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ロケットは夢を乗せて

映画「遠い空の向こうに」

きょう2022年10月4日は、北朝鮮によるグアム到達を仮定した弾道ミサイル発射がありましたが、65年前の1957年10月4日は、ソビエト連邦により世界初の人工衛星スプートニク1号が打ち上げられた日です。これは、いわゆる「スプートニク・ショック」を世界に巻き起こしました。「遠い空の向こうに」(原題「October sky」)の主人公ホーマーも、ショックを受けた一人。この映画はホーマーと、彼とともにロケット開発に高校生活を賭けた高校生4人組の青春ドラマです。いわば、宇宙工学版「スタンド・バイ・ミー」といったところでしょうか。

ホーマーを演じるのは10代のジェイク・ギレンホール

ホーマーは、アメリカ東部の小さな炭坑町に暮らす高校生。お父さんは炭坑で現場監督として勤勉に働くサラリーマン、お母さんは専業主婦、お兄さんはアメリカンフットボールの選手で、大学から奨学金の内定を受けているという、50年代の典型的な家族像です。ホーマーはアメフトに興味がなく、かといって勉強も好きではなく、炭坑では働きたくないけれど、将来なりたいものもなく、気になる女の子はいても近づくでもなく、ぼんやりと高校生活を送っていました。ホーマーが変わるきっかけとなったのが10月4日の夜、スプートニクの飛ぶ姿を見たことです。彼は数秒間、夜空を横断した衛星の光線に魅せられてしまいました。(スプートニクの速度は地球一周96分。)ここに、この映画における主人公のスーパーオブジェクティブ「宇宙まで飛ぶロケットをつくる」が生まれます。
ホーマーは早速、友だち3人とロケットボーイズというチームを結成し、ロケット制作を始めます。最初のロケットは、大量の花火を使い、家の庭で発射して、お母さんから𠮟れます。ロケットの材料を調達しようと、廃線鉄道の線路を盗む高校生らしい行動がたまらなく可愛いです。

ホーマーのお父さん役はクリス・クーパー

ホーマーの夢を阻むのは大人たちです。お父さんはホーマーのすることをことごとく否定します。警察はロケットのせいで山火事がおきたとホーマーたちを逮捕します。高校の校長は、休学して炭坑で働かざるを得なくなったホーマーを「炭鉱夫は恥じる仕事ではない」と、平然と送り出します。
それでもホーマーはロケットの勉強を続け、仲間とともに試作を続け、ついには科学コンテストに出場します。会場には、ホーマーが敬愛するヴェルナー・フォン・ブラウン博士(弾道ミサイルの生みの親とされる科学者)の姿も。ホーマーたちは自らの努力で大学の奨学金を勝ち取り、ついにホーマーはNASA職員になります。

人物の描き方がうまいなあと思ったのは、お父さんのジョンです。ホーマーにとっては、やることなすこと否定されるし、お兄さんばかり可愛がるし、疎ましい存在です。いっぽうで、職場でのジョンは黒人の炭鉱夫を事故から救い、会社のリストラ要請に反対意見を述べる立派な大人です。ドメスティックバイオレンスを受けるホーマーの友だちを暴力から救ったりもします。「人間を描く」とはこういうことなのだという好例です。ホーマーは心の底ではジョンのことを尊敬しています。
クライマックスは、それまで主人公ホーマーのスーパーオブジェクティブへの最大の障壁だった二番目の人物ジョンとの協和です。空高く打ち上がるロケットは本来、夢を乗せ、夢を叶え、称賛されるべきものなのです。





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