オンライン授業の導入へのロードマップ  ~ゼロベースからの実践報告~


 コロナ騒動に伴って、従来の学校体制や教育体制がとれなくなり、全国の学校が否応なく教育方法を再編しなればならない状況に陥っていると思います。
 今回は、本校がオンライン授業の導入に際して、どのような経緯を辿ってきたのかを紹介することで、これから導入を考える学校や、それを先導される先生方にとって、様々な悩みを解決する一つのヒントになればと思い、一教員の目線から実践報告をしていきます。
 というのも、3月初めからの休校がさらに延長になると決定した4月、まだ本校は、オンライン授業の「オ」の字もない状態でした。そこから、何とか10日ほどでオンラインを活用して授業や学習を届けるまで至ることができた実践は、一つのモデルケースになれるのかなと考えています。本校の実践から、それぞれに取捨選択していただき、学校や子どもに合った教育の形、学習の形を作っていただければと願っております。
 第1節では、この取組の背景や問題意識について、第2節および第3節では、オンライン授業の導入への準備段階について、第4節では、オンライン授業の取組と学習状況について、それぞれ記述します。

1.はじめに

 4月3日、本校は5月10日までの休校延長を決定しました。その状況下で、何をすべきなのか。
 本校が、オンライン授業の導入に踏み切らなければならないと考えた理由(=オンライン授業に取り組む目的)は、以下の2点です。
① 学校と生徒のつながりを切ってはならない
  =学校と子どもがオンラインでつながり、
      学習面と心理面の両面でサポートする
② 学びを止めてはならない
  =登校できず家庭に生徒がいる状況で、
      オンラインで学習を継続できる環境を作る

 ここから、どうやって学校全体でオンライン授業に取り組んでいくか、初期の方向性としては、大きく以下の3点を設定しました。
① 本校公式YouTubeアカウントを作り、本校生徒への限定公開で授業動画を発信する。
 ※教科書や問題集に関する著作権の問題があったため、オリジナル教材を前提に動画を製作
② 学校ホームページに学年ごとの学習課題のページを作り、そこに動画URLや学習プリントを掲載する(ID、パスワードにて保護)。
③ メールやGoogleフォームを活用して、生徒からの問い合わせや質問に対応する。

 これを軸にしながら、校内への発信の準備を進めます。

スライド1

附属高校のオンラインシステム図

2.教職員自作の授業動画

 非同期の授業動画は、パソコンやスマホの画面の前に縛り付けることになるため、長時間の受講は生徒にとってはしんどくなります。なので、授業動画は長くて15分までと設定し、まず国数英3名の先生方にサンプルを作成してもらいました。
 授業収録は、『Explain Everything EDU(有料)』を3名とも使用され、すぐさま対応して作成してもらえました。上記のアプリは、画面上の動作が録画できる教育用アプリです。もちろん、このアプリがなくても授業動画は作成できますので、後に紹介します。

<4月6日>
 翌週の職員集合で、映像と音声つきの授業を体感してもらうと、興味を持ってくださる先生方が予想以上に続々と。『オンライン授業』というフレーズだけ見聞きすると腰が引ける感覚になりがちですが、やってみると「おもしろい」と感じる。知的好奇心を先生方も大いに持っていることが再確認できた瞬間でした。

 授業動画の作成方法は、大きく分けると以下の4つ。これは全教職員にも共有しました。
① 授業用ソフトを用いた方法 (e.g.)Explain Everything EDU
 ※授業用に作られたソフトで、作成や編集収録がしやすい。
② 手元を撮影し、プリントに書き込みながら音声を吹き込む方法
 ※プリントとスマホ等さえあれば、①と同じようなことができる。
③ パワーポイントに音声をつけ、動画にする
 ※既に作成済みのパワーポイント教材を活用できる。
④ 授業動画の撮影 (黒板の前での授業を教室で撮影)
 ※普段の授業の感覚でできるため、容易に導入できる。

 結果、休校期間中の学習課題として、各教科の学習課題を学年ごとに設定するとともに、教職員への発信(4/6)からホームページの立ち上げ(4/13)の1週間で、60本を超える授業動画を準備してもらうことができました。

画像3

画像4

3.学習課題の特設ホームページの立ち上げ

 平行して、学校ホームページに学習課題のページを立ち上げる準備を進めました。レイアウト・活用方法・セキュリティ等々、検討を進めました。
 セキュリティの保護については、ホームページ上のリンクにパスワードを設定し、本校生徒しか閲覧できないようにしました。YouTubeの授業動画についても、限定公開でURLを知らなければ閲覧できない形にする。関係者が情報モラル(ネチケット)を守れば、本校だけで完結できる体制をとりました。

 同時に必須となるのが、ネットワーク環境アンケートの実施です。各家庭のネットワークや使用機器の状況を知ることで、オンライン授業でできることが見えてきます。主な質問項目は以下の通りです。
 ・ホームページから課題を閲覧することができたか
 ・動画を問題なく視聴することができたか
 ・課題の確認や動画視聴で使用する機器は何か
 ・Wi-Fi環境の有無や制限
 ・Officeソフトを利用できる機器の有無
 ・メール送信の可否(かつ、添付送信の可否)
 事前に学校として把握できていなかったネットワーク環境について、書面およびホームページ上での誘導と説明の動画を用意して、『Googleフォーム』で回答させる形をとりました。

<4月14日>
 学習課題の一覧、ホームページの活用方法(ID・パスワード含)、ネットワーク環境アンケート、これらを家庭で理解し進めるための文書や情報(携帯大手3社が25歳以下の追加データ購入を50GBまで無償化にしている等)、学校としてその時点で提供できる物を、郵送で各家庭に届ける運びになりました。


4.オンライン授業開始~生徒の学習状況

<4月15日以降>
各家庭に学校からの郵送物が届き始め、アンケートへの回答や動画の視聴といった反応が見えるようになりました。その状況を記載します。

1) ネットワーク環境アンケート
 何より最初に取り組むように指示していたネットワーク環境アンケート。締切としていた4/17(金)の時点で、全校生徒513名中、407件(79.3%)回答。電話での個別対応や遅れての回答も含め、4/24(金)の時点で483件(94.2%)の回答がありました。ネット上での回答ができない生徒については、同時並行で学級担任からの電話で状況を確認し、課題への取り組み方も含め、個別対応をとりました。
 項目別で見ても、「① ホームページの閲覧可」は99.2%、「② 動画視聴可」は98.4%、「③ Officeソフト所持」は83.8%、「④ メール送信可」は98.6%(添付送信は81.7%)、等、本校の各家庭のネットワーク環境を大まかに把握することができました。

NAまとめ

2) YouTube動画の視聴回数の推移
 ホームページ上で課題や動画を確認できるようになって以降、最初の1週間は500~1200(回/日)ほどの視聴回数でした。その後、生徒の興味や課題提示のペースが落ち着くにつれ、300~400(回/日)ほどで推移を続けています。

YT回数

5.本章のまとめ

 ここまで書いてきたような経緯をもって、オンラインでの課題配信に取り組んできました。ただし、本校の実践や意思決定のプロセスが、あらゆる学校で、すべてそのまま導入できるわけではないでしょう。
 ただ、限られた財産しかなくても、教育、学習の歩みを止めてはいけない思いで、環境の整備を進めてきた『一つのロードマップ』として、参考にしていただければ幸いです。

 今を取り巻く状況に対応していくためには。考えることを最後に書かせていただきます。
 子どもに学びを届けるために、何ができるのか。
 オンライン環境や授業時間が極端に足りない状況で、
       何を子どもに伝えるのか。
 今までと違うスタイルで、今あるツールで、
       何ができるのか、何をすべきなのか。


 今後の投稿についてですが、3章構成で考えています。
 本章で、『オンライン授業の導入に向けてのロードマップ』を示してきました。
 第2章では、『オンライン授業導入への障壁と、その障壁のクリアのために』といった内容で、苦労したことを紹介するとともに、どのように前に進んできたのかを掲載する予定です。
 第3章では、『オンライン授業でデザインする、今後の展望』として、オンライン授業をするだけでなく、生徒が学習するための次の一手について掲載します。

 先行きが見えない社会、しかし雑多な情報が飛び交う社会。学校現場に求められることは多岐に渡り、そのハードルは低くないと感じます。学校が、地域が、官公庁が、手を取り合って、情報を共有し合って、乗り越えていきましょう。
 できる限り早く、次章の発信をしたいと思います。長文をお読みいただき、ありがとうございました。

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