読書感想文 坊ちゃん

この本を読もうと思った理由は、昨年読んだ「The chrysanthemum and sword」という本の中で、夏目漱石の「坊ちゃん」の一部分が引用されて日本独特の考え方である義理や恩について説明されていたからである。

義理や恩という言葉を日々当たり前に日常の中で使っているものの、その言葉の意味や背景を深く理解せずに使っていたことを反省し、日本の文化を深く知った上で正しく言葉を使えるようになろうという思いで本書を手に取った。


「The chrysanthemum and sword」は第二次世界大戦下におけるアメリカで、西洋の考えや価値観では行動や思考パターンを理解できない未知の脅威である日本軍を征服するために、ある文化人類学者に軍部が日本分析を要請して作成された本である。
日本の文化を西洋の文化と対比させながら、西洋の価値観から判断すると矛盾しているとしか思えない日本人の考え方を、様々な具体例を用いて矛盾を紐解いていく文章構造は流石としか言いようがない。
日本人の自分ですら、日本の文化や価値観をさらに深く理解することが出来た。


そして、冒頭でも説明した通り、本書「坊ちゃん」では、主人公である坊ちゃんを深く考察することで義理という考えの核心に迫ることが出来る。
親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている坊ちゃんが、様々な人間と衝突しながらも一貫して大切にしていた考えである。
義理という言葉を辞書で調べてみると、
「物事の正しい筋道。また、人として守るべき正しい道。」などと書いてあるが、義理という言葉を一言で表現することは非常に難しい。

本書における義理とは、坊ちゃんの大切にしている正しい価値観や人間関係を徹底して守り抜くことであるが、しかし一方で、坊ちゃんは勤めていた学校を喧嘩の末突然辞めるなど、義理を大切にしすぎるがあまり他者に迷惑をかけるという矛盾を孕んでいる。

本書は終始一貫坊ちゃんの一人称で書かれているため、坊ちゃんに対する矛盾を感じることはないが、もし自分が坊ちゃんと同じ学校に勤めている同僚であれば、野だや赤シャツがそう感じたように、「勇み肌の坊ちゃんで、神経に異常があるやつ」という印象を抱いたかもしれない。
そして、「坊ちゃん」を読んだことがある人の中でもそういう感想を抱いた人がいるかもしれない。

これは、第二次世界大戦時に、西洋の人間が日本人の義理の考え方を理解が出来ず、日本人は矛盾を孕んだ行動が読めない国民性であると考えていたことに似ている。
しかし、矛盾を感じる理由は義理という考えにこそあり、ぼんやりとしか表現することが出来ない日本独特の義理を理解することで坊ちゃんや、もっと広く言うと日本人に対して抱く矛盾も解消することが出来る。


この本は、「日本人が大切にするべき考えである義理とは何か」を学ぶ上で非常に役に立つ本であった。

人間関係が希薄になりつつある現代を生きる我々だからこそ、義理という考えをもう一度深く考え直す必要があり、本書を通して日本の文化についての理解をさらに深めることが出来る。

ぜひみんなも本書を手に取って、普段ぼんやりと使ってしまっている義理という言葉の意味を真剣に考えてみてほしい。


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