胆経を押せば咳が止まる?
父の日までに中耳炎とシェディング(頭痛、顔面痛、眼窩の痛み)は治ったが、風邪と喘息だけが治らなかった。楽しい時間が過ぎた後、私はゴホゴホしながら早めに寝室に向かった。
風邪はそうでもなくとも、喘息というものは、本当にしぶとい。とにかくひたすら咳が出て、気管支が痒くなる。副交感神経が優位になると(過剰になると)起きる病氣らしく、眠りにつく頃に発作(咳)が起きる。体が楽になり、さあ、寝ようというタイミングでいつも起きるのだ。その咳が長引けば長引くほど眠れなくなる。
咳とは、気管に絡んだ痰を体外に排出するのに必要だから、する。つまり、痰の排出さえできるなら咳は必ずしも必要ない。医療機器で痰や鼻水を吸引する装置もあるくらいだ。
咳すると喉が痛い。気管支が痛い。肺が痛い。咳さえ鎮まれば、眠れる。眠れれば、体力が回復する。体力が回復すれば、体調は戻る。そう思うと、咳を鎮めるレルベア(喘息用吸入薬)が恋しくなった。
だけど、レルベアはもう一生使わないと決めたのだ。もう10ヶ月も断薬できている。フォロワーのつっぴょんが鍼灸師として、刺絡のやり方を懇切丁寧に、手取り足取り教えてくれたおかげで今の私がある。しかし、朝にしっかり刺絡をやっておいたにもかかわらず、夜には強烈な咳が出てきてしまい、私は打ちのめされていた。刺絡もやり過ぎは禁物である。いつでも好きなだけ刺していいものではない。
だけど、このままでは眠れない。隣で横になっている我が子も、私の咳がうるさいせいで寝つけないようだ。
鍼を刺すわけではなく、押すだけならそんなに問題はないだろうと自己判断して、私は指で刺絡を行った。今回は風邪と中耳炎と喘息が併発しているが(毎度のことだが)、そのなかでも今のタイミングだと喘息の要素が強いらしい。それぞれ、朝にやった井穴(せいけつ)の効果を思い出してみる。
つっぴょんには、「喘息が起きたら腎経、胆経、三焦経、肺経をやって」と言われているので、それらをやった。肺経は全然効き目がなかった。腎経は微妙に効いてる感じはした。そして胆経と三焦経が…特に胆経がとても効いた。かなり肺が楽になる感覚があった。
胆経と三焦経といえばどちらも副交感神経が過剰な時に刺すツボだ。
布団の中で仰向けになり、私は左足を曲げ、左足の薬指を左手で摘んだ。胆経の井穴がある場所である。普段、胆経が効いたことはあまりないが、今回の症状にはここが良さそうだ。咳がひどい時にここを左手の親指でぐっと押してみた。すると、咳はやんだ。それどころか、これから今にも出そうになってる咳すら引っ込んで、代わりにニュルッと痰が気管から出てきた。
これには驚いた。咳を止めることが出来るというのはどういうことだろう?またしても発作の波がきて、咳が出そうになった。その咳をあえて我慢してみた。我慢するから、苦しくて「ウッ」「ウッ」とオットセイのような鳴き声を出し、悶える格好になる。それでも私は再び左足の薬指をぐっと押さえてみた。そして目を閉じた。
意識をまず、胆経の井穴に置いた。ここを強力に押すと痛いが、痛む時こそ自律神経は反応するというのは知っている。かなり痛むところで今度は意識を肺にずらした。右と左、二つの肺がじんわり温まっていくような感覚があった。沢山の蝋燭の火が灯されていくような情景が浮かぶ。さらに、息を吸い上げて今にも咳を出しそうになるが、あえて咳を出さないようにゆっくり静かに呼吸してみた。すると少しずつ少しずつ、蝋燭の火で燃えてゆく紙切れのように、咳をしたい欲求が消えた。そしてまた、痰だけがニュルッと奥から出てきた。
どうも偶然ではないようだ。私はこのやり方で、左足の胆経や、両手の三焦経にもやってみた。それぞれ効果は感じられ、咳を止めることができる。ただ、完璧ではない。大きい咳はどうにも防げない。体感値でいうと、成功率は70%くらいだ。
また、三焦経より胆経の方がより強力に作用することが分かった。三焦経は少し効果が低い。ただ、布団の中で安静にするためには年中足を曲げて刺激するわけにもいかないので、足(胆経)を寛がせたくなったら手(三焦経)を刺激した。こうして30分以上、私は横になって休みながら、咳をしない時間をつくれた。放っとけば1分とおかずに咳が出てくるのが喘息なのに、これは感動的だった。
一晩眠れないことも珍しくないのが、喘息発作中というものだが、私は深夜の3時間と、明け方の3時間、合計6時間は眠れた。おかげでかなり氣分よく目覚めることができた。
胆経が凄いのか。
私の思い込みによるプラシーボ効果が凄いのか。
わからないけれど、咳を止める方法って、素直に凄いと思う。