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私のアナザースカイ“銀座”

日本テレビの人気番組『アナザースカイ』が終わってしまうと言いうニュースが飛び込んできた。
この番組は、有名人が思い出の場所を紹介する旅番組。
以前は海外がメインだったが、コロナ禍になってからは国内の名所やグルメなどを訪ねていた。
しかしいつ収束するかわからない現状を鑑み「この番組を続けていくのは厳しい」と判断されたようだ。

遊んでいた私をアイツは見守っていた

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そんなニュースを目にし、「果たして私の『アナザースカイ』はどこだろう?」と考えてみた。そして思い浮かんだの東京・銀座。
映画会社に勤めていた頃、銀座は毎日通っていた。
そして帰り際「どこか遊びに行こう?」と言うときも、「食事をしよう」と誘われた時も、場所は銀座だった。20代だった私は、本当は「渋谷や新宿がいいなー」と思ってはいたが、こちらは連れていっていただく身。
上司や脚本家の先生のお供をしている間に、私も“銀座”の魅力にはまった。
小娘が絶対に入れないような銀座のクラブや、高級なご飯屋さん。それだけではない。カエルや、生まれたばかりのネズミをはちみつでおぼれさせた珍味もこの街で知った。

「銀座は高い」と言うイメージがあるが、当時、私たち若者でも気軽にいけるような敷居の低い居酒屋や、レストランも銀座の奥にはいっぱいあった。
そして銀座の夜明けは、カラスが多いことも私は知っている。

とにかく晴れた日も、雨の日も。イケている時も、そうでない時も、私は三越のライオンの前を闊歩していた。
あれからかなりの時間が流れ、会社も辞めて、銀座には行かなくなった。
が、『アナザースカイ』の終了が引き金となり、記憶の糸を手繰っていたら、急に「銀座」が恋しくなった。

アイツはマスクをしているのだろうか?

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さらに女優で現在は「不二家」の社外取締役に就任した酒井美紀さんが、ある番組で「不二家のペコちゃんは今、マスクをしています」と語っていた。
ペコちゃんと言えば、数寄屋橋の顔。ライオンとはわずか数十メートルしか離れていないところにいる。そのペコちゃんがマスクをしている。
ならば余計に銀座の交差点にいる、あいつもマスクをしなければ失礼にあたる。
ペコちゃんに比べて、無表情で武骨なだけに、マスクをするのを嫌がっているかもしれない。そんなことをあれこれ考えていたら急に心配になり、銀座線に乗っていた。

ムスッとしたヤツはマスクをしていた。
でもいつもの場所に鎮座しているものの、ますます不愛想に見える。
このご時世、マスクをしていないみんなに受け入れてもられない。
とりあえずよかった、よかった。一安心だ。

銀座を歩けば……

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せっかく銀座に来たのだ。
ここはちょっと「銀ブラ」をきめこもう。
早速、四丁目の交差点に立つ。
うーん、なんか違和感がある。
なんと「NISSAN」のビルが、ガラス張りになっていてハイカラになっているではないか⁉
24時間テレビの中継地でもある「日産ギャラリー」は、「NISSAN CROSSIN」と名前もハイカラになって生まれ変わっていた。
しかし「和光」、「三愛」はあの時と変わらない佇まいだ。ちょっと嬉しい。

晴海方向に歩いてみた。
「歌舞伎座」の面構えは変わっていない。が、実は後ろに見える高いビルが心臓部。さみしいが仕方ない。

かわらないソウルフード

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そうだ、歌舞伎座と言えば、「歌舞伎そば」はどこにいった⁉
「歌舞伎そば」をご存じでない方も多いと思うが、価格と店構えは立ち食いそば屋。しかし揚げたてのかき揚げと、そばの味は絶品。コスパ最強のファストフード。
私も会社員時代は、よく通った。
お財布に優しい上に「うまい」。

「歌舞伎そば」は無くなったのかと歩いていたら、歌舞伎座の裏手に「歌舞伎そば」の暖簾を発見。
「うーん?」と恐る恐る中に入ってみると、10席満たないカウンターの席は超満員。自動販売機でメニューを確認すると、「もりかき揚げ」があった。
カウンター越しでは、おばさんが手際よくかき揚げをあげている。「これは間違いない、あの歌舞伎そばだ!」という興奮を抑え、さっそく実食。
「この味! よくぞ、生き残ってくれた!」と、心の中で拍手をしながらズルズルッとそばをすすった。

今も昔もあの場所にあるあの風景

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昭和通り沿いにある「改造社」。
大正から昭和中期の出版社として有名だったが、現在は洋書や外国語新聞が並ぶ書店。チェーン展開する飲食店に囲まれながらも、いまだにいい味を出して頑張っている。
私が大好きだった上司もこの店のファンで、よく本を買いに行っていた。
帰ってきたその手には、三越の小さな袋が必ず揺れていた。
「おやつだよ」と言って、お菓子を差し入れしてくれたっけ。

さらに斜め前の老舗カレー屋「ナイルレストラン」には、数人の行列ができている。
「そうだよね、ムルギランチは並んででも食べたいよね」と思いながらも、すでに歌舞伎そばで私のお腹はパンパン。この味は次にまわそう。

この街は、大きくかわったところもあれば、かわらない風景もあった。
久しぶりの「銀座」を歩きながら、昔のあれやこれやを思いながら少しの間、時間の流れに逆らってみた。
そしてこんな魅力的な街の、本当の楽しみ方を私に教えてくれた“粋な大人たち”は、もうほとんど鬼籍に入っている。
みんな、元気だろうか? あと半月もすればお彼岸だ。


懐かしい顔を思い浮かべながら、銀座三越前のライオンに向かって「ここが私のアナザースカイ」と語ってみたが、ヤツはニコリともしなかった。

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