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【レポート #25】愛知県・東栄町長選挙レポート(2021 8.8)


 愛知県の北東にある東栄町。 この小さな町が全国的なニュースになり注目されました。  それが今回の東栄町長選です。 町の医療体制を問う “出直し選挙” でしたが、この選挙は東栄町の未来を決める重要な選挙でした。
 小さな自治体ならば少ない税収に合った運営をすべきか、それとも国や県を頼って町の発展にチカラを注ぐべきか。 選挙クラスタの間では国や県との「パイプ」という言葉を使う候補は総じて「アレ」な候補として断罪しがちですが、それが東栄町のような自治体においては必ずしも当てはまらないのです。 過疎化が進む小さな自治体が進むべき道は、果たして・・・


◆概要

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(東栄町役場)

・面積:123.38㎢(愛知県 第10位)東三河地方山間部の北設楽郡に属し、設楽町、豊根村、新城(しんしろ)市、静岡県浜松市と接する

・人口:2,977人(愛知県 第53位)※2021年7月末現在 愛知県で下から2番目に人口が少ない自治体(最も少ないのは北隣の豊根村)

・周囲を山々に囲まれた設楽盆地に中心街が形成されている。 町内には標高700メートルから1000メートル程度の山々が連なっており、町域の約93%は山林で占められている

“日本最恐の在来線” でお馴染みの飯田線の東栄駅が有り、南進すると新城市、豊川市を経て豊橋駅終点。 北進すると浜松市佐久間地域に繋がる

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(東栄駅)

・電車以外の公共交通機関としては北設楽郡の3町村共同運営による路線バス「おでかけ北設」が走る

・国の重要無形民俗文化財に指定され鎌倉時代から伝わる神事「花祭」が毎年11月から3月に催される

チェーンソーアート発祥の地と呼ばれ、毎年5月最後の土日に世界大会が開かれる

・衆議院は愛知県第14区に属し、

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今枝宗一郎(自民 3期)氏を選出


◆立候補者

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村上 孝治 (63) 前 三度目の当選を目指す
尾林 克時 (71) 元 元町長

村上 孝治(むらかみ たかじ)候補

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 村上候補は町役場職員、副町長を経て2015年に町長選に出馬し初当選。 現在2期目途中ですが今回任期途中で辞職し出直し選挙に出馬しています。(※そのため「現」ではなく「前」と表記していますが、実質「現職の町長」と認識して下さい)

尾林 克時(おばやし かつとき)候補 

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 尾林候補は町議を6期23年務めたのち2011年に町長選に出馬し初当選したものの2015年の町長選に落選。 2019年の町長選に出馬も落選し今回4度目の町長選に挑みます。


◆POINT① リコール(解職請求)を受けた「出直し選挙」

 この選挙は町長の解職を求める署名が集まり住民投票の実施が決まりながら村上町長が辞職し出直し選挙に打って出たために行われたものです。 リコール署名が集められた経緯から説明していきましょう。

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 こちらは町の南側、東栄駅から徒歩数分の場所に建つ東栄医療センター。  現在は町立の有床診療所ですが以前は「東栄病院」という名前で町民からもその名前で親しまれています。 1961年に診療所から病院になり一時は70床を備えて北設楽郡の基幹病院としては勿論、隣接する静岡県や長野県からも患者が訪れる医療拠点でした。

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(東栄町の人口推移 ※国勢調査より)

 しかし東栄町を含む周辺自治体の人口減による利用者減により収益は悪化。 赤字対策として2007年に公設民営化し合理化を図って最初の2年間は黒字に転換したものの更なる人口減の影響で再び赤字化すると、合理化で医師・看護師を含む病院スタッフを削減させた流れを止められないため体制を縮小せざるを得なくなり村上町政下の2018年に公設民営化による運営をやめて町営病院に戻し、2019年に診療所に転換し同年には救急医療を、翌2020年には人工透析を取り止めました。 2019年に町は町税収入とほぼ同額の2億8000万円を予算から繰り入れたが入院患者数が2015年の3割程度まで減った東栄医療センターは、施設老朽化や耐震性問題解消のための建て替え(2022年秋に開所予定)の際に入院できる病床を廃止し外来と在宅医療に専念する予定となっています。 建て替え案自体は2018年の時点で「東栄町医療センター(仮称)等施設整備基本構想」として計画されていますがそれを見ると入院病床の廃止は書かれているものの人工透析については「10床の継続」と書かれていますが現状は既に廃止されており計画は更に後退しています。 また計画案では新医療センターは2021年10月に開所予定と書かれていますがコロナ禍の影響で計画が遅れているようです。
 このような医療体制の縮小に反対する住民団体「東栄町をよくする会」は町長の解職(リコール)を問う住民投票(解職請求)を行うために町民の署名を集めた結果、住民投票が実施できる有権者(2,743名 ※2020年12月1日時点)の3分の1(908名)を超える953筆が有効と認定され住民投票が実施されることが決まりました。
 が、それを受けて村上町長は辞職し出直し選挙で町民の信を問うことを決意。 結果、せっかく署名を集めたのに住民投票は行われないコトになりました。 村上町長は住民投票から「逃げた」と言って良いでしょう。

◆POINT② 入院病床廃止後の医療体制は・・・

 2020年に人工透析を取り止めた東栄医療センター。 そこで治療を受けていた患者は他の病院に移ることを強いられました。 上記の記事で取材を受けた方は静岡県浜松市のクリニックに通われているそうですが、東栄町から最寄りの大きな病院は、

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