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(雑記)線路は続くよどこまでも。

私の中学生の時の趣味は
近所の本屋で、時刻表の冊子を立ち読みすることだった。

時刻表の冊子、知らない人もいるかもしれない。

こーゆーやつ。タウンページ位の厚さ。

広告と季節の特集以外はただひたすら時刻表が載っているだけなのだけど、
永遠に眺めていられた。

この電車に乗れば何時に⚪︎⚪︎につく
何時に⚪︎⚪︎に特急が来るから、そこで乗り換える
そうすれば何時に⚪︎⚪︎につく
そしたら何時に急行がきてそれに乗って…

今みたいに時刻表アプリがない時代。
見たこともない、行ったこともない場所を、
ひたすら文字と数字(時刻)で追って、路線図を見て、
本屋の片隅で1人、こっそりと旅をしていた。

実家のある、小さな街から出たかった。
誰もが顔見知りで、自分のことを皆が知っている場所から離れたくて。
名前も知らないどこかの誰かになりたくて。
日常に閉塞感を感じると、1人本屋に行っては、ぼーっと時刻表を眺めた。

***

なにも変わらない、変えることのできない日常に、
とうとう耐えきれなくなった高二の秋、
部活をサボっていつもと反対方向に行く電車に乗った。
少し先まで行っただけなのに、見たこともない景色が広がっていた。

なんだ。どこにも行けないと思っていたけど、
どこかに行こうと思えば、行けるんじゃん。

そのあとから猛勉強を始めた。
一刻も早くここから抜け出したくて。
しかし親には下宿は無理と言われていたので、
家から通える範囲でできるだけ自分がやりたいことをできる大学を探した。

***

大学生の時、時刻表を持って、実際に旅に出た。
授業中、大学の生協で買ったポケット時刻表にラインマーカーで色をつけて
この電車に乗る、ここで乗り換える、って決めた。
(真面目に授業を受けなさい)

朝始発で出て、その日の夜は無事目的地だった広島についた。
その夜はインターネットカフェに泊まり、
翌日は早朝から起き出して、路面電車からのフェリーに乗って、宮島に行って、
厳島神社にお参りしたあと裏の弥山に登った。
山頂から眺める海がとても綺麗で、清々しい風が吹いていたのを覚えている。

そのあとは尾道からしまなみ街道をレンタルしたママチャリで爆走して、
食べたかったはっさくのゼリーを食べて、
最終的に京都に寄ってお寺めぐりをして帰った。

静岡が行けども行けども静岡(東西に長い)なのを体感したのも、
海に面した夢みたいな景色の駅を見たのも、
瀬戸内海がすごく透き通っているのを知ったのもあの旅だった。

広島はすごく遠い、新幹線じゃないと行けないところだと思っていたのに
青春18きっぷとポケット時刻表だけで1日でたどり着いた。

***

その時の気持ちを忘れていたんだと思う。

旅が好きなのに、最近旅に出ていなかった。
だから「私は旅が好きです」なんて、人様の前で言えないと思っていた。

理由をつければ大体同じで、
コドモガー
とか
ホイクエンノオムカエガー
とか
シゴトガー
とか。

つまんない言い訳。

単純に、会いたい人がいる、の気持ちだけで、
約10年ぶりに新幹線に乗って、大阪まで行ってきた。

東京と比べると、大阪は活気があって、
古い友人はなんだか明るく楽しそうに暮らしていて、
ずっと会いたかった人は、オンライン上の印象の通り聡明で、とても素敵な人だった。

忘れてた。
私は行こうと思えばどこへだって行けるんだった。

路線図を眺めて、切符だけ買って、電車に乗れば、
知らない街までゴトゴトと運んでくれる。
線路がないなら、歩けばいい。
自分の両足を使って、前に進めばいい。

もし足かせが生えてきて、外に出られない状況に陥るのであれば、
虎視眈々と機をうかがっておこう。
心の中に、いつでも時刻表といきたい場所のメモ書きを準備しておこう。

そっかそっか、忘れてた、忘れてたよ。
線路って続いてるんだった。

今回は、自分の大切な気持ちを思い出せた、旅だった。

***

線路は続くよどこまでも
野を越え山越え谷越えて
はるかな町まで僕たちの
楽しい旅の夢つないでる

旅の終わりのビールは美味い。


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