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耳が痛い02

前回の続き。

あれから1週間経過した。先週の気分は上中下でいうところ、下の中くらいだったが、今週は中の下くらいで、少しは良くなった。ただ、「少しは」である。

右耳の強烈な痛みはなくなったが、左耳が少し痛むようになった。37度台の微熱は毎日続き、咳と痰がでていた。これに加えて鼻のツーンとしてモヤモヤした感じと(ああ、これが鼻炎というやつか)、茶色くて凝り固まった気持ち悪い鼻水、顎や頬、こめかみ、目の周り、歯茎の痛みと、歯の知覚過敏まで起きていた。これは点耳薬の副作用らしく、これまたカロナール様がなければしんどくてやっていけない。

おまけに昨夜はろくな夢を見なかった。夢の中で高額な写真データを購入契約させられてしまい、「家のローンもありますので契約できません、どうかお察しください」と平謝りし続け、どうにか契約解除するためしぶとく力説し、そんな自分の必死な寝言(大声)で目覚めると言う、非常にバカバカしい寝起きだった。

まるで逆恨みするかのように、前回と同じ耳鼻咽喉科に行って訴えたところ、例のギラギラしたやつをつけた医師が「点耳薬が合わないんですね。やめてもいいですよ」と、またしてもサラリと言ってのけた。

常々思うことだが、医師という生き物はドライである。きっと毎日毎日、さも我こそは重症患者で、他の誰にも起こり得ぬ危険な症状が起こり続け、優しく診てくれないとタダじゃおかないぞ、と半ば脅迫めいた発言をする患者連中と渡り合っているからなのだろう。だから、私のような「似非重病人」の扱いには慣れている。何を言おうが意に介さない。

「右耳の中耳炎はよくなってきてる。左耳は外耳炎だね」

何。外耳炎だと。それは一体、何だ。似非重病人の私が眉間に皺を寄せ、「それ見たことか」と目を見開くと、医師は「でも大したことないよ」と一蹴した。両耳に何か怪しげな薬剤をブッ込まれ、鼻の穴にも妙な水鉄砲のようなもので薬剤をブッ込まれた。

「風邪が治らないと中耳炎も鼻炎も治りませんからね」

何か反論したかったが今度は口を開けさせられて、喉の様子を観察された。

「喉は大したことないですね」

医師とは…患者に何かとりとめのないことを言われる前に、穴という穴に何かをブッ込むことがライフワークなんだろう。言い返される前に処置をする。黙らせる。私は他にも言いたいことは山ほど有ったが、雲散霧消してしまった。なんだよ、そんなダサいギラギラをつけてるくせに。

「具合悪かったら来週も来てくださいね。再来週はお休み入っちゃうから」

誰が来るか、コンナロー。

帰宅すると我が子が玄関にうんこ座りして待っていた。ママ帰ってきたからママと結婚する、パパは嫌だから明日結婚する、ママと水曜日に結婚する、土曜日も結婚する、と支離滅裂なことを言い張る。結婚してやるから静かにしろと言うと、うん、と威勢よく返事して、全力ではしゃぐ。

結婚か。確かにまた結婚すれば、体調良くなりそうだよな…などとぼんやり考え始める。かつて挙式前日まで風邪をひき、微熱が続き鼻をグズグズしていた自分が、挙式当日に参列者から口々に「おめでとう」や「綺麗」と言ってもらえるたびに、どんどん体調が回復していき、熱が下がり鼻水が止まったたことが思い出される。結婚とは人生最大の自己肯定だと誰かが言っていたが、まさに言い得て妙だ。そういう強烈な肯定感こそ、免疫力を高めるのではないか。そう思うとやけにウエディングドレスが恋しくなった。華やかなティアラを頭に乗せてみたくなった。

リビングのソファにもたれながら我が子の様子を見ていると、結婚式のリハーサルが始まったようである。どうやら、ぬいぐるみのピカチュウが、同じくぬいぐるみのアンパンマンと結婚するらしい。どちらも、私が作ってあげたビーズのブレスレットを頭に乗せている。他のぬいぐるみ達が花道を作って送り出す。我が子が笑いかけてきた。私も鼻水を垂らして笑い返した。