ソロバン名人はWeb2.0を乗り越えて生成AIを生み出した (令和6年度神山町成人大学)
こんにちはキン担ラボの本橋です。
神山でお世話になっているWEEK神山の南さんから「神山町の成人大学で講師をしてくれんで」とご依頼がありまして、地元のお役に立てるならばと1時間ばかりお話させていただきました。
成人大学の参加者の多くはご高齢です。話す内容も専門的になりすぎずにテレビや新聞で使われる一般的な言葉を選びつつ、最近のテクノロジーについて話して欲しい、とのこと。
よござんす。そういうの大好きです、と張り切って、火の獲得から始まるテクノロジーの歴史を生成AIに集約する形でお話してきました。
IT技術と身近なテクノロジー
まずはテクノロジーとはなんなのか、テクノロジーってなんだろうな、と参加者の頭の中で言葉の定義が不揃いだと耳から聞いた話も頭になかなか入ってくれません。
そこで『テクノロジーはこういったものとします』と定義のお話でスタートしました。このようにスタート地点を揃える入り方をグラウンディングといいます。同じところに立つ、という意味です。
1人の人間が学んだ知識や、練習して身につけた技術というのは個人のもので、その時点ではその人しか扱うことはできない特殊技能です。共有したとしても扱える個人が増えるだけです。こういった技術や知識をまとめて『知識』と定義します。
一方で知識(技術)をエンジニアリングによって実用化すると、誰でも扱える「モノ」として取り出せます。この「モノ」をテクノロジーと呼びます、とテクノロジーを定義して出発点を定めました。
例えば火は知識として知っていますが取り扱いには注意が必要です。マッチやライターは危険な火種を誰でも扱えるように実用化しました。うっかり触るとヤケドをしてしまう火種を持ち歩かなくとも、ライターの扱い方さえ知っていればどこでも着火できるようになるわけです。
こんな具合に、他にもサイコロを出発点としてビットコインの話をしたり、ソロバンを出発点として生成AIの話をしたり、専門用語をなるべく排しつつもIT系のキーワードを盛り込んでみました。
「コンピューター」「インターネット」「AI」ということで、話題としてはテクノロジー周りでよく耳にする気はするけど、実はその正体が良くわからん、みたいに言われがち(本橋の偏見です)なトピックを取り上げました。
コンピューターが高速化してきたらしいけど、高速化が果たした役割は?
インターネットはいつのまにか生活の一部になってるけど、具体的にどんな変化があったんだろう?
AIが突然出てきて話題になっているように見えるのだけど、どうして?
このあたり、技術的な深入りを避けつつ面白がってもらえる範囲でお話させていただきました。
神山町のテクノロジー事情
もう一つのトピックでは、神山町における僕の活動を紹介しながら、そこではどういったテクノロジーが使われて、どんな人達が関わっているのか、そういうストーリーをお話しました。
デジタルファブリケーション(神山メイカースペース)
2015年から活動している神山メイカースペースについてお話しました。自分たちでイベントを行なったり、依頼を受けて制作したり、あるいは小学校で出張授業をしたり、そういった活動ももうすぐ10年になります。
アルゴリズム実験室(KMSからCoderDojoにつながる小学校の特別授業)
神山メイカースペースから派生して小学校の特別授業を行なっています。ここ数年は、レーザーカッターを使ったものづくりのアート授業や、3Dプリンタを使った体育の授業、そしてサイコロを使ったアルゴリズムの授業を神山町内にある2つの小学校に提供しています。
正月飾りの3Dプリント(CoderDojo神山)
地域の伝統を未来に残すための取り組みとして、正月飾りを3Dスキャンし、3Dプリントで再現するプロジェクトです。2024年のCoderDojo神山の通年プロジェクトとしてスタートしました。
まもなく総仕上げで、今年の正月には軒下の松飾りに取り付けたいと思っています。
この活動は、地域の文化を保存することに加え、デジタル技術を活用することで新しい形で伝統を受け継ぐ取り組みとなっています。3Dデータを作るのは普段遣いのスマホだけ。しかも無料。
誰でもどこでも着手できる取り組みです。というお話をしたところ驚きを持って聞いていただけたようでした。
3Dプリンタはまだまだ敷居の高い道具かもしれません。でも普通に市販されているものですし、こうして扱っている人間もそこら中にいます。
日常使いのスマホを入口に、テクノロジーの世界で思いっきり遊んでもらいたい。CoderDojo神山も神山メイカースペースも、そんな想いで活動しています。
未来の展望
生成AIは、機械と人間が直接会話ができるテクノロジーとして実用化されました。このことはコンピューターに任せられる仕事の幅が一気に増えたことを意味しています。
どういうことかというと、これまでコンピューターを働かせたい場合は、プログラマーが介入してソフトウェアを作る必要がありました。プログラマーを介してしか、機械と人間はお話できなかったことになります。
そこで登場した生成AIは翻訳が得意なAIです。日本や英語だけではなくコンピューターの言語も翻訳してくれます。
『プログラミング』とは、日本語や英語をプログラミング言語を通して機械の言葉に翻訳するという知識(技術)です。プログラマーは日々の仕事の中でせっせとソースコードという翻訳文書を書いてきました。この知識(技術)を誰でも扱えるように実用化したテクノロジーが生成AIです。
生成AIの翻訳機能が進化していくと、レーザーカッターや3Dプリンタ、ドローンといった機械とも会話をしてコントロールできる未来が到来するわけです。生成AIによるプログラマー不要論、というのはこういった視点であれば事実です。
ただし依然として生成AIに機械の扱い方を教えるプログラマーは必要です。また、生成AIをアルゴリズムの一部に組み込んでシステムを構築するプログラマーの仕事もあります。
とはいえ2023年からの1年間で、昨日まで必要だった仕事が消えてなくなる瞬間をいくつも目にしてきました。そして今後の進化速度はこれまでと比べ物にならないほど早くなることは確実です。今、我々はその入口に立ったところと言えるでしょう。
と言ったお話をして、講演は閉めさせていただきました。