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【妄想02】待ち合わせとかしたいよね?

前回はこちら↓
https://note.com/motoconow/n/n4c29abd806eb?from=notice

待ち合わせする場所は駅の改札前。時間は土曜日の夕方。いつものように彼は先について待っている。今日は紺色の作務衣を着て、草履を履いてる。私はまたしても遅れてくる。なぜかというと、浴衣を着て下駄を履いてて、歩きにくいから。今日は花火大会。前の晩には無駄毛のお手入れを完璧に済ました。ネイルも花火大会に合わせてキラキラのラメとストーンで華やかにキメている。


ごめーん、待ったー?っていつものように私がいうと、今来たところ、っていつものように優しい笑顔で彼が答える。可愛いじゃんって彼が言う。目がキラキラしてる。それって私に恋してる目だよね。そうだよね。

駅前の商店街を並んで歩く。下駄の鼻緒が足の指の間に食いこんで痛い。痛いけど笑う。私が彼の歩くスピードについていけなくなると、彼が振り返った。手を差し出してくる。え、何これ、ついに手を繋いじゃうやつ?それも指と指とを交互にからませた、恋人繋ぎ、しちゃう?

私と彼は初めて手を繋ぐ。想像したのよりずっと指がゴツゴツして硬い。ずっと温かい。手を繋ぐまではずっとおしゃべりしていたくせに、手を繋いでからは2人ともずっと黙り込んでる。横断歩道を渡る時も、自転車がすり抜けていくのをやり過ごす時も。どっちから喋るの?どっちも喋らないの?ニヤニヤが止まらない。恋する心も止まらない。

河川敷につくと屋台が並んでて、たくさんの人で溢れかえっていた。さっきまでオレンジ色だった夕焼けも夜の闇に溶け込み、あたりはすっかり暗くなる。頭の中はピンク色。

彼は人混みの中に入る時もしっかり私の手を繋いで離さない。私はすれ違う人に押されてよろけると、彼がとっさに私の体を引き寄せた。え、何これ。私の顔の真ん前に、彼の胸元がある。作務衣が少しはだけて、少し汗臭い匂いがする。心臓が早鐘を打ってとまらない。どうしよう。好き。この匂い、好き。彼はなんにも言わない。私もなんにも言わない。

ここに座ろう、って彼がようやく口を開く。少し傾斜の着いた土手で、誰も陣取ってない空きスペースを見つけたのだ。そこからなら花火がよく見える。

彼と並んで草の上に座った。それからすぐに花火が打ち上がった。最初は赤。次は青。色とりどりな花火が次々上がる。私の心も舞い上がる。

彼はずっと、おー、とか、すげー、しか言わない。私はわー、とか、きれー、しか言わない。たまに目が合う。キスしてほしいのにな。伝わらないかな。

花火が終わったあとも、彼は私と手を繋いだ。今日は手を繋ぐだけ?彼は私をじらしてる。なんて残酷。私の氣持ちはどうなるの?

駅は混雑しすぎて、改札を通れない。じゃあ家まで歩こうか、って彼が言う。私は頷くけど、橋を渡る途中でいいかげん下駄の鼻緒が食い込むところが痛い。それに、帯がゆるんでしまった。どうしよう。こんなところで直せない。どうしようもなくて、立ちすくんだ。そしたら彼が、私の前でしゃがみこんだ。

ほら、おんぶしてやるよ。

ええ。えええええ。そんなの恥ずかしいんですけど。嬉しいんですけど。泣きたい。泣いていいかな。私は彼におんぶされた。彼の背中の温もりがじかに伝わってきた。

す き

私は指で彼の背中をなぞった。何それ、くすぐってえよって、彼は困ったように振り返る。私は、フフフ、内緒ーって笑って彼の背中に顔をうずめる。ずっとこうしてたいな。もう永遠に、家に着きませんように。