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「武士の献立」鑑賞記録

美味しいもの食べたいなあと思って今日はこの映画をチョイスしてみました。料理を作るシーンだけで心は満足。その繊細な味を想像してお腹がぐーっと鳴りました…

「武士の献立」

料理上手の女中春が嫁いだのは加賀藩お抱えの料理人の次男坊安信。包丁より刀を好み、料理など女子供のするものだと言い放った生粋の武士。しかし、父の後を継ぐために包丁侍として生きる道を強いられ、反発しながらも春の料理指南を受けながら少しずつ料理や自分の生きる道と向き合っていく。

春は女中という身分ではありますが、繊細な舌とたしかな料理の腕を持つ、立派な女料理人です。だからこそ、夫の安信が包丁侍としての役目を全うしないことに、色々と複雑な思いを抱いていたのではないかと思ったりしたのですが、そうでもなかったのかもしれないと思いました。

夫の料理指南を買って出たところや、包丁侍として腕を認められていくことに心から喜ぶ姿は本当に健気だなと思いました。私だったら自分が料理人として生きられないことに不満を覚えてしまいそうですが、春はどちらかというと大切な人のために料理を作りたかっただけなのかもしれません。だからこそ、自ら嫁いだ家のごはんを作り、姑や夫に振舞っていた。そういった身近な人の喜ぶ顔が見たいというのが彼女の料理のゴールなのかもしれません。

そういった人物描写が非常に丁寧な映画だなと思いました。安信の武士として生きたい思いと包丁侍としての役割への思いがぶつかった時や、春とのラストシーンが非常に印象的でした。なんとも余韻のある映画だなと思いました。実直な料理人の性格がそのまま出ているような映画です。

また、料理のことだけではなく、時代背景についても触れられていたりするので当時のことを思いながら観ることができると思います。私は加賀藩の歴史についてはあまり深く知りませんでしたが、面白く観れました。

ここからはネタバレもあります。

安信と幼馴染の定之進は武士に生き、武士に散った男として描かれています。安信からすればそれこそ誇り高き武士の生き様というもの。しかし、春は安信に生きて欲しいと願い、行動した。しかしそれは安信の誇りや尊厳を踏みにじる行為でした。

こういった安信の葛藤がとても心に残りました。料理人の家であることにより、自分の生きる道を制限され、レールに乗って生きる人生。それは春が嫁いできた夜にも安信は口にしていました。今でこそ、職業選択の自由が守られていますが、当時は生まれた家で人生が決まってしまっていた。

しかし、彼は春と結婚し、料理と向き合いうことで大切にしてきた価値観が少し変わったのではないかと思います。死ぬことをいとわない、というのは残された者のことを何も考えない考え方です。安信は次男であることからも、無意識に自分の存在にコンプレックスがあったのかもしれません。しかし、長男を亡くした両親のためにも包丁侍となることが求められた。きっと長男の身代わりなんだと感じていたことでしょう。しかし、両親は彼が生きていてくれたらそれでいいときっと心のどこかで思っていたはず。親という立場から本音で話せなかったその思いを春はまっすぐ安信に伝えます。初めて安信は自分の存在価値を見出せたのではないでしょうか。安信は春に出会い、変わりました。だからこそ、春と最後まで添い遂げることを決意した。その選択が私にはとても美しく見えました。人間は変われるのだと信じられました。

最近、サスペンスよりこういう人間ドラマの方が考えさせられたり、深く刺さることが増えました。

それでは、また。

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