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【書評】LTVの罠 垣内勇威著(前編)

私はデジタルマーケティングのコンサルティングに加え、3万7000サイトの分析や4000人を超える顧客へのインタビュー調査といった大量のデータ分析を通じて、勝ちパターンを開発するという仕事を約20年間続けています。

と著者の垣内さんが語る圧倒的な説得力を持った一冊。B to Cのネットビジネス、コミュニティマーケティング、ファンビジネス等に携わっている方の必読書です。

米コンサルティング大手ベイン・アンド・カンパニーのフレデリック・F・ライクヘルド氏が提唱した「1:5の法則」をご存じでしょうか?新規顧客に商品を販売するには、既存顧客に販売する場合の5倍のコストがかかるというものです。

マーケティングファネルに代表される従来のマーケティング理論は新規顧客獲得に力点を置いたものが大半であることにお気づきでしょうか?

一方、ユーザーはと言うと、情報の氾濫で新しい商品やサービスを試すのがどんどん億劫になっているのではないでしょうか?

だからこそ、一度、満足できる商品・サービスに出会ったら、それを使い続けたいというのが本音ではないでしょうか?

そうした背景から顧客生涯価値と呼ばれるLTVに注目が集まっています。

私自身、10年以上前からLTVに着目しており、2011年当時、自ら所属組織に働きかけLTVチームを創設し、その責任者を務めました。

目指すはクロスセル・アップセルを通じたLTVの最大化。そのサポート施策としてロイヤルティプログラム、会員向けメディア、独自アプリ等を展開してと多くの人は考えているのではないでしょうか?

本書では企業がやりがちな失敗事例「妄想四天王」としてばっさり切り捨てます。

<妄想四天王>

  • 会員プログラム

  • 会員アプリ

  • サブスク

  • メディア

「LINEに登録したらドリンク1杯無料」等と言われ、その後行くことのない飲食店のLINE登録をした経験はありませんでしょうか?

飲食店としては、その後、繰り返し来てもらうことを意図してこの様な施策を行うのですが、旅先のお店だったりしたら、「繰り返し行く」ということは物理的に不可能。その後、頻繁に案内を送ろうものならブロックされて終わり。

多額の投資をして作った「全部盛り」の会員アプリ。ユーザーからすると年に数回しか使わないアプリをダウンロードしたくない。「様々な機能があります」と言われても使いこなせないし、そもそも操作を覚える気もない。

(アプリが機能するのは)既にLTVの高い顧客でかつ、高頻度で利用するサービスにおいて、その体験をスムーズにするだけ。

サブスクも企業側からすると毎月定期収入が入るありがたい仕組みであるが、ユーザーからすると「月額投資に値するサービス」というのはほとんどないのが実情。単発なら購入に繋がったものが、サブスクにしたが為に購入見送りとなったという笑えない話。

企業が運営するメディアに至っては、

メディアが失敗する最大の原因は集客できないこと。編集のプロではない、確固たる思想はない、保守的で言えることが少ない状況で、囲い込みたいという気持ちだけが先行しているのが企業メディア

とばっさり。更に、

集客出来ずに焦った企業は、お金を使って人を呼び込みます。まずは広告ですが、せっかく広告を打つならストレートに商品やサービスに誘導した方が効果的。つまらない企業メディアを見たところで、企業に対する印象は変わらない

ととどめを刺しています(笑)。

では、どうすれば良いか?著者はMASTというフレームワークを提案されています。

<MAST>

  • Meet(出会う):認識までの障壁が高すぎる

  • Attract(惹きつける):顧客に魅力が伝わらない

  • Sense(検知する):接点不足で顧客情報がわからない

  • Trade(商売する):遠慮し過ぎてチャンスを逃す

Meetでは、「単価の高い商材」「知らない内に検討が終わる商材」「所有されても認識されない商材」というケース別に顧客に認識してもらうTipsを紹介。

Attractの課題は「既に備わっている魅力の大半が顧客に伝わっていない」こと。対面・非対面それぞれでのケースでどの様な点に留意する必要があるのか?対面・非対面をどの様に使い分けるのか?等が紹介されています。

Senseとは「顧客の状況を日常的に把握し、ニーズの発生を検知する」こと。顧客の登録情報と行動データ(クッキー等)を紐づけてデータベース化する。ボトルネックは3点。「顧客情報を未取得」「顧客シグナルの見逃し」「顧客状況データの不足」。

Tradeとは「Senseで顧客の状況を正しく把握し、適切に営業すべし」ということ。「これまでのサービスに満足」「顕在ニーズがある」「応答コストが低い」状況であれば、顧客は営業されても迷惑には感じない。遠慮し過ぎてチャンスを逃しているケースが実に多い。

以上が本書のエッセンスなのですが、私のこの本の推しポイントは、本書の後半で展開される以下2点。

  • カスタマージャーニー設計事例:定性調査と定量調査の使い分け

  • 某生命保険会社での成功事例 :理論以上に大切なこと

後編に続く。

■動画版は、こちら







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