子供たちがスポーツと出会う場所

誰でも参加できる早朝サッカー

 以前、noteに少し書いた小学校の「早朝サッカー」について書きます。

「早朝サッカー」それは、授業が始まる45分くらい前に自分のサッカーボールを持って学校に行くと、先生がサッカーを教えてくれる、というものです。

 教えていた先生は、児童たちに地道な反復練習で少しづつ上達していく喜びを上手に実感させてくれる先生でした。たくさんの子が参加していました。(この先生との出会いは「上達とは自分の可能性に気づくこと」に書いています。よければあわせてお読みください)

 今から三十年くらい前の話です。

 その頃、小学生男子たちはみんな好きなプロ野球チームのキャップをかぶっていて、学校の机のフックには、休み時間に手打ち野球をやるための柔らかい小さなボールが挟まっていました。

 早朝サッカーが始まって2、3年たつとそのボールは、だんだんとサッカーボールの入ったネットに代わっていきました。サッカーのほうは女子も受け入れていたので、それこそクラスの三分の一くらいが、いつのまにかサッカーをやっている状態に。

 そこまでくると先生がなにか言わなくても、子供たちが自発的に誘い合います。

「君はサッカーやらないの? 〇〇ちゃんも来てるし、〇〇ちゃんもやってるよ。一緒にやろうよ」

 やがて校庭が狭く感じるほどの人数が集まるようになりました。

 ところが数年後、その先生が区内の小学校に異動になってしないました。公立校の宿命ですね。

 早朝サッカーはここで終わってしまう。みんなそう思いました。

 ところが、代わりにやってきた先生は体育の先生で、この活動をそのまま引き継いでボランティアで子供たちにサッカーを教えてくれるというのです。

 ここで、学校も動きました。

(私は当時子供だったので詳しくはわかりませんが、おそらく学校とPTAで持続可能なかたちにしようという動きがあったと思われます)

 活動時間のスポーツ保険にきちんと加入し、参加する子供は事前に申込書と親の同意書、保険料(数百円ですが)を提出する形式になりました。

 そのうち上手な子が育ってくると、試合にも出たくなります。

 そこでやっとスポーツ少年団として小学校を拠点としたサッカーチームが立ち上がります。

 私はその頃にはもう小学校を卒業し、中学生になっていて、団員募集のポスターが電柱に貼ってあるのを目にしました。写真には揃いのユニフォームを着た子供たちが映っていて、立派なチームになったんだなあ、と感動しました。

 少しだけ気になったのは、その写真には女の子がいなかったこと。早朝サッカーのときには女子もいたのに。チームとして発足するときに、たくさんの女子選手とは別れてしまったのだろうか、と思いました。

 私が中学二年生になった年、中学校の理科の先生が「男子サッカー部」を立ち上げました。その先生はもともとサッカーが大好きだったようですが、小学校から上手な子がたくさん進学してくるので驚いたようです。

 ひとりの小学校の先生の取り組みが、やがて地域に小学生チームをひとつ作り、中学校にサッカー部をつくる。

 最初に種をまいた人はもうこの地にいないけれど、その精神を受け継ぐ人がいて、続けたい子供たちがいて、その熱意を支えてくれる人たちがいる。

 Jリーグが立ち上がったのは私が高校生になった年です。Jリーグの成功には、メディア戦略や、地域への密着、漫画やアニメの影響もあるでしょう。でも、こういった名もなき人たちが、サッカーを愛する人を地道に育てた結果でもあるのだと思っています。

そして現在、子供とスポーツをつなぐ試みは

 あれから数十年たちました。

 小、中学校で野球をやっている子供がかなり減っているようです。野球は人気スポーツのはずでは?と、私のような年代の人間は驚きます。

 国全体で少子化に向かっていますし、試合をやるのに一定の人数が必要なチームスポーツは今後ますます厳しい状況に置かれるでしょう。

 我が家の下の子は中学生ですが、学校では剣道部に所属しています。男女合わせて20数名の部員がいます。学校全体の生徒数は約600人です。その剣道部が、運動部の中で一番の大所帯なのだと先生にきいています。

 つまり、その他の部活はさらに少ない人数で活動しているのです。サッカー部も野球部も。

 文化部で人気があるのはパソコン部なのですが、その理由をたずねると「活動日数が少ないから」だと言うんです。塾と無理なく両立できるから、と。

 公立の中学なのでほとんどの生徒は高校受験をします。三年後を見据えて、すでに塾が子供の生活に組み込まれている。

 その条件の中ででも、スポーツを楽しむ気持ちをはぐくむには、どうすればいいのでしょうか。

 子供たちがかよう小学校では、小学校を「地域のスポーツクラブにする」という試みがありました。当時の校長先生が始めた活動です。

 校庭、体育館、そのほかの大型教室。それらの学校の設備を、平日の午後、休日に開放して「スポーツを教えたい人」と「教わりたい人」を結び付ける場をつくるのです。

 種目は、フットサル、フラッグフット、スポーツチャンバラ、ジャズダンス、キッズビクスなどなど。未就学の親子を対象とした「親子リズム体操」や、高齢者を対象とした「いきいき体操」もありました。

 それは、スポーツを通じて、年齢層を超えて失われた地域のコミュニティを取り戻す活動でもあったと思います。

 クラブに入会すると、一律のスポーツ保険代とそれぞれの種目の月謝を支払い、週に一回から二回、受講します。
 数か月に一度、「種目シャッフルウィーク」があり、その二週間のあいだは、普段習っていない種目に参加することができます。たとえば、ジャズダンスをやっている子がフットサルを、スポーツチャンバラをやっている子がフラッグフットを、自由に体験できるのです。

 このしくみには、親にとってもメリットがあります。子供の習い事で負担に感じる、月謝、送迎の負担がかなり軽減されるのです。

 まず、会場が小学校なので、授業のあとそのまま学校に残って参加できます。あるいは、通いなれた通学路を使って通えるのです。親がつききりで送迎する心配がなくなります。学校の学童クラブを利用している子も、そのまま参加できることになっています。そしていわゆる親の「当番」がない。

 画期的なしくみだと私は思っていたのですが……残念なことにこれも数年でなくなってしまいます。

 創始者だった校長先生が異動されたからです。今回は引き継ぐ人がいませんでした。公立の学校ではどうしても異動がネックになります。先生がたは地域にいつまでもいてくれる人ではないのです。

 持続可能なコミュニティづくり。ボランティアに頼りすぎない運営。わかってはいるけれど実際には難しいことです。私自身「子育て講座の企画員」や「幼児サークルの役員」をへて実感をこめてそう思います。各家庭の抱えている事情、経済状態は多様で、「わたしがやるからあなたも負担して」とは簡単には言えない時代です。

 親という立場から思うことは、スポーツだけでなくていい。放課後、子供たちが安心して過ごせる居場所をつくりたい。できればただ時間をつぶすだけでなく、自分の可能性を感じてワクワク取り組めるものがあるといい、と願っています。

 小学校を舞台にしたスポーツコミュニティ。また立ち上がらないかなあ、とちょっと期待しているのですが。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?