんですよね。『逆光』っていう映画の脚本があってのシーンってあるから、このシーンになら当てはめられるっていうのは真似をする。そうしていく内に想像力がわいてきて、自分のオリジナリティが出るシーンとかもあって…。海に飛び込むシーンとか。

あと、カットのはじまり方とかってどう出来ているんだろうってちゃんと見たことなかったから、しっかりと見ていて、こうなったら驚くかなとか、こうなるとハッとさせられるなとか。真似というよりは、深いところから切り取って落とし込むというか。

渡辺さん:私はたまに映画を作者の意図と全然違うように解釈して、勝手に感動したりするんです。しかもそれを自分の創作のインスピレーションにすることもあります。つまり内容ではなく、ただその感動の感触だけを自分の作品で再現するにはどうしたらいいだろうっていうところから組み立てていく。そういうことが一番面白いです。


チア部:『逆光』をシネ・ヌーヴォで観る方へメッセージをお願いします。

渡辺さん:シネ・ヌーヴォさんへは今回はじめて伺ったのですが、びっくりするぐらいドラマティックな内装で、劇場へ観に来られるだけで楽しいところだと思います。

須藤さん:本当に!劇場のデザインが水中をモチーフにしているので、『逆光』の海へ飛び込むシーンとリンクするなと思いながら内装を見ていました。支配人の方もすごく気さくで良い方で…。

渡辺さん:すごく作品を大切にされている良い劇場だなと思いました。

須藤さん:それはすごく感じました!

渡辺さん:だからシネ・ヌーヴォで上映していただけることがとても嬉しいです。『逆光』の上映を機会にこういう劇場があるんだなと知ってもらえたらいいなと思います。



インタビューは以上で終わります!須藤さん渡辺さん、貴重なお話を本当にありがとうございました!

大阪の皆さん!是非シネ・ヌーヴォでの『逆光』映画体験を楽しんでください☺️

『逆光』
2021年/日本/62分
監督・出演:須藤蓮
脚本:渡辺あや
撮影:須藤しぐま
音楽:大友良英
出演:中崎敏、富山えり子、木越明、SO-RI、三村和敬、衣緒菜、河本清順、松寺千恵美

4月16日(土)から大阪・九条のシネ・ヌーヴォにて公開!

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