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映画監督・入江悠さんにインタビュー!:~映画とミニシアターと学生時代と~

こんにちは!映画チア部大阪支部の(タマ)です。
今回はなんと映画監督の入江悠さんにインタビューをさせていただきました!!監督作品も観ていましたし、しかも私たちが今夏に行ったシネ・ヌーヴォ支援Tシャツ企画ではTシャツを購入し、色々な所で実際に着てくださっているので、本当に嬉しい機会でした!
しかもこのインタビューの時もそのTシャツを着てくれていました…感動です…!心なしか、胸元の山崎さん(シネ・ヌーヴォ支配人)もいつもより笑顔のような気がしました。

という訳で、入江悠さんの学生時代や、ミニシアターとの関わり、シネ・ヌーヴォにて上映された『シュシュシュの娘』についてなど、たくさんお話を聞いてみました!
1万字超えの大ボリューム、是非最後まで!

(聞き手:そう、タマ)


チア部:まず入江さんの学生時代や、映画に出会った経緯についてお聞きします。入江さんが初めて観た映画や、映画と出会ったきっかけはどういうものでしたか?

入江:なんせ小さい頃なので作品名を正確には覚えてないですけど、地元(埼玉県深谷市)で映画の上映活動をしていらっしゃった方がいて、学童保育とかで観る機会を作ってくれてたんですよ。そうやって子供の頃に観てましたね。その方は今は深谷シネマの館長(竹石さん)をしてる方なんですけど。
その深谷シネマは僕が東京に出てから出来たので、小さい頃は近くに映画館は無かったんですけど、子供たちに映画を観てほしいと活動してくれた竹石さんのおかげで映画を観て育ったという感じですね。

チア部:学生時代に観て印象深い作品はありますか?

入江:中学校くらいの時に『ターミネーター2』を大きな映画館に観に行ったのはすごく面白くて、よく覚えてますね。
今ではCGが全盛で使われてますけど、当時はVFXが変わっていよいよリアルになるって時だったので、映画でこんなことが出来るのかってすごくショックを受けたんですよね。映画作りって面白いなぁっていう。

チア部:そこから映画監督を目指す道へと繋がっていったと

入江:そうですね、そこで映画っていうものを一ファンから、どうやって作ってるんだろうかって考え出したって感じですかね。

チア部:実は中学・高校では剣道に明け暮れたというお話を聞いたことがあるんですけど、どこから夢を映画監督に一本化したのか、またその決め手があれば教えてください。

入江:中学・高校生くらいの時に進路や将来を考え出した時に、サラリーマンとか満員電車に乗ったりとかは嫌だなと思って。なんか違う仕事で、あまり人に縛られずにできる仕事がないかなと思ったんですよね。
でも小説を書くのも難しいし、絵とかも才能ないし。何かないかなと考えた時に、映画だったら色んな人が関わってやる仕事だから、自分にそれほど才能が無くてもできるんじゃないかな、みたいな。今考えると大いなる勘違いですけど。

それで調べてみたら映画監督という職業があるらしいと知って、そこから監督を目指し出したんですよね。

チア部:ということは最初から監督志望一筋だったんですか?

入江:そうですね。その時はインターネットとかもあまり発達してなくて、あまり他の部門を知らないまま映画といったら監督だろうっていうすごい単純な志望動機で。カメラマンとか録音部とか、技術スタッフがいることもよく知らずに、監督という存在だけ知ってて目指したんですよ。

チア部:映画監督を目指したことで映画の見方は変わりましたか?

入江:やっぱりどうやって映画が作られているのかとか、どうやって撮影されて、編集されて、最後に繋がっていくのかということを大学生の時に意識的に見るようになりましたね。
もちろん映画ファンとしても楽しむんですけど、やっぱり裏側でどう作られてるのかということは意識するようになりました。

チア部:その過程で、入江さんに影響を与えた作品はどういったものでしょうか。

入江:高校生の時は黒澤明や岡本喜八に影響を受けましたね。大学生の時は溝口健二や成瀬巳喜男など昔の日本映画を見たり。あと当時まだご存命だったので深作欣二監督に会いに行ったりとか。日本映画が多かったですね。

チア部:すごいですね!深作欣二監督に実際に会いに行ったり!

入江:そうですね、もう『バトルロワイヤル』を撮り終わってかなりご高齢だったので、いま会わないとチャンスが無くなるんじゃないかと思って(笑)。学生だったんでね、馬鹿なふりして会いに行きました。大学に授業をしに来てほしいってお願いに行ったんですけど、2時間くらい説得して実際に来てもらいましたね。

それで、授業は最初2時間の予定だったのが、盛り上がって4時間くらいやってくれて。当時、真田広之さんもアメリカから日本に帰ってきてて、「深作さんが授業やってるなら僕も行きます」って言って飛び込みで来てくれました。
その時に深作さんに昔の映画作りの話を聞いたりとか、そういう生の声を聞きながら勉強してましたね。


チア部:こういうインタビューの時は好きなものとか聞かれることが多いと思うんですけど、逆に嫌いなもの(苦手なもの)って何かありますか?

入江:人混みとかですかね(笑)。1番嫌いなのが満員電車なので。満員電車に乗らなくていい生活がしたいと思って、会社員とかの道を最初から捨てましたね。普段は電車にも乗るんですけど、満員電車は避けてます。

チア部:僕らは今、大学4年生で来年の春から満員電車に乗る会社員になるかなぁという感じです。それこそ就職活動もしていたので、映画監督を選ぶというのはとても勇気のいる決断に思うのですが、自分は監督としてやっていける!みたいな確信や自信はあったんですかね?

入江:いや全然無いですよ。どうやって監督になれるのか不安で仕方なかったです。だから先輩に聞いたりとか。あと僕らの時は大阪芸大の人達が自主映画からどんどん羽ばたいていったので、そういう人から映画監督のなり方みたいなものを色々考えながらやってました。
でも結局ゴールがある訳じゃないので、20代の時はずっと模索してました。


チア部:先程、影響を受けた映画をお聞きしましたが、映画を観る以外で現在に影響を与えた学生時代の経験などありますか?

入江:大学が日藝(日本大学藝術学部映画学科)で映画を勉強するところだったので、プロの現場を見学させてもらったりとか、1番下っ端の見習いみたいな形で手伝いに行ったのは良い経験になりましたね。
あとやっぱり映画監督になりたい人がいっぱいいたので、友人とか先輩とか、そういう人たちと話せたのは今の糧になっている気はしますね。

どういう映画が好きかとか、撮り方が上手いとか、そういう話って大人になってくると話すことが少なくなってくるので、学生時代にいっぱい話せたのは良い機会だったと思います。

チア部:大人になると、それこそ監督になった今はあまり話す機会は少なくなるでしょうか。

入江:まぁ映画監督を志す人と接する機会も少なくなってくるのでね。映画監督同士で話す機会はありますけど、そういう時って純粋にあの映画が面白かったという話にはあまりならないので、やっぱり学生時代ならではかなと思います。

チア部:大学以前、高校生までは周りの友達などで映画好きは少なかったんですか?

入江:高校の時は全然いなかったですね。だから大学に入った時はすごい嬉しかったです、周りにこんなに映画が好きで、映画のことをずっと考えてる人がいるんだって。そういう環境に行けたのは良かったですね。

チア部:僕たちも映画チア部に入って、映画好きと出会って作品を共有できたりとても嬉しいです。
では高校までは1人で観て考えて、が多かったんですね。

入江:そうですね(笑)
単純にいっぱい観たくて、いわゆる名作というものを片っ端から観たりとか。レンタルしたりで。大学受験に失敗して浪人してた1年間はずっと観てましたね。ジャンルや国に関係なく何百本も。
誰かに感想を言うわけではなくて、単純に観たくて。その時の蓄積は今考えると財産になってる気がします。

チア部:色んな映画を観るとのことですが、好きなジャンルはありますか?

入江:昔から好きなのはSFですね。『ターミネーター』もそうですけど、僕が物心ついたときにすごいSFがアメリカからバンバン入ってきてて。ハリウッド大作っていうと大体SFだったりしたので。あと隕石が落ちてきたりするパニック映画とか。
そういう娯楽大作みたいなのに憧れる部分はありますし、影響を受けてますね。

チア部:確かに『AI崩壊』なんかもフォーマットはハリウッド大作にありそうなもので、その上で入江監督ならではの作品になっててとても面白かったです。

入江:ああいうのは10代の時に自分が観てて育ってモノに対して、今の自分がどうやって撮れるかなって考えながらやってるので。やっぱり10代の時の蓄積はすごい大きいんだなぁって感じますね。

チア部:では映画以外の経験も、若い時の蓄積が役に立つと感じた事はありますか?

入江:それはやっぱり色んな人に出会って、色んな場所に旅行に行ってというのは全部、自分の映画作りに活きてきますね。


チア部:ちなみにドラマや原作モノを手がける時に意識することはありますか?

入江:やっぱりドラマはCMがあるのが大きいかなと思います。映画は2時間ぶっ通しでお客さんは他のことを何もせずにスクリーンを見つめてくれますけど、ドラマはCMが入ったり、見る部屋が明るかったりで、集中が削がれるというのがあるので。
どちらかというと映画の方がじっくり物語を進めていける感じはありますね。

原作の実写化で言うと、漫画でも小説でもあまり変わらないんですけど、やっぱり自分が面白いと思った所、そのエッセンスだけを活かさせてもらって細かいディテールに関してはやっぱり原作と映画って違うメディアなので置き換えさせてもらったりしてますね。

チア部:原作ファンの意見って気になりますか?

入江:やっぱり漫画にしろ小説にしろ舞台にしろ、原作ファンの人がいて、そして僕が原作の面白いと思った部分とファンの人たちが好きな部分はそんなに変わらないと思うので、そこは裏切らないようにしたいと思います。

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チア部:『シュシュシュの娘』の活動などで、舞台挨拶などもたくさん登壇されたと思いますが、入江監督にとってミニシアターはどういう存在か、お聞かせください。


入江:いろんな取材などでも言ってるんですけど、自分が自主映画を最初に作って、たくさんの劇場で上映してもらったことで映画監督への道がひらけていったので、映画作家としては登竜門みたいな場所だし、なくなってたら自分が映画監督になれてなかったと思います。

チア部:単純に映画を観る場所というのはもちろんですけど、映画監督とかが育っていったり、羽ばたいていくという機能もあると思うので、ミニシアターの存在は大きいですよね。

入江:その通りだと思います。


チア部:舞台挨拶で全国を周っていて、ミニシアターならではの縁や繋がりを感じることはありますか?


入江:やっぱり行くとお客さんとの交流もありますし、映画館のスタッフさんとの交流もありますし、どういう風に映画を受けとめてもらえたかというフィードバックを貰えますね。そうすると次の糧にもなりますよね。

チア部:確かにミニシアターはお客さんとの距離が近くて、すぐに質問や会話が出来るというのは、お客さんにとっても(監督にとっても)大きいですよね。

入江:そうですね、それで観客にとっても作り手の姿が見えて、自分がその映画に対してここが良かったとか、ここがよく分からなかったとか聞けたりするので。そうやって映画の文化が発展していくと思うんですよね。
シネコンだと映画を観るだけで、なかなか質疑応答とかをする機会は無いので、やっぱりミニシアターがその機能を担ってますよね。

チア部:やっぱりそういう思いがあって色んなところへ舞台挨拶に立たれてるんですかね?

入江:そうですね。行くとお客さんがどういう風に映画を観てくれたか分かって、パンフレットにサインなんか書くと、自分はこう思いましたみたいに言ってくれるんですよ。それを映画館のスタッフの方も聞いてて嬉しそうに見てるみたいな。

そうやってコミニュケーションって生まれていくんですよ。で、やっぱりそうすると自分がこういう人間だというのが分かるんですよ、お互いに。お客さんも自分がこういう描写が好きだ、嫌いだというので自分が分かってきたりとか。
僕自身もこういう所は誉められたけど、ここはお客さんに突っ込まれたと。じゃあそれは果たして自分にとってどうなのか、みたいな。そういう深い所のラーン(learn)が出来るんですよ。

チア部:そう考えると、監督はもちろんお客さんも観る力を養うという育ちがありますね。

入江:はい、そういう意味で言うと、自分も学生の時は舞台挨拶やトークイベントに参加して、作り手の顔を見て、こういう人がこういう考えで作ってるのか、みたいなことはやっぱり少しでも吸収して、自分の糧にしたかったというのはありますね。

チア部:では学生時代に監督とかがいらしてる時は質問などを積極的にしてたんですか?

入江:いや、引っ込み思案だったので質問はしなかったですけど、やっぱりその場にいて話を聞いてるだけでもいいですしね。

さっきも言った深作欣二監督で言うと自分で呼んできたので、深作さんには「お前おれを大学に呼ぶんだったらおれの作品を全部観ろ」って言われて全部観たんですよ。
そうすると1人の作家がデビュー作からどうやって自分のフィルモグラフィーを作ってきたのかが分かるので、そうやって準備して1人の作家を追うってことをやっていくと、なんとなく映画の作り方とかキャリアの築き方みたいなのが分かってきますね。

チア部:確かにその人がどういう経緯で今に至るのかを知るというのは重要な気づきになりますよね。

入江:そうですね。あと今だとインターネットがありますけど、当時はあまりなくて。他の人と同じ質問をしたら恥ずかしいみたいな思いがあって、自分はこういう質問して、普段なら話さないことを聞き出してやろうみたいな気持ちがありましたね。

チア部:角度を変えて自分なりにということですね。ではその繋がりで、現在映画を作る時にも人と違うことをやってやろうという気持ちもあるんですか?

入江:それはもちろんあります。映画監督はいっぱいいるし、その中で撮り続けられる人は本当にひと握りなので、基本的には人と同じことをやっててもしょうがない職業ではあるんですよ。

一つの企画があって、それを撮れる人が何人もいるならその中で1番上手い人に企画が行くし、この監督にはこの監督にしか撮れない持ち味があるよねという人にはやっぱり行くんですよ、話が。だから人と同じことやってもダメな世界ですね。


チア部:『シュシュシュの娘』の制作で学生を募って映画を作られたというのが気になったのですが、改めてその経緯などをお聞かせください。

入江:のべ20人くらいの学生が参加して作ってます。それこそ京都から単身で来た女の子もいて、僕の地元に1か月くらい滞在して、美術や演出部、衣装などすごい活躍してくれましたね。小道具を作ったり、一緒にホームセンターに買い物に行ったり。

チア部:学生の立場でプロの現場を経験できるというのはとても意義が大きいし、何より嬉しいと思います。

入江:その子たちもコロナ禍で学校が休校になったり、アルバイトができないなどの状況で、映画の世界に入りたいけどどうやって入ればいいか分からないという状況だったので、コロナ禍が始まった年にそうやって自分で手を上げて見ず知らずのスタッフに混じって参加したというのは相当アンテナも高いですし、フットワークの軽さも含めてすごい学生たちだなと思いますね。

今もう卒業して映像の世界で働いている子も何人かいたり、自分で自主映画撮ってる子もいます。皆んな最初はプロと同じ仕事を要求されて戸惑ってましたけど、やっぱりそういう時に動ける子っていうのは根幹はすごい強いですね。

チア部:自分で志望して参加しているとはいえ、いきなりプロの現場に飛び込むのは大変なことも多かったはずですもんね。

入江:もちろん大変なことだらけでしたよ、全然映画作りを知らない子たちなので。どうやって撮影が進んでいくのかとか、カチンコって何なのかとか、そういう所からスタートですから。

チア部:ということは学生と一緒に、ひとつずつ教えながら制作していったんですね。

入江:そうですね。あとプロのスタッフも時々応援に来てくれたので、プロが撮影の合間に教えてたりとか。埼玉県のロケ地でずっと合宿してたので、夜に俳優さんがアドバイスしてくれたりとか、そういう形で作っていきました。

チア部:入江さんの学生時代と今回参加してくれた学生で、違いなど感じることはありましたか?

入江:僕は学生の時はそんな1ヶ月とかで飛び込めなかったので、全然今回の子たちの方がずっと勇気があるし、将来有望だと思います。僕が学生だった時ならすぐに逃げ出したと思うので、やっぱり尊敬しますね。

チア部:その学生たちともこれから一緒に仕事をする可能性もありますし、映画の世界に入った方もいるというのは嬉しいことですよね。

入江:嬉しいですね。若い子が入ってこないと活性化しないし、新陳代謝も生まれないし、どんどん入ってきてほしいんですよ。
そういう子で才能があれば、映画業界のこういう古い慣習って間違ってるんじゃないですかみたいに言ってくれたりして、どんどん変わっていけば良いと思います。

チア部:学生たちと長い時間を一緒に過ごすことで刺激をもらったりとか、入江さん自身どういう思いがありましたか?

入江:さっきも言いましたけど、自分が学生の時だったら飛び込めなかったし、コロナで社会が大きく変動してる中で、1ヶ月知らない土地で知らない人に囲まれてというのはとても勇気がいることだと思うので、やっぱりすごいと思いますね。

逆に僕らは普段プロのスタッフに囲まれて映画を作ってますけど、そういう作業というのは当たり前になってるので、『シュシュシュの娘』のように全く映画制作を知らない人と作った方がこっちも元気をもらうことが多いですし、未来に向けて何かを作ってるという感触も強く得られました。

チア部:学生への影響が大きいのはもちろんですし、現場プロの方たちにも刺激があれば良いことですね。
ちなみに撮影後もその学生の方たちとはコンタクトを取ってるんですか?


入江:もちろん。宣伝に協力してもらったりとか。撮影を経て、映画が完成してお客さんに届くという所まで見てどう思ったかを聞いたりして。
せっかく一夏参加した作品で、お客さんに届いてようやく映画の活動が完結するので、やっぱりそこを一緒に見るというのは後々重要な経験になると思います。

チア部:僕たちが言える立場じゃないですけど、学生の立場ではなかなかない経験が出来るすごいことだなと思います。

入江:ほんとにすごい学生たちだと思いますよ。去年の日本で応募に引っかかって来たのは、勉強が出来るとかではなく、人間力がすごい子たちだと思います。

チア部:今回、久々に自主映画で撮るのと、大作を撮るのでは体感的にどういう違いがありましたか?

入江:基本的には変わらないです。大作になってもお金がないってスタッフがぼやいたりしますし、自主映画もお金は無いので、そこは同じなんだなと。
ただ自主映画の場合はプロのスタッフみたいに細分化されてなくて、皆んな色んなことを兼業しなきゃいけなくて。撮影場所を借りる交渉を自分でやったりとか、映画に出てくる特殊なアイテムをプロなら分業で作っちゃうのを自主映画では皆んなで相談しながら材料合わせから作っていくみたいな。そういう作業が自主映画では多くなりますね。

だから1人ずつの人間力が大きく問われるといくか、鍛えられますね。

チア部:これだけやればいいというのでは完成まで辿り着かないというのは想像できますし、その分苦労も多そうですね。
今後も自主映画は撮り続けていくんですか?


入江:そうですね、舞台挨拶でミニシアターを周ってるんですけど、どこもお客さんがまだまだ戻ってなくて大変で。
一概にすぐには自主映画をまたやりたいとは言えないですけど、ただやっぱりミニシアターで自分のキャリアがスタートしたので、戻りたいという思いもありますし、自主映画を撮って全国を周ってると久々に再開するお客さんとかもいるので、この活動は定期的に続けたいと思いますね。

チア部:お客さん側としても、ミニシアター出身の監督が戻ってくるというのは喜ばしいことですし、昔のお客さんと再開するというのも貴重な経験ですよね。

入江:今回も京都みなみ会館で上映した時も、10年ぶりに自主映画に帰ってきてくれてありがとうと言ってくれたお客さんもいて、やっぱり喜んでくれる方がいるんだなぁとすごく勇気づけられました。

チア部:そういう交流もミニシアターならではですね。
過去には作品にまつわるユニークな割引キャンペーンなんかも行ってたそうで、そういう面白い試みもミニシアターの良さですよね。


入江:それらは映画館からの発案だったんですけど、ミニシアターってそういう風に各映画館で独自の取り組みをしてくれるんですよね。
地元の方に喜んでもらえる工夫をしてて、こちら側としても行くのが周るのが楽しいです。お客さんも一緒に盛り上がれて、そういう温かい場所でミニシアターって良いですよね。

今回も大阪ではお客さんも交えて即興でラップの披露があったり。そういう所で人生が変わる人っていると思うんですよね。一晩で今まで暗い気持ちだったのが、その日で大きなエネルギーを受け取って帰る人も絶対いるはずなので。

もちろんシネコンでも映画を楽しめますけど、ミニシアターに行くと誰かに会って、誰かの活動を見て、自分の人生が変わることが起こり得ると思うので、ミニシアターという場所がこれからの社会に大きな可能性を秘めていると思います。

チア部:そういう意味で言うと、やはり常連客だけでなく新しいお客さんに来てもらうことが必要になるということですよね。

入江:そうですね、やっぱり特に学生に来て欲しいんですけどなかなか来てくれないんですよね。
逆にお聞きしたいんですけど、なんでミニシアターに行かないんですかね?

チア部:そうですね…やっぱり周りの友達なんかを考えるとやっぱり配信サービスで観るという人は多いですね。
それと、作品の内容よりもシネコンで上映しているような人気で有名な出演者がいるというので観る選択をするというのも多いと思います。

あと、きっかけが少ないとは思います。友達をミニシアターに連れて行くこともあるんですけど、結局観たら観たで楽しんでくれるものの、ちょっとミニシアターそのもののハードルが高いというか、多くの人の日常に馴染んでいるものではない気はしますね。


入江:確かにシネコンよりもハードルが高いという感覚はあって、行き慣れてない人にとってはなかなか難しいかもしれないですね。行ってみると気軽に行けるというのが分かると思うんですけど。

チア部:僕自身も初めてミニシアターに行った時は少し躊躇するみたいなことはありましたね。

入江:でも映画監督になる人は大体そういう所に1人で行ってますね。シニア層の中でひとりで見てた若者が実は監督とか俳優になったりして。最初はそんなものかもしれないですね。

チア部:ミニシアターに学生や若い人を連れてくるというのは課題でもあるし、どうしたら良いかを考え続けていくことですよね。

入江:やっぱり10年後・20年後を考えた時に、年配の方だけてなく、今の学生や20代の方たちがミニシアターに行ってくれないとその先が無いと思うんですよ。
今から20代の方が行ってくれて10年後に30代とかになって仕事しながら映画館に通うというのが理想だと思うので。僕らも学生に来てもらうにはどうしたら良いかというのはいつも考えてますけど。そこのヒントが見つかるとミニシアターの未来が開ける気がするんですよ。

チア部:今はtiktokなんかでも若者に映画を普及するような活動もありますね。

入江:そうやって若い人たちにアプローチできるので良いですよね。
まぁでも本当に今の学生が1番自分たちの問題として分かってると思うので、皆さんが友達をどうやったら誘いやすいかなぁみたいにアイデアを出してくれるのが僕ら制作者にとっても、映画館の人にとっても大きな後押しになる気はしますね。

チア部:学生目線というのもありますし、若者から何かムーブメントを起こせたら、とは思いますね。なかなか人を引き込むというのは難しいと感じることが多いんですが…

入江:皆んなで観に行ったりしなくても、なんかあいつ映画館よく行ってるよねみたいな人がコミュニティに1人いるだけで、自分も行ってみようかなと思えたりしますよね。僕も大学時代そうだったので。
僕もそんなに頻繁に映画館に行ってた訳じゃなかったんですけど、すごいシネフィルの友達が(テオ・)アンゲロプロスの新作が来たとか、そういうので映画館に通ってる姿を見て俺も行ってみようかなみたいな。

ミニシアターって意外と1人で行く所だったりするのでね。でもなんとなくハードルが高いなら、そのハードルを下げてあげるきっかけができればいいですね。

チア部:身近な所からミニシアターに行く人を増やしていけたらいいですよね。

入江:そうですね。特にシネ・ヌーヴォさんとか行くとすごい文化的な場所じゃないですか、色んな映画の情報が詰まってて。一本観に行くと他の映画についてもたくさん触れられて。
そこで世界が広がっていくという感覚を覚えてもらえれば若い人にもハマってもらえると思います。

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チア部:特に大学生にオススメの作品はありますか?

入江:なんだろう…でも僕が深作さんを呼ぼうと思ったのは『仁義なき戦い』シリーズを観て先輩や同級生と盛り上がって、この人に会いたい!ってなって。
『仁義なき戦い』とかは大人になってから観ても面白いと思うんですけど、やっぱり悶々としてる学生時代に観るとすごい刺さると思うので、大学生に観てほしいですね。深作監督の五部作だけでも。

なんにせよ若い時に出来るだけいっぱい観た方が良いと思います。感受性だったりが10代後半と20代後半で全然変わってくるので。映画館じゃなくても、NetflixでもAmazonプライムでも、時間がある時にいっぱい観た方がいいですね。
やっぱり若い時に観てると後々あの時観ててよかったなとなってくるので。


それと今新しく始まった映画で、この監督好きだなという人を追いかけるのがいいと思います。同時代の監督を追いかけるというのはその今を生きている人の特権なので。
今しか見れない、味わえない、なんなら会いにも行けるし、その人の作品に出ることもあり得る。だから好きな監督を見つけるというのは映画の楽しみ方としては王道ですけど良いと思います。

チア部:確かに普段あまり映画を観ない人たちも、一つの作品ずつというよりそうやって監督などの繋がりをもって楽しんでもらうようになれば盛り上がるように思えますね。

入江:僕も若い時に小説家とかを、いろんなものを読むのもいいけど、1人の作家を追い続けてある程度の期間まとめて読むいいと勧められて、太宰治とか読みました。
そうやって読んでいくとその人の世界にどんどん入っていけて、この人はこういう思想の持ち主なんだなとか分かってくるんですよね。そういう見方・読み方は若い時にはめちゃくちゃ良い経験になると思います。


チア部:最後に学生に向けて、学生時代にしておいた方がいい経験などあればお聞きしたいです。


入江:それこそ『シュシュシュの娘』は学生のスタッフたちが支えてた現場なので、映画のホームページにも彼らのコメントが載ってますけど、時代がとても大変な状況になっても動こうと思ったり飛び込もうと思えば出来るんですよね。
面倒そうだなぁとか大変そうだなぁとか思っても、自分の人生なのでやらないで後悔するよりもやって後悔した方が絶対楽しいんですよ。

そして飛び込む勇気というのはいくつになっても尊敬できるものなので、大人は飛び込んできた子に対して絶対に否定はしないはずです。なのでもし何かやりたい事がある人は失敗を恐れずにどんどん飛び込めばいいと思います。
僕の現場にも大学生でインターンに来たいと行く子は毎回いて。それこそ『AI崩壊』みたいな大作でも積極的に来てくれる子がいてたり。10年後20年後にその子たちが映画監督やスタッフになったりとかした時に、彼らは自分の自伝に書けるようなネタを持ってるんですよ。
そういう思いきって飛び込むようなことをすれば人生が面白くなると思うので是非挑戦してみて下さい。

それに学生って特権的な時代で失礼なことしても大人が許してくれるんですよ(笑)そういうのにどんどん甘えて良いと思います。それは社会人になってない学生の時にしか出来ないことなので。
僕も深作監督を呼んだ時に謝礼をお渡しして、学生でお金もないし馬鹿だったので安いチェーン店にお連れして打ち上げをしたんですよ。社会人になった今そんなことを大監督にしたら怒られますけど、その時に深作さんが学生の皆んなと飲みたいってすごい喜んでくれて、僕が渡した謝礼を全部お会計で使って帰っていったんですよ。

だからそうやって大人は学生が飛び込んできてくれることに喜んでくれるので、どんどん大人に甘えてチャレンジしていけばいいと思います。




入江悠さんの監督作品や活動について、詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください!!


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