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B2B SaaSプロダクトの特性とマーケティングアプローチを整理する #SaaSLovers Day4

新プロダクトリリースで気づいた、プロダクトによる顧客の”反応速度”の違い

私はいまReproという会社でマーケティング責任者をしています。Reproでは最近、Repro Boosterという新しいサービスをローンチしました。

Repro Boosterは「タグを入れただけでWebサイトが速くなるサイトスピード改善ツール」です。新プロダクトだということもあるかも知れませんが、お客様からダイレクトに熱烈な問い合わせをいただき、検討いただくスピードも速いです。

一方で既存プロダクトの、Web接客ツールとアプリマーケティングツールである「Repro Web」や「Repro App」。継続的に問い合わせもあり新規獲得も増えていますが、Repro Boosterと比べると検討期間も長く、お客様の”反応速度”が違います。

おそらく本記事の読者であるSaaS事業者の方々も、リードを集めたは良いが思ったように本商談に進まない自社プロダクトにどんなマーケティング施策がハマるのかわからない、といった悩みをお持ちの場合があるのではないでしょうか。

本記事では、どんな要素がマーケティングアプローチに影響を与えるのかを分析していきます。

根本にあるのはお客様のパーセプションの違い

どのように購買プロセスが進むかは、極論お客様のパーセプション=現状の課題認知やサービス知識、取り組む体制の準備状況によって変わります。たとえば、以下のような状態であれば、すぐに買ってくれるかもしれません。

すぐに買ってくれそうな理想のお客様
・課題が明確であり、特定の期日までに解決したいと強く思っている
・その課題を解決しうる手段があることを認識しており、積極的に準備している(予算・体制を組み、サービスを探している)
・解決するためのプロダクトとして自社製品を第一想起してくれる

まさに「BANT条件が揃っている」状態であり、商品認知さえあればすぐに問い合わせて検討してくれるお客様ですね。しかし、当然そんな人ばかりではないから苦労するのであり、GAPを埋めるためにマーケティングやセールスという役割があるわけですよね。例えば以下のような状況であれば、買っていただくのに苦労するはずです。

あまり買っていただけなさそうなお客様
・課題を課題として認識していない、あるいは漠然と認識しているが解決するための明確な動機がない
・課題を解決するための手段があることを認識していない
・解決するためのプロダクトとして自社を認識してくれていない

個別のお客様ごとの状況を説明しましたが、それぞれの事情をもったお客様の集合体が「市場」というやつです。そのプロダクトの特性としてどのようなお客様が多くなりがちなのか=どんな市場なのかがわかれば、プロダクトごとにとるべきマーケティングアプローチが明確になるはずです。

マーケティングアプローチに影響を与える3つの要素

上で説明したお客様の状況をまとめると、

  • 課題の顕在性と本気度

  • ソリューションそのものの認知

  • ソリューションにおけるプロダクトの認知

という3つに分けられます。これをさらに事業者側の視点からまとめ直してみると、以下のようになります。

  • コンペリングイベントの発生しやすい課題を扱っているか

  • 市場が成熟しているか(=既存ソリューションが一定導入されているか)

  • 差別化力があるか(=外からみて違いが明確かどうか)

これらの要素を詳細に見ていきたいと思います。

コンペリングイベントの発生しやすい課題を扱っているか

コンペリングイベントは営業用語で、「サービスを検討するための差し迫った状況」のことです。Loglassの石井さんが解説してくれているnoteがわかりやすいので読んでいただきたいのですが、例えば「Webサイトをリニューアルする計画が立ち上がった」などはWeb制作会社にとっての明確なコンペリングイベントです。

SaaSで言えば、LayerXのバクラクに代表される請求書処理ソフトなどは「超めんどくさいしミスが起きる」という潜在的なコンペリングイベントが毎月レベルで発生していると言えます。一方で例えばCDPのようなマーケティング系ツールを考えてみると、データ活用に関する漠然とした課題感はあるものの大きな力を掛けて解決すべきかと言われるとすぐにYESとは答えづらく、顕在的なお客様とすぐに出会うことは難しかったりします。

コンペリングイベントが少ない商材は長期接点がカギ。プロダクト設計も高LTVを狙えるもののほうが成立しやすい

コンペリングイベントの頻度とはマーケティング観点ではすなわち「顕在化したお客様と出会う確率」であると言えます。コンペリングイベントが少ない=顕在化していないのに、展示会で獲得した名刺を対象にひたすらコールしまくったり、資料DLしただけのお客様に即時営業をかけても、無駄撃ちになりがち。ISが無理やりアポして、お客様も営業も全然嬉しくない商談を経験した人は多いはず。

「リード獲得からの単純な転換率」といった考え方が通用しづらいため、闇雲に新規リード数を目指すよりも「いざ顕在化したときに確実に第一候補に入る状態づくり」が必要だといえます。また、セールスがしっかりと会話し、コンペリングイベントを作りに行くような動きができるようにするというのもポイントになります。

コンペリングイベントが少ない商材でやるべきこと
・確実にニーズが発生するであろう企業をABMで長期追い
・コンテンツマーケやコミュニティを通じてゆるく接点を持つ
・検討度の浅い段階から営業が直接会話できる機会をつくる

そもそも、こうした種類の商材は接触~成約までの期間が長く、ROMIが悪化しがち(あるいは計測できない・しづらい)です。これを前提とすれば、プロダクトそのものの単価を上げる・解約しづらくするなど、高いLTVを確保できる仕組みを用意しておく必要がありそうです。

コンペリングイベントの多い商材は確実な顕在接点の確保とアプローチのスピードが重要

では逆にコンペリングイベントが多い商材はどうでしょうか。基本的にはマーケティングも営業もしやすく、リード獲得からの転換の見通しを立てやすくなります。

ここで重要なのは「確実に顕在化している顧客」へ効率よくアプローチすること。課題が明確になりやすいということは検索もされやすい、といった想像もできます。よって、ここで有効なマーケティングアプローチは以下のようなものになります。

コンペリングイベントの多い商材でやるべきこと
・具体的なソリューションに関するセミナーやホワイトペーパーなどの接点を複数用意し、顕在化したユーザーと接触できる機会を設ける
・リード獲得後、別フォームを通過してもらい課題の顕在度合いを測り優先度付けを行う
・課題一般に対応する検索クエリをSEOで押さえる

コンペリングイベントが多いということは他社のソリューションとの接点も持ちやすいということ。顕在化したタイミングを逃さずいちはやくアプローチすることが重要です。

コンペリングイベントとマーケ活動まとめ

市場が成熟しているか

市場が成熟しているとは、この場合「近しいサービスをすでに導入したことがあるか、検討したことがある人が多い状態」であると定義します。

市場が成熟しているということは、例えば「MAツール」や「請求書管理システム」といったソリューションカテゴリが存在するということでもあります。逆に、自社のプロダクトを明確に表す言葉が既存のカテゴリの中にないのであれば、市場開拓段階であると言えます。

市場が成熟していないときは、第一人者として市場をつくりにいく

市場が成熟していないということは、全体として課題が顕在化していないか、解決策があることを知らないということです。なので、ここでの活動は課題が課題であることを明示する、解決策が存在することを知らせるということになります。
ちょうどこのアドベントカレンダーの発起人であるDouble Verifyの小松さんが「ビジョニング」というネーミングで、このときの活動をまとめています。

顧客への価値を証明しながら、どんな言葉であれば市場に受け入れられるのかを試行錯誤する。ここでの主体は事業責任者や営業エースで、個別のお客様を通じて市場の反応をつぶさに見ながら細かくチューニングしていく活動が必要です。

マーケティング部の仕事は、サイトの訴求やLP、広告訴求を変更し、その反応を事業にフィードバックするなど、細かい変化に素早くアジャストし、サポートしつづけることだと思います。大きく仕掛けるタイミングは要注意で、大々的なプロモーションを先行させてしまうと大外しする可能性もあります。

市場が成熟しているときは、差別化しつつ機会を逃さない

市場が成熟している場合、コンペリングイベントが発生する限りはそのカテゴリの検討が発生します。大事なのは、機会損失をしないことと、カテゴリのなかで選ばれることです。

市場が成熟しているときにすべきこと
・カテゴリ名の検索結果を押さえる(リスティング・比較サイト含む)
・接触機会を増やし認知度を上げる
・選ばれるための差別化要素を明示する(後述)

カテゴリ名が認知されているということは、課題解決のためにダイレクトな検索が発生するということです。リスティングや比較サイトも含め、顕在化したユーザーをプル型で引き込める仕掛けはしっかりと用意しておくべきでしょう。

一方、市場が成熟している場合競合も多く、また「一度やったことある/検討したことあるからいいや」となりやすくもあります。そのため素早く検討を進めていただくためには、明確な差別化要素や選ばれる理由が必要になります。ここについて次の章で解説します。

市場成熟度とマーケ活動まとめ

差別化力があるか

差別化力とはこの場合、「外から見てサービスの独自性が明らかであるかどうか」とします。中の人が「全然違うんだけど!」と叫んだところで、お客様につたわらなければ意味がありません。
「使ってみないとわからない」というのはSaaSあるあるで、購買側の意思決定も難しくさせています。

例えば前述の「Repro Booster」は「タグを入れるだけで速くなる」「効果の同期間比較が可能」といった明確かつ画期的な特徴を備えており、CDNなどの他サービスとの違いが明らかです。

一方、既存の「Repro Web」はWeb接客ツールという既存カテゴリに属していますが、ツールそのものでできることはどのサービスも大きな差異はありません。弊社では「強力なプロフェッショナルによる徹底的な実行支援」という強みを持っているのですが、残念ながら所謂コンサルサービスと同じく、実際に体験してみないとその価値は伝わりません。

差別化力がある場合の戦い方

おめでとうございます。こんなに戦いやすいことはありません。しかし差別化力とは時とともに移ろいゆくもの。明確な強みがあるうちにしっかりと市場を押さえに行く必要があるでしょう。

差別化力がある場合の戦い方
・できるだけ早く市場をとる。特にターゲット業界のトップ企業を狙う。
・差別化ポイントをわかりやすく伝え、導入までの距離を縮める
・Moat(リプレイスされづらい仕組み)を作る

市場シェアを取れたとしても、すぐに模倣され・追いつかれてリプレイスされてしまうと元も子もありません。様々な形でMoat=リプレイスされにくい仕組みを作る必要があります。Moatについては原健一郎さんによるこちらのnoteを参照してください。

差別化力がない場合は、既存顧客を中心に信頼を広げていく

差別化要素を作り続けることは大前提ですが、根本的に外からも見える差別化要素を明示することが厳しいケースもあります(市場が成熟すればするほどそうなります)。しかし、御社の強みを知っている人はいます。それは、すでに導入していただいているお客様です。既存顧客からの口コミや紹介は、強力な武器となるはずです。

差別化力がない場合の戦い方
・既存顧客を中心としたネットワーク・コミュニティづくり
・営業による粘り強いコミュニケーション
・見せ方の工夫

外から見てわかりにくくても、分かるまで徹底的に見せるという手法もあります。Web制作会社のベイジによる才流のサイトをリニューアルした事例の解説記事は、ヒアリングから制作までのプロセスを想起させる素晴らしい内容になっています。Web制作・コンサルティングという外からわかりにくい商材において、これでもかというほど詳細に語ることによって差別化を実現している見事な例と言えます。

差別化力とマーケ活動まとめ

まとめ

冒頭にお話した「顧客の反応速度の違い」は、こうした要素のかけ合わせによって生まれると思われます。これらをまとめたのが以下の図です。

商材特性の3軸と反応速度

単純なThe Model型フローにしたがってリードを獲得→商談化を期待するだけでなく、顧客の温度感・反応速度を、商材の特性とともに理解することでより効率的なマーケティング活動が行えるのではないでしょうか。

できるだけ無駄撃ちなく、効率的なマーケティングができる企業が増える一助となれば幸いです。

おわりに

この記事は #SaaSLoversアドベントカレンダーの4日目でした。SaaS好きな人達が有志でSaaS関連の知見をシェアしよう!という集まりです。
Day1~3の記事はこちら

明日はSmartPayの大坪さんの記事です!お楽しみに。

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