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オーブンレンジ、17歳まで生きる

17年使ったオーブンレンジが、ついに壊れた。

これは、私が一人暮らしを始める準備をしていた頃、父が電気屋で「なんでも好きなものを買ってやる」と言ってくれたので買ったものだ。当時はまだ600Wが最高出力というものが大半だったのに、この機種は900Wまで出せた。それと、ターンテーブル付きのオーブンレンジがまだまだ台頭する中、これはフラットタイプだった。今は主流になったが、あの頃はまだ珍しかった。

そんな「超かっこいい」私のオーブンレンジは、私の一人暮らしを支えた。まとめて炊いて冷凍しておいたご飯を温めるのがとても速いし、とうもろこしやさつまいもを蒸すのも速い。解凍モードが肉、魚、とそれぞれ分かれているのも良かったし、なんならプラ容器を使ってパスタまで茹でられたことに感動した。

たまには説明書を読んでオーブン機能も使い、料理を楽しんだ。グラタンもなかなかよく出来たし、ラザニアやキッシュも美味しく焼けた。クリスマスには丸鶏を買ってきて、ローストチキンも作ったし、お頭付きの鯛も焼いた。そして、大好きなチーズケーキも焼いて、職場の同僚や友達や彼氏に振る舞った。

このER-C6というオーブンレンジは、今でこそ評判がかんばしくない東芝製だが、私には喜び製造機だった。人を幸せにする家電とは、なかなか心憎いではないか。

あるときから電子レンジの電磁波が人体に悪影響があるときいて、全く使わなくなった。炊飯器で炊飯→冷凍→レンジ解凍ではなく、土鍋で炊飯→冷凍→蒸し器解凍という流れを採用するようになり、時間はかかっても美味しいし、安心できるからよしとしてきた。電子レンジだけでなく、ワクチンも最低2回(もしかしたら3回?)打っているコロナ脳な旦那にはこの話をしても通じないので、私は自分と子どもの口にするものだけ、電子レンジを遠ざけてきた。なんなら、こっそり粗大ゴミに出して捨ててやろうかと思った。だけど、オーブンだけは別である。

オーブンレンジという名前なだけあって、電子レンジ機能と、オーブン機能がある。電磁波が懸念されるのは電子レンジのほうだし、オーブンはそこまで言われていない。あとで調べてみたが、やはり大きく問題視されてるのは電子レンジのほうだ。
何より、オーブンでしか作れない、作りづらいものがある。それは、お菓子である。

私は和菓子がそこまで好きではなく、洋菓子が好きである。和菓子屋には行かないがケーキ屋やアイスクリームショップには行く。特にこの頃の物価の高騰ぶりを見ていると、大好きなケーキやクッキーやシュークリームがいったいどこまで高くなるのかと恐れるようになった。そんな経緯もあって、1番好きなチーズケーキくらいは家で焼いて節約しようと考えるようになった。

しばらく遠ざかっていたケーキ作りを再開するのには、きっかけが必要だった。ちょうどわんこ番長が来ることになっていたので、以前のようにオーブン機能を使い、ベイクドチーズケーキを焼いてみた。わんこ番長にも、我が子にも喜んでもらえたのが嬉しくて、今度はレアチーズケーキを作ってみた。こちらはオーブンレンジを使わなかったけれど、私のケーキ作り熱をより一層燃えたぎらせてくれた。オーブンレンジが壊れたのは、その後だった。

もう、ウンともスンとも言わない。電源すら入らなくなった。私はなんだか、「最後にベイクドチーズケーキを焼いてくれてありがとう」とオーブンレンジに言われたような氣がして、せつなくなった。同時期に購入した家電達の中でも、1番長生きしてくれたのがこのオーブンレンジだった。電磁波発生装置と認定し、放置し、どこまでも煙たがっていたのに、ケーキ作りの時にだけ私はニヤニヤが止まらず、何回も焼け具合を確認しては、楽しみ楽しみと連呼していたのが、オーブンレンジには嬉しかったのかもしれない。あのベイクドチーズケーキが、誇るべき最後の大仕事だったのかもしれない。

ありがとう、オーブンレンジ。私に幸せを降り注いでくれて、私に喜びを与えてくれて、感謝しています。