深海のお話/5.音を司る悪魔

  そろそろ寒いから、と出した炬燵に入り冷えた体を温めていたフランベリ達の元にやってきた悪魔。貴重な休憩時間を奪われたフランベリは少しイラッとしていた。「やァ、御機嫌よう?」
バサバサと音を鳴らしながら悪魔は言った。
「はじめまして、ミノウミの住民。ここでは初対面の人には自己紹介をすると聞きました。」
「僕は金谷 音羽。音に意味を持たせられる。」
「僕は金谷 輪廻。音の意味を消せる。」
『僕達は音楽の世界から来た悪魔。どうぞ宜しく、ミノウミの住民よ』

「...いきなりなんだい、君達...僕の昼休憩を邪魔しやがって」
「フラン、抑えて抑えて」
「ワード、此奴ら誰か知ってるかい?」
「...音、つったら...あれか、この前迷宮の奴等が言ってた異常物体についてた印...」
「ア、ご名答。あの印は僕達が打ったものだ」
「僕達が打ったものです。こういう印でしたでしょう?」
言いながら輪廻は空中に印を浮かび上がらせた。
「あぁ、そんな奴だ。僕が見たのはそれに丸が三つついていたな」
「ねぇキュート、何の話?僕もワードもついていけないよ」
「あぁ、フランとワードは出張中だったんだな。手紙が届いたんだよ、深海迷宮から。で、中身を覗いたら「最近の異常物体の中に印が打たれたものがある、別世界の誰かが打ったものだろう、君達も気をつけたまえ。カナデルの発電所の__十番目だったか、へラティカと言うのだが__アレは攻撃特化の者がやられてしまったらしい。」だと。印もここに書いてある。」

「...なるほど?で、そんな音楽の世界から来た君達が、僕達になんの御用なんだい?生憎暇じゃないんだ、要件なら手短にね。」
「僕達の要件はただ一つ。こちらの世界に落ちた音の欠片の事...知っていることを教えて欲しい。」
「音の欠片ってなんなの?僕達そんなの聞いた事ないよ」
「...音の欠片とは...僕達の世界、音の世界の「音」を保つものです。付喪神みたいなものですね、使われた楽器や楽譜、音そのものが欠片になるんですよ。こんなふうに」
音羽がポケットからしずく型の宝石を取り出した。
「...綺麗だね、とても。黒くて美しい」
「...黒、ですか。これを人は黒と言うのですね...兄様、これが黒らしいです」
「成程、これが黒なのか。ヘェ...」
金谷兄弟がフランベリの言った言葉を反復する。
「...君達にはどう見えているんだ?黒じゃないのか?」
「僕達には「色」の概念がないのです」
「僕達は色と呼ばれるものを全て「音」で表現するんだ」
「音...?」

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