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20230107_ナショナルシアターライブ『レオポルドシュタット』

作品概要

National Theater Live 『レオポルドシュタット Leopoldstadt』
作=トム・ストッパード by Tom Stoppard
放映日…2022年1月27日 ※ロンドン
シアター…ウェンダムズ劇場
上映時間…120分(休憩なし)

あらすじ

オーストリアのウィーンを舞台に1899年から1955年にわたり
戦争、革命、貧困、ナチス・ドイツによる支配、そしてホロコーストといった世界情勢に人生を弄される、とあるユダヤ一族の愛と絆の物語がつづられ、2020年1月にウエストエンドのウィンダム劇場で初演。

「National Theater Live in Japan 2023 - Leopoldstadt-」program

日本翻訳版、NTL版を鑑賞しての所感

NTL版を鑑賞後、「あれ?翻訳上演でこんなシーンやセリフあったかな?」というところも諸所あったので、改めて気になったところを上演台本を見直してみました。
翻訳上演時ですでに少し変更がかかっていた点もあったとのことなので、そこが気になったのですが、NTL版が「悲劇喜劇」2022年11月号の方が近いのか、違いを明確に確認することがあまりできませんでした。

もしかすると、演出上と演じた俳優の解釈の違いが如実に出ていたのかもしれないな。
私が気になった点は
・ルードヴィクの描かれ方…翻訳版はもっと書き込まれていた印象
・ヘルマン・ヤーコブの自死の描かれ方
でした。
私の記憶がすでに曖昧なのも大いにある(笑)ので、
「一緒だったよ!」って言われるかも。

演出面で各々おもしろかった点(俳優の個性や違いも大きい)は
【NTL版】
・ヘルマンが見た目、雰囲気ともに典型的な朴訥としたユダヤ人である点…なのにカトリックに改宗している。逃れられないユダヤ人っぽさが役に活きている
・ヘルマン/ルードヴィク/エルンストの3人の男性のそれぞれの立ち位置が浮き彫りになっている…ヘルマン(ユダヤからカトリックに改宗)他の家族と違いアウシュビッツには送られなかった。ルードヴィク(最初から最後までユダヤ)この彼の立ち位置がのちのレオの血の話に活きてくる。エルンスト(カトリックが多いウィーンにおいて少数派のプロテスタントではあるがアーリア人)彼は本来アウシュビッツに送られる必要がないのに自らこの家族と運命を共にした
・レオが「イギリス人」である自分や今までを語るときに起こる、客席からの笑い(英国っぽい!)

【翻訳版】
・回り舞台…時代が変わる場転を流れを途切れさせない演出が好きだった
・「ルードヴィクおじいちゃん」…翻訳版は精神的に病んでいく様子がよく描かれているものの、「愛すべきルードヴィクおじいちゃん」として愛らしくも描かれているので、第4幕と第5幕のナータンとレオの記憶に深く結びついている
・第4幕の陰湿さ(苦笑)
・ヴィルマの最期…翻訳版はNTL版ほどわかりやすくやってなかった記憶があって、その方がよかったかなと。

翻訳版とNTL版を見終わって、
やっぱり登場人物の関係性と名前がいっぱいなので頭フル回転でしたが、NTL版を観てより深く見れたのはよかった。何度見ても何かしら発見がありそう。
現代でいう「名誉白人」的な立ち位置のエルンストの誇りや屈辱や、抗えないユダヤ人としての性(さが)とか、
一見コミカル要素が多い第3幕がストッパード得意のメタ構造に近い描き方で、割礼で大騒ぎの家族と、そこにやってくるオットーとネリーとのやり取りのコントラストとか、
第4幕のグレートルの「あなた私がユダヤ人だったら結婚してた?」とか、第5幕のローザの「信仰の問題じゃないの」(翻訳版だと「どこで祈りをささげるかじゃないの」というセリフだった)の一言の強さとか…いろいろ。

一点、NTL版を見て、「なんで俳優の発話としてはヤーコブはジェイコブで、ナータンはネイサンなのに、字幕は意固地に『ヤーコブ』『ナータン』なんだろう?」と引っかかっていたのだけど、パンフレットを見たら謎が解けました!考え抜かれた翻訳。
それもこれも、「生半可は許さないぜ。やれるもんならやってみろ」という意思がひしひしと伝わるストッパードからの挑戦状に、日本の翻訳家やクリエーターが嬉々として立ち向かっているのだな。

現在の日本を含めて世界を見回したときに、この作品の中で起こっていることが地続きで、また同じことが繰り返されるのでは?という恐怖や不安も湧き出てくる作品です。2023年1発目から引き締まる思いがしました。

現在上演中のBroadway版

現在も上演中のBroadway版は演出はウエストエンド版のパトリック・マーパーなので、大きな違いはないかもしれないけれど、ストッパードの本の改訂は入っていそう。
あと、やっぱりNY(米国)は英国と日本ともまた違って、ジューイッシュのコミュニティが強いのもあり観客の受け止められ方が、強烈といえるぐらい異なるようです。
その観客のリアクションをぜひ見てみたいなぁ。
ちなみに、俳優が複数役を演じる組み合わせが結構異なるのと、ルードヴィク/ナータンをBrandon Uranowitzが演じているのはミュージカルファンとしても観たい!と思うポイントですね。

ストッパードの生い立ちとこの作品については「悲劇喜劇」や他の識者の方々が多く書かれているので割愛します。

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