【レポート #46】長野県・阿南町長選挙レポート(2022 4.24)
レポート#41~#45で取材した自治体は “平成の大合併” で誕生したものの、市役所の新庁舎問題など未だに市がひとつにまとまっているとは言えない状況が総じて起きていましたが、このような問題は何も “平成の大合併” に限ったものではなく、半世紀以上前の合併で誕生した自治体でも未だに町がひとつになれない事情が有ったりするものです。
歴史的・地理的な事情から生まれる閉鎖的な雰囲気、それを打破すべく立ち上がった新人がどのように闘ったのかを、レポートします。
◆概要
面積:214.43㎢(長野県第19/77位) 長野県南部の下伊那郡に属する南端の自治体で、売木村、下條村、天龍村、阿智村、平谷村、泰阜村、愛知県豊根村と接する
人口:4,278人 ※2022年4月1日現在 県内50位台後半の規模。 2011年の4月1日に調査した人口が5,318人で、この10年で1,000人以上減少したことになる
長野県内では地方公共団体の町は「まち」と読むのが通例であるが、阿南町は唯一「ちょう」と読む。これは阿南町に近い東海地方において「ちょう」と読む傾向にあるため、その影響を受けたというコトらしい
1957年 、大下条村・和合村・旦開村が合併して下伊那郡阿南町が発足、1959年に富草村と合併し、改めて阿南町が発足
日本の盆踊りの室町時代の末期に始まった原型とされる「新野の盆踊り」と、1月に五穀豊穣を祈願する「新野の雪まつり」は国の重要無形民俗文化財にしていされている
「阿南警察署」は何故か天竜川を挟んで隣の泰阜村に建っている
町内にある阿南高校は、モノマネ芸人ニッチローさんの母校である
衆議院選挙区は長野5区に属し、宮下一郎(自民・6期)氏を選出
◆立候補者
石田 仁志(いしだ ひとし)候補
石田候補は阿南町出身で北条地区在住。 法政大学卒業後、会社員を経て神奈川県を拠点に小売業を起業。 2019年に帰郷し同年4月の町議選に立候補し初当選。 今回任期途中で町議を辞職し町長選に出馬。「新しいことや変えることを受け入れる」をスローガンに掲げ初当選を狙います。
勝野 一成(かつの かずなり)候補
勝野候補は阿南町出身で新野地区在住。 飯田長姫高(現飯田OIDE長姫高)で町政は2007年から副町長を務め、2014年に前町長が体調不良で辞職したコトを受けての町長選に立候補し無投票当選、4年前も無投票当選だったため選挙戦になるのは今回が初めてです。「次の世代につながる町づくり」を掲げて3期目を狙います。
◆POINT
①一度は不出馬を表明した勝野町長
勝野町長は昨年12月、高齢を理由に一度は不出馬を表明しました。 それを受けて石田候補が2月に立候補を表明したのですが、勝野町長の支援者は町長に出馬要請し続け、3月の立候補予定者説明会で支持者が 勝手に 自主的に参加して届出書類を持ち帰るなど 強引に 強力に迫った結果、「町の将来を本気で考え取り組んでいる人たちの思いを断ち切ることは不本意」と一転、立候補を表明しました。
何故支持者がこんなにも町長に出馬を促したのか・・・ それは阿南町の「歴史」と「地形」が大きく関係しているのでした。
②今も引きずる、阿南町の「南北問題」
概要で書いたように、阿南町は誕生したのが1957年で1959年に富草村を級数合併した自治体。 現在の規模になってから半世紀以上経過しているため地区間の問題は無いと思っていましたが、町を取材してみると如何ともしがたい地理的問題が有ると分かりました。
こちらが阿南町の地図。 1959年に合併した富草村は町の最北部にあたります。 町を国道151号が縦断していますが、町の真ん中あたりで道がゴニョゴニョしているのがお分かりいただけると思います。
拡大するとこのようになり、長いトンネルがあったり道がループしていたりして、どう見たって山道であるコトが想像できます。
実際クルマで走ってみてもこのような山道で、家屋ひとつ見当たりません。 こんな山道の南北は別の自治体であるコトがフツーなのですが、阿南町はその南北が同じ自治体として括られているのです。 なので山道を挟んだ南北の地区が “ひとつの町” としての意識を持つコトが難しいのが現状で、先ほど載せた「新野の盆踊り」「新野の雪まつり」は南部の新野地区で行われる祭りで長野県内でも結構有名なイベントなのですが、重要無形文化財にもなっている祭りなのに山道を挟んだ北側の地域は殆ど恩恵を受けないし祭りのムードも一切ないとのコト。 私も浜松とかに行く際に国道151号を通るので阿南町を通過したコトが何度か有りますが、てっきりこの山道で別の自治体に分かれているものだと思い込んでいたので、南北がひとつの自治体だと取材時に知って「こりゃ大変だ・・・」と驚いてしまったのです。
この状況を今回の選挙に当てはめたならば、新人の石田候補は町の中部の北条地区の人で、一転出馬を決意した勝野候補は南部の新野地区の人。 おそらく新野地区から町長を出し続けたい支援者が勝野候補に再出馬を強力に促したのでしょう。 これが、阿南町の “南北戦争” の真相です。
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