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ロロ『ほつれる水面で縫われたぐるみ』、『とぶ』を観た人間の懐古

 2021年7月1日の回を観劇させていただきました。その際の感想を残しておきたいと思います(ネタバレ含みます)。

ロロ公演HP

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『ほつれる水面で縫われたぐるみ』
あらすじ

愛してやまないビニールプールが破けたのは4歳のころで、
母が破けたビニールをぬいあわせて愛してやまない熊の吾郎を
つくってくれたのは5歳のころ。
吾郎のお腹から真っ白でふわふわのハラワタが溢れ出したのは、たしか10歳か11歳で、ハラワタを筆箱にしまって持ち運ぶようになったのは13歳。
15歳で友達のためにつくったお守りあめにすり替わってたって気づいたのは17歳だったけど、そのときにはもうただの砂糖になっていて、それを溶かして学校の水を甘くしてやろうってプールサイドに立っている私はいま18歳。

『とぶ』
あらすじ

ぼくの懐かしさはあなたの懐かしさじゃない。
それをさみしいなんておもわない。
いつかの放課後、体育館で進路指導の先生が「私の夢は光合成できるようになることです」って言ったことを、あなたは覚えてない。
いつかの放課後、体育館で生徒会長が制服廃止をもとめて
披露した手品をぼくは覚えてない。
ぼくたちは、思い出を共有するためじゃなく、忘れたことを数えるためにいつまでもくだらない話を続けてるんだ、って気づくのは、
もっとずっと先のこと。
いまは、なにもわからないまま、さみしくなくて、体育館。

(公演HPより引用)

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 今作はロロの人気シリーズ「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校」略して「いつ高」シリーズの、なんとファイナルでした。今回の感想は、あくまでシリーズとしてというより独立したものとして書きます。

「いつ高シリーズ」HP

 いつ高シリーズの特徴は、高校演劇のルールに則って作られていることだと思います。上演時間は60分以内、舞台の準備片付けは10分以内などなど…面白いのでぜひHPをご覧ください。

 高校演劇を通った人間としては、いろんなことを思い出しました。

 舞台美術、小道具、衣裳、みんなで分担してめちゃくちゃ効率よく配置、プリセットしたよな~。とか。

 「は~い」のやけに間延びしつつ元気のいい返事、やってる学校あったな~。とか。

 台詞の言い方も、一つ一つがはっきりしてて、やけに自分の話する感じあったな~。とか。

 ぬいぐるみ喋らすの、既視感あるな~。とか。

 高校までの狭いコミュニティで育まれた独特な感性と、少ない友人の漫画のような会話って結構尊い青臭さなのかも。とか。

 そうした高校演劇の香りをさせつつ、でもやっぱりプロの劇団としてのクオリティや技術がビカビカに光ってました。

 ほつれる~の舞台美術は実寸大のプールサイドの一角。汚しやゴミの塊、きれいな金網などはめちゃくちゃリアルで、自分が高校生だったときにこれが出来てたらどんなに良かっただろう、と思いました。あのときは、予算も技術も人員も時間も、何もかもが足りなくて、あったのは演劇がやりたい気持ちだけでした。気持ちだけではどうにもならない部分ってあって、だから人間は妥協とか諦めを覚えていくんだな、と学んでしまったことを思い出しましたね。
 照明が昼~日没前くらいかな?変化していくのも印象的でした。宇宙に包まれる感じ、ノスタルジーですね。
 もしあれを高校演劇でやるなら、プールサイドは箱馬と平台で簡単に立てて、そのサイズの蹴込板を貼るくらいですかね…。穴は袖中になりそう。

 とぶは逆に、芝居の中で美術が完成していく。椅子と机を基本にしていて、あの窓枠とカーテンと扇風機なら、本気出せば多分高校生でも作れる。リアルに上演を考えるならこっちかな、と思います。サイキック運動部を高校生がやってるの、めちゃくちゃ観たいです。サイキックカバディとかサイキックオペ(手術)とかサイキック読書とかいろいろできそうですよね…。
 あと、ラストは風って大事だな、と思いました。アレがあるかないかで大きく印象が変わり、自分の思い出の中の教室の、その空間の温度や音、明るさや匂いをグッと想起させました。

 私が通っていた高校には制服がなかったので、今思うと制服っていいなあ、とも思いますね。まあ、通ってた時は1mmくらいしか思いませんでしたが。

 個人的なMVPはやっぱり、太郎ですね…。サイキックバスケ、バチバチに面白かったです。大真面目な顔して細かい動きがキレッキレ、パワー・スピード・テクニックだったらテクニックに振り切ってるタイプかな。

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 どんなにリアルだったとしても、大人のつくった高校生の輝きを、現役の高校生がやりたいと思うのかどうか、今の私にはもうわかりませんが…。それでも、高校演劇がもっと盛り上がることを私も祈っております。

 ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

瀧口さくら

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