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『同じ下着を着るふたりの女』特集🎞

こんにちは!
映画チア部大阪支部の(なつめ)です。

今回は、6月24日からシネ・ヌーヴォで公開中の『同じ下着を着るふたりの女』特集です!

キム・セイン監督による初の長編映画で、母と娘の不器用な愛を巡る物語。

視線を落とす2人が断絶されたポスターが印象的です。

初めてこのタイトルを見たとき、(同じ下着を着る…?)と衝撃を受けました。
この映画を知ったのは、昨年の10月から11月にかけて開催された第23回東京フィルメックスでした。
コンペティション部門に出品された今作を現地で観た方のツイートで知って、Fillmarksでチェックしたことを覚えています。


日本公開が決まり、大阪では我らがシネ・ヌーヴォで上映されること、また上映後にキム・セイン監督登壇の舞台挨拶が開催されることを知り、当日行ってきました!



いつものごとくポスターのイメージくらいしか予備知識を入れずに139分、映画に没入しました。
観た後の率直な感想としては、母スギョンが激しすぎてつらい………でした(泣)。
自分の年齢や立場的に、どうしても娘イジョン寄りの視点から観てしまったからだと思います。しかし、感情移入ではない。
憎愛激しい感情が入り乱れるのを眼前に観て、こちらの感情も激しく揺さぶられました。


少し落ち着いて、そんな激しい感情の背景には何があったのだろうと、母と娘の境遇に思いを馳せました。

物理的にも精神的にもイジョンを傷つけるスギョンは、「毒親」と表されるのかもしれません。
そんな母親と、30歳を目前に控えても未だに同居しているイジョンこそ早く離れればいいだろうと言う人もいるかもしれません。
2人の関係や環境をそうさせた原因や根源、問題の端緒がどこにあるのか、そもそもそんなものがあるのか。
誰の何を責めればいいのか、そもそも責められるものなのか。

そう考えると、ふたりの女性の見え方が変わってきました。

教育学の授業で学んだ、本質主義と関係主義を思い出しました。
「その人」からは見えてこなくても、「その人」を周囲との関係の中に置くことで見えてくるものがあるのかもしれません。

だからこそ、上映後の舞台挨拶で監督もおっしゃっていたような可能性に開かれたラストが、どうか希望であるようにと願いたくなります。



舞台挨拶の模様はYouTubeでノーカット公開されています!
キム・セイン監督がお客さんからの質問にたくさん答えてくださいました。


お話の中で一番印象的だったのは、韓国の母親像について。
家族に尽くす献身的な従来の母親像ではなく、共感はされないかもしれないが、自分を生きていく・勝ち取っていく魅力的な母親像をスギョンによって描きたかったとおっしゃっていました。

このお話から思い出したのは、私の大好きな韓国映画『はちどり』(2018)の母親でした。
自営業の夫を店でも家でも支える妻、3人の子どもたちに食事を与える母親、兄のために学校に行けなかった妹、としての女性。
「家族に尽くす献身的な従来の母親像」がそのまま当てはまると思います。
だからこそ、主人公のウニが帰路で見かけた母親に何度大きな声で呼びかけても届かないシーンは強烈でした………ってずっと『はちどり』の話しそうなのでこの辺でやめます。


映画を観た翌日、映画チア部神戸本部に同行してキム・セイン監督を取材させていただきました!(歓喜)

以下、取材の一部をお届けします!
他にもたくさんお話ししてくださった内容は、後日神戸本部のnoteに掲載される予定なのでお楽しみに。

キム・セイン監督(写真中央)と映画チア部神戸本部(かず)(写真左)と(なつめ)


チア部:邦題の「同じ下着を着る」を初めて見たとき、軽く衝撃を受けました。「同じ下着を着る」ってどういうことなんだろう?と思って、それが今作に興味を持った理由の1つでもありました。映画では冒頭で「同じ下着を着る」母と娘が描かれます。

ここで自分の体験を振り返ると、第二次性徴が進んで初潮がきたり母親に連れられて自分の下着を買いに行ったりした経験は、母親からの分離を意味していたように思います。

その点において、未だ共依存の関係にある母と娘を描いた今作において「同じ下着を着る」という設定は必然的であり、不思議ではないように思いました。どのようにしてこの設定を思いついたのか教えてください。

キム・セイン監督:この映画自体、挑発的な意味を持つ映画にしたいという思いがありました。また、お互いを同一のものと見てしまうとか、お互い自分の気持ちをわかってくれたらいいと思ってしまうことがあるとか、そういう母と娘の関係を表そうと考えて、このようなタイトルになりました。

自分自身、数年前まで母親と同じ下着を使っていたということがこのタイトルや設定につながったのかもしれません。女性の友達に聞いてみると、彼女たちも同じような感じで、「これ着ていきたいのに乾いてない」というようなこともあったそうなんですよ。男性の友達に聞いてみると、彼らは父親と下着を共有することはないと。これは映画として描けるんじゃないかと思いました。

色々なモチーフがある中で「下着」を選んだのは、下着って体にずっとくっついているものだからです。どんなに大事なものでも、例えばコップとかペンとかは、ずっとくっついているわけじゃない。そう考えたときに、下着っていうものが一番ぴったりくるなと思いました。

タイトルに関しては、日本だけが韓国の原題(『같은 속옷을 입는 두 여자』)と同じなんですよ。英題は違うんですよね(『The Apartment with Two Women』)。日本だけが韓国と同じタイトルなのは、文化が似ているからかなと思います。映画祭じゃなくて映画会社から公開されているのは日本と香港とマカオだけなんですけど、それは家や家族、親から分離できないという文化が似ているからだと思います。

高校の仲が良い友達に聞くと、みんな親と一緒に住んでいるんです。給料をもらっても、家賃が高すぎて独立ができないと。

映画祭にあわせて香港に行った時も、一人では住めない状況らしいと知りました。30万円くらいの月給をもらうけど、家賃はそれ以上で住めないみたいな。そのような話を聞いて、同じような環境にある土地でこの映画を観てもらえているんだなという新しい発見がありました。


チア部:映画の中で印象的だったものの1つが「赤」色でした。母スギョンの髪の毛や、下着、車、それから経血。今作における「赤」という色が持つ意味について教えてください。

キム・セイン監督:まず、赤という色自体には意味はありませんでした。ただ、スギョンという人を派手で目立つキャラクターにしたかったので、髪の毛を赤くしたり服にビーズをつけたりしました。姿は見えなくても遠くから近づいてくる存在感を表すためにケータイにじゃらじゃらついているものとか、歩く音とかを強調しました。

生理の血もそうですし、最後に出てくるスギョンの裸のシーンも、「なぜこれを描くのか」ではなくて、「なぜわざわざ隠さないといけないのか」。なぜそのようなシーンを撮ってはならないのか、削除されないとならないのかっていうのを考えて、あのようなシーンを作りました。映画などにおける女性の体は、韓国ではセクシーに描かれがちなんですけど、体っていうのは人間を一番表すものだと思うんです。服とかでその人がどういう性格かっていうのを表すことはできるけど、傷だったり肌の質感だったりで人間を表すのが裸だと思いました。

生理の話で思い出したんですけど、生理痛は個人の問題ではなく、国として扱わないといけないと石原さとみさんが話している動画を以前見ました。その話を聞いてかっこいいなと思ったし共感しました。だけど、日本の人にこの話は有名なんですか?と聞いても知らなくて……。日本でもそういう話はされていなくて悲しくなりました。

チア部:日本では、生理は隠されるべきものやタブーとして描かれる…というより、「描かれない」、不可視化されてきたことが多いです。

キム・セイン監督:日本や韓国だけじゃなく、世界的に女性がかかる病気についてはあまり研究が進んでいなくて、男性がかかる病気についてはお金がもらえたりして研究が進んでいるっていう研究を以前見ました。そういうことからもわかるように、政治的にも女性については不可視化されたり削除されたりしているような印象を受けていたので、この映画については隠さずに全部描きたいという思いで作りました。


どちらもとても聞きたかったことで、特に後半はものすごく感動してしまいました。


体のかたちも境遇も感情も考え方もいろいろな女性たちがいて、これまで描かれてこなかったような彼女たちを描く映画がきっとあって、『同じ下着を着るふたりの女』もそんな映画だと信じています。


大阪では、7月7日(金)までシネ・ヌーヴォで、8日(土)から21日(金)まではシネ・ヌーヴォXで続映予定です!
ぜひ映画館で!ご覧ください。



『同じ下着を着るふたりの女』
2021年|韓国|139分|韓国語|カラー |1.85:1 5.1ch| DCP
原題: 같은 속옷을 입는 두 여자  英題:The Apartment with Two Women
字幕翻訳:根本理恵 配給:Foggy
(韓国公開 2022年11月10日)
監督・脚本:キム・セイン(長編デビュー作) KIM Se-in
プロデューサー:チョ・ガンシク、チョ・ソンウォン Joh Gunshick, Jo Seong-won
アソシエイト・プロデューサー:チャン・ジウォン Jang Ji-won
撮影:ムン・ミョンファン Moon Myoung-hwan
編集:キム・セイン KIM Se-in
美術:イ・ジョンヒョン Lee Jung-hyun
音響:パク・ヨンギ Park Yong-ki
音楽:イ・ミンヒ Lee Min-hwi
衣装:イ・ジへ Lee Ji-hye
メイク:キム・ソヒ Kim So-hee
出演:イム・ジホ(長編デビュー)、ヤン・マルボク (『イカゲーム』『#生きている』)、ヤン・フンジュ(『夏時間』)、チョン・ボラム


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