くちびるの会『くちびるの展会2』を観た人間の切なさ

 2021年7月12日19時の回を観劇させていただきました。今の私にとって、めちゃくちゃグサグサ刺さりました。世知辛さと辛酸と、お話を「あるな~」と思ってしまえる人生経験をしていることの悲しさと…。感想のようなものを書いていこうと思います(ネタバレあります)。

くちびるの会HP


ーーーーー

あらすじ

1)「実家の兄弟」
関東にある、古い一軒家。
そこには、成人しても実家に暮らす2人の兄弟がいた。
4リットルの業務用ウイスキィを傾け、
流れゆく車窓の風景映像を見ながら、ゆっくりと夜を過ごす兄。
夜勤アルバイトが休みの弟は、
リビングにきて、スマートフォンを熱心に操作する。
兄は、兄なりの説教をかまし、弟は弟なりの反論をする。
気がつけば、話していないことが山ほどある。
「いつから、俺たちはこんなに他人になったのだろうな」
煮こごった間柄とありふれた状況が、哀しくも愛らしい男2人芝居。

2)「喫煙所のエレジー」
東京のどこかにある、オフィスビルの屋外喫煙所。
そこにたむろする男3人。見渡せば他人他人のこの街でも、
灰皿を囲めばちょっとした知り合いになれる。
何の変哲もない世間話にも、収入格差は薄い影を落として、卑屈な気持ちを刺激する。独り身のもの、家族がいるもの、新しい家族ができるもの。
彼らは一様にタバコを吸う。
「贅沢みたいになっちまったね、家族持つのも」
ため息まじりの副流煙が説得力を打ち砕く、
しっかりできない男たちの3人芝居。

3)「ガム・リムーバー」
池袋にあるビル清掃会社。
この、吹けば飛ぶような零細企業は小さなプライドで満ちていた。
領収書を整理しながら、足りない人員を探す社長。
事務所にポツンと置かれたガム・リムーバー。通称ガムリ。
今は、ガムを噛む人は少なくなったが、昔は大活躍だった掃除用具なのだ。ガムリ缶の錆が、「不必要なもの」とされてからの時間を物語っている。
社長はガムリ缶を手の平で遊びながら、ひとりごちる。
「次は俺たちの番かもなぁ」
流れる時代に、ぽつんと取り残された気分になっているのは、
この男だけではないはずの5人芝居。

公式HPより引用。

ーーーーー


 まず、舞台美術がとても勉強になりました。手前がプレイエリアで、奥に使わない舞台美術があるのですが、その区切りが秀逸でした。ただのパテでやってもいいところを、窓枠と、外の街並みを思わせるデザインのすだれで区切る、という…。あえて向こう側を見せる美術がとてもいいなと思いました。 
 また、話のタイトルが上手出ハケ口を隠す黒パテに投影されるのも、ただ演出の都合で黒パテを置いているのではなく、ちゃんと意味があって素敵だなと思います。なんだか、深夜にふとテレビを点けたらやってた短いドラマを観てるような気持ちになりました。

 一本目の『実家の兄弟』について。私は一人っ子なのであまり兄弟独特の距離感を体感したことはないのですが、みていて「うわ~この過保護でうざい感じわかるなあ」と思わせる説得力がありました。ほぼ他人になってしまっても、顔を合わせれば余計なことばかり言ってしまっても、それでも長い時間を共に生きてきてしまっていて、思い出や成長に触れれば「まあいいか」と許せてしまう信頼がある。兄弟だけでなく、家族というものはこうなのかもしれません。…喧嘩ができる、というか喧嘩慣れしてる家族ってなんかいいですよね、憧れます。

 二本目の『喫煙所のエレジー』について。もう、キャラクターがみんなキモくて大変でした。誰も褒められたもんじゃないな…。川島は憂さ晴らしを低所得そうで酒に酔っている人間にするし、後藤は碌にはたらかず子供は三人。村瀬は村瀬で奥さんが妊婦なのに帰ってもすることがないと言う。誰にも家族を大切にするとか、人の人生を預かる覚悟がなさ過ぎて、まじでバースコントロールちゃんとしろって思いましたね…(余談ですが、映画の『クワイエットプレイス』を観たときにも同じことを思いました)。そのキモさを感じさせるキャラクターにも、お芝居にも感動しました。

 三本目の『ガム・リムーバー』について。「ここはぬるま湯だから」という風間の台詞が、もう、グサグサに来ました。優しくて、いいよいいよ無理しなくていいよ、と言ってくれる人はとても良い人だし、労働環境としてはいいのかもしれないけど、自分の目指すところが違うなら、その環境に甘えてはならない。…わかってはいても、じゃあそこを出てどうするんだ、どうやって生きていくんだ、まだいいか、なんて賢くなった自分が辞めない言い訳を上手に見つけていく。そこで自分が半端に偉くなってしまったものだから、ぬるま湯の温度調節までできるようになってしまって、気づいたらもう何年も経ってしまっていて。
 私もこうなってしまいそうで、めちゃくちゃ怖くなりました。身につまされる、とはこういう時に使うのでしょう。

 総じてお芝居がとても真実味のあるテイストで、でもちゃんと伝えようとする舞台のお芝居で、こういうのもあるんだ、ととても勉強になりました。

 7月19日まで、下北沢のOFF・OFFシアターで上演しております!ぜひ!

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

瀧口さくら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?