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英語の丁寧さと時制の関係:助動詞が生むコミュニケーションの深み

以前の記事で「時制と丁寧さの関係」について書きました。

そこで今日は、「助動詞と丁寧さの関係」について、お話しましょう。
助動詞と言えばcanとwillが真っ先に頭に浮かぶ人が多いのでは。そこでこの両者を「丁寧さ」の関係から見てみましょう。しばしお付き合いの程。

・canとは

canの用法は一般には①能力・可能「~できる」②可能性・推量「~でありうる、~のはずがない(否定文で)」③許可「~してもよい」④依頼「~してくれますか」の4つがあります。

そして、③と④のような状況において丁寧にしたければ過去形のcouldを用いるということは皆さん既にご存じでしょう。

例えば、許可ならCan I~?(~していいですか)よりはCould I~?(~してよろしいでしょうか)の方が、You can ask him.(彼に聞けるよ)ならYou could ask him.(彼に聞きたければ聞いてみたら)の方が丁寧でより控えめになります。

canの過去形couldの「丁寧用法」には、その根底に過去時制で見た丁寧さの原理があり、現実からの距離を置くことで、間接性が出て、話し手の意図や気持ちが遠まわしになり丁寧で控えめな印象を与えることになります。このような、現実から一段階隔たりを置いて、表現を断定的ではなく控えめにする手法は<依頼>、<許可>、<提案>などで日常的に使われています。

ところで過去のcouldを用いる文脈においては、その多くが仮定法とりわけ仮定法過去と関係があると言われています。大阪樟蔭女子大学名誉教授の柏野氏によれば、仮定法過去には以下の3つの用法があるとのこと。

1. counterfactual
 if節にbe, know, have, loveなどの状態動詞をとり、現在の事実とは反対の
 事柄を仮定
する。 

2. hypothetical
 if 節に動作動詞を取り、未来のありそうもないことを仮定する。

3. tentative
 提案などを控え目にし、発言を丁寧にする。 

一般には、事実に反することを仮定したり、実現しそうにないことを願望する時に仮定法を使うと学校では習いますね。その際、現在の事柄と関係がある時には仮定法過去を用いると教わるはずです。

しかし、その多くは1.のcounterfactualと2.のhypotheticalに焦点が当てられ、3.のtentative用法にはほとんど触れられないのではないでしょうか。そのため、実際のコミュニケーション場面においては、前者の1&2におとらず頻繁に使用されている実態が知られていないのでは。最後の3は、話し手が忠告・提案・依頼などを行うときにぶしつけになるのを避けて控え目に述べる用法で『丁寧用法』の一種だと考えられます。むしろ会話ではこっちの方が多いかと。

先ほどのYou could ask him.(彼に聞きたければ聞いてみたら)もまさにこの用法に相当する控え目な提案です。なお、これは元来、

          You could ask him (if you’d like).

であったものが、文脈により条件節のIf-節の部分が省略された形です。
このように仮定法過去の3つある用法の最後の3には「このような提案/依頼/忠告をしても実際にはそういう行動はしてもらえないでしょうが、もしよければ………….」と、聞き手がNoと断りやすくなる丁寧用法があることは学校でも対人コミュニケーションという観点からはもっと強調されてもいいかと。

なお、最後のtentative用法は仮定法と名づけられてはいるものの、提示の仕方が丁寧に響くというだけで直説法を用いたYou can ask him (if you want to).と意味的には同じで、実現の可能性が十分にあるという点で、他の2つの用法とは異なっているという考え方もできます。

さて、次にcanとくればwillを忘れるわけにはいきません。

・willとは


willは通常未来を表す時に使われる助動詞で、<will+動詞の原形>を用い「意志未来(話し手や主語の意志)」と「単純未来(話し手や主語の意志に関係なく未来に起こると予測される事)」があると学校では習ったと思います。

そして、前者には①現在の強い意志・固執・主張 ②現在の習慣的行為・習性・傾向 ③依頼が、後者には④現在の予測・推量の用法があるということも教わったのではないでしょうか。

その際、③依頼でwill you~?「~してくれますか」のwillを過去形のwouldにすることでより丁寧になるとの説明を受けたかと。この場合もcanの過去形couldと同じ原則が適用され、過去時制を用いることで距離が生まれ、現在形が表す直接性が和らぎより丁寧な響きが生まれます。

また、could同様wouldも仮定法と関係がありtentative用法があると考えられています。この点に関しCoates(1983)は次の例文をあげ、これは丁寧な提案に相当すると述べています。

If you feel you’d rather have a flat we will enquire but I think it would be cheaper for you to stay with somebody and you could spend the proceeds on taking us out to dinner.

この文中のit would be cheaper for you……も意味的にはit will be cheaper for you…….と同じであり、wouldが語用論的に用いられたケースで、丁寧でためらいがちな発話にみられるとCoatesは指摘しています。まさにcouldで見たような仮定法のtentative(試案的)用法がwouldにも存在していると言えるでしょう。

このようにwouldもcouldと同じように仮定法の用法と呼ばれながらも、その根底には過去時制による「間接性」から直接的な物言いを避け、丁寧な表現になるという原理が働いています。

助動詞であれ動詞の過去形であれ、遠く離れた距離感が、目前の生々しさから発せられる強さから一歩引いた感覚を醸し出し、それが「丁寧さ」につながっているという本質の部分で共通しているのですね。

ところで、依頼時に使われるCould you~? 、Would you~?どちらも丁寧な言い方だと習いますが、どう違うのでしょう。どちらがより丁寧なのでしょう。ここが今一つあいまいな人も多いかと。

Could you~? 、Would you~?の使い分けについては、could, wouldそれぞれの現在形であるcanが持つ「可能性(能力も含む)」、willが持つ「意志」としての意味合いを考えれば、その違いが見えてきます。

         Could you open the door?

なら「こんな状況で考えたとき、もし仮にドアを開けて欲しいと思ったら、開けてもらうことができるのだろうか?」となり、

         Would you open the door?

なら、「こんな状況で考えたとき、もし仮にドアを開けて欲しいと思ったら、開けてくれる意志はあるのだろうか?」といった意味になります。

つまり話し手が、相手の意志について問いたい場合はWould you~?「~していただけますか?」、可能かどうかの可能性の場合はCould you~?「~できますでしょうか?」のように原則使い分けられます。

そして使い分けの大きな相違は、Would you~?の場合、必ず「頼めば」相手がそれをやってくれる状況にいる場合です。お願いすればまずやってくれるということがわかっている時です。一方、Could you~? は、相手がやってくれるかどうかわからない時でも使えます。可能性を問うので、それでいいわけです。

そこからWould you~?は「相手の意志」を、Could you~? は、相手の領域に踏み込まずあくまで「可能性」を問うているということから、後者の方がより丁寧だと言えるでしょう。迷ったらCould you~? を使った方が安全かと。

というわけで、canとwillを使った丁寧さとの関係について少し話してみました。ふ~う。

柄にもなく難しい話をしたので、ちょっとコーヒーブレイクでも取りましょうか。今日は極上の濃厚プリン付きです。おいしいですよ。

※ 参考
Coates, J. (1983). The Semantics of the Modal Auxiliaries. London: Croom Helm.


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