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WAN 8/12(水)石上卯乃さんの投稿について【9/13追記あり】

 早いもので、WAN(ウィメンズ・アクション・ネットワーク)に石上卯乃さんの投稿が掲載されてから、もうすぐ1ヵ月が経とうとしています。今日から数日間、石上さんの投稿およびそれに対する反論投稿への個人的な感想や疑問点、気づいた点を記録しておきたいと思います。

 まずは石上さんの投稿について、その後の反論投稿であまり触れられていない部分を中心に取り上げていきたいと思います。

 私たちは、女性の権利や安全に関心があります。フェミニストです。そしてすべての差別がなくなり、みんなが安心して暮らしていける社会を求めています。

 冒頭部分で石上さんが何に関心を持っているのか明言されています。

 私はフェミニストを自認していませんが、女性当事者として、石上さんと同様に女性の権利や安全には関心があります。また、私は「すべての差別」の中には当然「女性差別」も含まれると考えますし「女性(female)の権利や安全を蔑ろにするフェミニズムは果たして『feminism』と言えるのか?」という疑問を持っています。

 ところが、私たちはなぜか、TERF(Trans Exclusionary Radical Feminist トランス排除的ラディカル・フェミニスト) と呼ばれるようになってしまいました。

 フェミニスト自認の方がいきなり「TERF」と呼ばれて戸惑う気持ちは私にも分かります。更に不思議なのは、「女性専用スペースの使用ルールを守ってほしい」と発言しただけで、フェミニストを自認していない女性までTERFトランス排除的ラディカル・フェミニスト)」と呼ばれることです。

 「ラディカル・フェミニスト」どころか「フェミニスト」すら名乗っていないのに、なぜ他者が「お前はフェミニストだ」と決めつけるのでしょうか。Twitterで性犯罪に抗議すると「ツイフェミ」とリプライしてくるアカウントがありますが、それと同様に侮蔑的な意味を持つ呼称なのでしょうか。

 しかも、自分達で一方的にフェミニスト扱いしておきながら「トランス女性を排除・差別するTERFはフェミニストではない」と言ってくるのも謎です。こちらは最初からフェミニストだなんて言っていないのに…。

 本題に戻ります。

 私たちは、トランスジェンダーの人たちとも、平和的に共存したいと思っています。ただほんの少しの場所、トイレや風呂、更衣室、レイプクライシスセンターなどのシェルターでは、安心して過ごせるように、安心・安全という問題意識を理解してもらい、どうすればいいのかを一緒に考えて欲しいと言っていただけなのです

 石上さんの投稿が掲載された後、「石上投稿はトランスジェンダー排除・差別である」という反論投稿がWANに多数掲載され、「トランス排除・差別か否か」という話が繰り返されましたが(これらについては後日感想を書きます)、石上さんの主張はここに書かれている通り「平和的に共存したい(排除・差別はしたくない)が、トイレや風呂などの女性専用スペースについてはどうしたらいいのか一緒に考えてほしい」であり、タイトルおよび冒頭部分と一致していると思います。

 「安全の側面から、女性専用スペースで私たちの安全を保障して欲しい」と表明することが、トランス差別に当たると、私たちは言われてきました。議論の焦点は多くの場合、トイレと風呂や更衣室であって、それ以外の「女性ジェンダーに割り当てられた公的空間」からトランス女性(MtFトランスジェンダー)を排除したいという話は、ほとんど聞いたこともありません。(お茶の水女子大学がトランスジェンダー女性を受け入れることになったニュースも、多くの人はかなり好意的に受け止めていたと思います)。

 ここでも同じ主張が繰り返されています。

 「女性専用スペースの安全とトランス女性を結びつけること自体が『犯罪者予備軍』扱いすることに繋がりかねず差別的である」という意見もありましたが、TERFと呼ばれた女性達の多くが懸念しているのは「身体で区分された男女別スペースのルールを解体されてしまうこと。その結果、女性専用スペースの安全性が低下すること」だと思います。

 「性別スペースは性器など身体の特徴で区分されているのではない」「『女性ジェンダー』に割り当てられた公的空間だ」「戸籍や身体が男性の人の女性専用スペース使用を禁ずる法律はない」などと、勝手に使用ルールを緩めるようなことを公言してもらっては困る、ということなのです。

 ちなみに私も、2018年7月にお茶の水女子大学がトランスジェンダーの受け入れを発表した時は良い取り組みだと思いました。その当時は充分な知識がなく「トランスジェンダー=性同一障害」と誤解していましたが…。
 そして、その後いろいろ調べるうちに「性自認等による法的性別変更の新法案」に繋がる布石だったということが分かり、現在は一旦、判断を保留しているところです。

 戸籍を変更して暮らしている「トランス女性」はもちろん、これまで女性として生きてこられたトランスジェンダーには、もちろん、女性トイレをはじめとした女性専用スペースを使って構わない、ただ、ペニスを付けた男性が女性風呂に入ることは、耐え難いのです、とネットで表明しただけで、「ペニスフォビア」だと罵られ、「ガールディック」「女根」「大きなクリトリス」「ただの小さな肉塊」を受け入れられないのは「トランス排除」だと断じられてきました。トランス女性(MtFトランスジェンダー)が問題なのではない、それに便乗する性加害者が問題なのだと言えば、犯罪被害を軽視したり妄想扱いしてくるような発言もありました。「性犯罪被害者がペニスが怖いなら、専門医にみてもらってやりくりしろ」などと、性犯罪被害者にも多くの非難が寄せられました。

 ここでも女性専用スペース(特に女湯)に限った話であることが書かれています。

 一般的に「男性器」と見做されるペニスを有する人の女湯利用については、MtF当事者である仲岡しゅん弁護士が、WANへの投稿で「特別な事情のない限り、建造物侵入罪の被疑事実で逮捕されるか、少なくとも直ちに立ち入りを拒否される可能性が極めて高い」と認めている通りです。

 それにも関わらず、ふぇみ・ゼミ×トランスライツ勉強会は、WANに送付した公開質問状の中で「身体的特徴によって性別が決まるのだと主張して、ミスジェンダリング(誤った性別割り当て)を煽動するとともに…」という言葉とともに「石上さんの投稿はトランスジェンダー排除・差別である」と批判しているのです。

 石上さんの問題意識や主張は一貫して「女性専用スペースのあり方」であり、論点は「男女別スペースの区分基準は身体や戸籍の性別か、それとも、性自認や性表現などのジェンダーか。(仲岡弁護士も認めるように)身体や戸籍で区分されたスペースであるならば、そのルールに沿った使用を求めることはトランスジェンダー排除・差別にあたるのか」ということに絞られると思います。

私たちが求めているのは、自由でオープンな議論です。

 よって、石上さんの投稿の最後の部分に書かれている「議論」の対象も「女性専用スペースのあり方」についてであるはずですが、なぜかこれを「トランスジェンダーの『人権』は議論するものではない」「『差別』をしていいか否かを議論するなんてあり得ない」と拡大解釈して、彼女を批判する人までいます。

 奈良教育大学副学長の三成美保氏が、9月1日付の朝日新聞のインタビュー記事で「性自認こそが性を決定する重要な要素だ」と述べ、今月中にでも「トランスジェンダーの法的性別変更のための新法案」を提言予定であることが報じられた今、「性別とは何か」「男女別スペースはどうあるべきか」という問題はフェミニスト学者を含む有識者間で冷静に議論・再確認されるべきであり、石上さんをはじめ女性専用スペースの利用ルールの急激な変化に不安を感じる一般女性を「差別主義者のTERF」と切り捨てて済む問題ではないと考えます。
 
 その後、WANに掲載された石上さんの投稿に対する反論投稿の多くは、「石上投稿はトランスジェンダー排除・差別である」と断定した上で、その差別への反対を呼びかけるものであり、「女性専用スペースのあり方」そのものには真正面から向き合っていないと感じます。

 明日以降、各投稿についての感想を書いていきたいと思います。

【9/13追記】

 石上卯乃さんの投稿に対する反論投稿の感想を書き始める前に、石上投稿のうち私が大事だと思うポイントをまとめておきます。

<石上さんの投稿の個人的な受け止め>
・トランスジェンダー(以下、TG)を排除しているわけではない
・フェミニストであり、女性の権利や安全に関心がある
・すべての差別がなくなり、みんなが安心して暮らせる社会を求めている
・TGの人たちとも平和的に共存したい
・女性専用スペースの安全について、どうすればいいか一緒に考えてほしい
・それ以外の場所でTGを排除したいという話はほとんど聞かない
・お茶の水女子大のTG女性受入れも多くの人はかなり好意的に受け止めた
・求めているのは(※女性専用スペースについての)自由でオープンな議論

 私は、石上さんの投稿を「トランスジェンダーの人々を女子大や社会から排除しているわけではなく、女性の権利や安全の観点から、女性専用スペースについてのみ一緒に考えたりオープンに議論したりしたい」という内容だと受け止めました。

 よって、石上さんの投稿に反論する場合は、女性専用スペースに限定して言及すべきであり、石上さんが既に「排除していない」と述べている女子大や社会全体にまで話を広げて「学ぶ権利の剥奪、社会的排除、人権侵害」などと批判するのは不誠実な対応だと思います。




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