体育会系運動部における鉄拳制裁はアリか?

いきなりシリアスな内容ですが、こんなニュースを目にしてしまったので。もちろん、こういうニュース、これが初めてじゃないですよね。最近ちょくちょく目にします。

暴言、暴力での指導。パワハラ。おそらく内部告発でしょうね。この件ではないですが、証拠の動画までニュース番組で取り上げられているケースもありますね。

ニュースのコメント欄の反応はおおむね「時代錯誤だ。なにやってるんだ!」というお怒り派と「昔はみんなそうだった。最近の子供(親)はデリケートすぎる」というお嘆き派に分かれるようです。(それ以外の意見ももちろんありますよー。だいたい、です)

私が保護者の立場で思うことは三つです。

まずひとつめは、

子供の安全を守るためには、いたしかたなく手が出る場面がある

スポーツの中には危険をともなう練習があり、「ここで気を抜いたら、命にかかわる重大な事故が起こる」あるいは「障害が残るような大けがを負う可能性がある」ような場合に、とっさに止めなければならない状況がある。その場合は「暴力」や「パワハラ」とは切り離して考えなればいけない、と思っています。

以前に体操の女子選手がコーチからパワハラを受けたのでは、という疑惑があったとき、選手本人が会見を開き「高い鉄棒での練習中で、気を抜いたら選手生命を失うような大けがをする場面だった。たしかにコーチに叩かれたし、感情的に怒られたが、それがパワハラではないと理解している」という趣旨のことを話していました。

我々親だって子供の乳幼児期などに、子供がいきなり煮えた鍋に手を突っ込もうとして、あわててひっぱたくようにして手を振りはらったり……。あるいは突然車道に飛び出してしまい、思わず襟首をつかんで引き戻したり……。そういうひやっとした経験があり、思わず手を出してしまったこともあるのではないかと思います。(というか私はあるんですよね。うーん。私はあまりいい親ではないのかもしれません……)

その場合、子供の安全を確保するために思わず指導者が手を出してしまう。ことの重大さを思い知らせるために、強い言葉で叱責する。

それは暴力、暴言ではなく「危険からの緊急避難」です。

ふたつめは

しかし、前述した以外の場面で、暴力、暴言での指導があってはならない

だめ、絶対。

なぜか。

これ以上、死人を出してはいけないからです。

「指導死」という言葉があります。部活で厳しい指導に追いつめられて死を選んでしまった子供が今までに何人もいるのです。

「最近の子は貧弱」かもしれません。でも、心が弱くたって、根性なくたって、性格がちょっとアレであったって、死んでもいい子はひとりもいません。

かつて、強豪バスケットボール部の主将の男子生徒が、監督に追い詰められて自殺した事件は衝撃でした。その監督は、生徒の葬儀の場で「切腹して自分も死ぬ」と言ったそうですが、今更反省したって子供の命はかえってきません。

誰でも命はひとつだけです。親にとっても、「代わりの子」などいるはずがありません。

以前にネット記事で、一度野球部をドロップアウトした子のための草野球チームがあることを知り、そこに通う子供たちの体験を読みました。

それもなかなかに壮絶で、一度は強豪校の野球部で頑張っていた子が、寮から実家にいる父親に電話をかけて「いますぐ最寄り駅まで迎えにきて。でないと俺、死んじゃう」と訴えたそうです。あわてて父親が連れ帰ったので、自殺はしなかったけれど、高校はそのまま中退。そのあとも、集団の中に入っていこうとするとパニック発作が起きるようになり、療養生活を余儀なくされたというのです。

どんな大義があっても、命を奪ったり、子供の将来に不安を残すような指導をしていいはずがない、と私は思っています。

あと少し補足すると、「最近の子は経済的にめぐまれてるから」「ゆとり世代だから」というコメントも散見しますが、ゆとり教育はとっくに終わってますし、昨今の親の世代は「バブル崩壊後に就職した、不景気の辛酸舐めた世代」が多く、むしろ子供の貧困は深刻な社会問題になっています。

なので、暴力暴言に対しては、積極的に告発して「その指導、ちょっとまった!」と声をあげられることが大事だと思います。そしてスクールカウンセラーなど第三者を入れて聞き取り調査などをしっかりして、「本当に不当な暴力があったのか」「今後生徒との信頼関係が修復できそうか」などを慎重に判断して、指導者が続投できる可能性も残していけばいいと思っています。

最近の子は弱い、とは私は思いません。むしろやたらと我慢できちゃう子が多いのではないかと思っています。「なんでもっと早く言わなかったの?」と言われるところまで我慢してしまう。自分さえ黙っていれば、と心が壊れてしまうまで、じっと耐えてしまう。

親と指導者は、その限界をきちんと見極めることができるのか。

絶対の自信がないのならば、取り返しのつかない事態を招くリスキーな指導はしない、それが妥当だと思います。

そしてみっつめは

指導者の立場や報酬を、もっとちゃんとしませんか

最初にあげたケースではサッカー部の監督が「副校長」になっているそうなんですが。

えーと、そもそも「監督」とか「コーチ」ってなんですか?

学校での立場はなんですか? 学校の職員なんですか? それとも外部から派遣されている人ですか? それともボランティアで子供たちにスポーツを教えてくれる人ですか?

たぶん、このあたりは学校の事情によっていろいろな契約になっていると思います。(中学校などでは地方自治体が主体になって契約しているところもあります)

学校の先生が顧問や監督を担っている部活も、もちろんあると思います。その場合は間違いなく学校職員です。

「外部指導員」いわゆるコーチです。私の調べたところでは謝礼は時給換算でだいたい2000円程度。大体の自治体では有償ボランティアという扱いです。報酬に上限が設けられている場合もあります。

「部活指導員」これ、新しくできた制度なんですけど、顧問の先生に代わって、試合や遠征の引率ができるんです。謝礼も時間あたり4000円~5000円くらいになります。

「ブラック部活(部活指導が大変すぎて教員の就業環境が酷くなってきている)」という批判を受けて、新しく作られた制度のようです。

もし、この指導員の人が、学校の臨時職員として契約していた場合、引率の途中で事故があった場合、学校の先生と同じ傷害保険が適用されます。しかし、あくまで学校外部の指導員ということであれば、別途保険に入らなくては保障がないということになります。

もちろんこのあたりの契約を指導者としっかりしています、という学校もあると思いますが、結局のところ学校の予算と状況に応じてまちまち、というのが現状ではないでしょうか。

部活の現場で問題が起きたときに、校長や教頭が監督、指導できる立場にあるのか。保険の形態はどうなっているのか。

保護者のほうも、少ない報酬でボランティアとして来てくれている指導者に向かって「スポーツの指導者ならこうあるべき」とか「なにかあったら責任とってくれますか」なんて話を詰められるのか。正直、微妙だと思うんです。

うちでは息子が中学生になり、運動部に入りました。毎日のように練習があるので、部活の先生とは担任よりも長く一緒にいるのではないかと思うほどです。そこまで長い時間、子供たちの安全を預かっている方々の身分と報酬を、学校単位ではなく自治体や行政で見直して、もっときちんとしてくれませんか、と切に思うのです。

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