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【2日目】つっぴょん巡礼の旅

↑のつづき。

夜が明けて2日目。
私はまあまあに眠れたけど、はるぴょんは眠りが浅かったらしい。黒一点ののとにゃんは、一人静かに眠れた様子である。ちろりんとわんこ番長は同室だったため、女子トークに花が咲いてしまったらしく、なんと一睡もしていないという。それでもみんなは晴れやかな顔をして挨拶を交わす。みんながいれば、眠氣などどうでもいいのだ。

今日はつっぴょんの提案でお茶会へ行くことにした。茶道というものを嗜んだことがない私には新鮮で、ワクワクする冒険だった。総勢8人の大所帯なので、つっぴょんの車とわんこ番長の車に分かれて乗る。元子Jr.ははるぴょんJr.の完全な虜になり、車内で隣同士に座ると、しりとりやじゃんけん(負けた人が変な顔をする)を楽しみ出した。意外なことに、はるぴょんJr.の変顔は大変レベルが高かった。白目を向いて妖怪のような不気味さを表現するとは、可愛い顔して将来有望なお子である。

山深い茶室へと到着した。足が痺れやすい私は正座するものかと不安だったが、その茶室ではコの字型のテーブルと椅子が用意されていた。まったくのど素人でもお茶を楽しんで欲しいという、先生方の明るくて寛大な雰囲氣が心地よかった。茶道界の序列やしきたりなどは知らないが、ご主人らしい男性と、奥様らしい女性が場を仕切り、その下に付いているらしい女性が入れ替わりお茶を点(た)て、さらにその下にお弟子さんらしい若い女性達がたくさん揃い、お菓子などを運んでいた。当然なのだろうが皆さん、それぞれ違う柄の美しい着物を召している。清潔感と透け感がある、薄地の着物が夏らしくて粋だった。


お抹茶をいただく

お抹茶は素直に美味しかった。最初は薄め、二服目(二回目)は濃いめなお抹茶に合わせて、お菓子も最初はあっさり、二回目は重めだった。お菓子を食べながらお茶をいただき、口中調味する楽しさを教わった。なんだか中国語の「可口可楽(コカ・コーラの当て字)」のようである。「口に入れることが出来るし楽しむことが出来る」という、お茶の粋な楽しみ方を、自分なりに解釈して、自分なりに面白がった。

二種類のお抹茶の後、冷たいほうじ茶もいただいた。ガラスのお椀がひとつひとつ違う柄で美しかった


シャインマスカット大福。出てくるお菓子がいちいち美味しい


素晴らしいお抹茶とほうじ茶を頂いたあと、Jr.達がお茶を点(た)ててみろと、先生方に提案された。丁寧に指導されながら、Jr.達はお抹茶を点てる。それを、私が頂く。頂くときには、教わった通り、茶碗の正面に描かれている紋(絵柄)を避けるため、45度ほど水平に回転させ、ゆっくり飲んだ。それから氣取って「結構なお手前で」と言ってみせた。

ママさんもやってみろと勧められたので、私も挑戦した。椅子に座り、テーブルに置かれた茶碗を片手で抑え、もう片方の手で茶筅(ちゃせん)を持ち、お茶を静かにかき混ぜる。こちらの茶室は表千家なので、かき混ぜ方の流儀として「一時七時」の角度でかき混ぜる。お椀を真上から見ると円状になるので、それをアナログ時計に見立てて一時の位置(30度)と七時の位置(210度)の位置を行ったり来たりして泡を立てるらしい。ちなみに、これが裏千家だと「十二時六時」の角度となり、より高速なストロークでこんもりとした泡を立てるようだ。その柔らかな口当たりもまた美味しいと先生はおっしゃり、裏千家への敬意を感じられて、私はちょっと感激した。勝手に表千家と裏千家は仲違いしているものと思い込んでいたからだ。

さらに、茶室を出てから先生夫妻にお庭を見せて頂いた。茶室のすぐ手前にある水盆には、筒竹からとうとうと水が流れ込み、そこへ小鳥達が入れ替わり立ち替わり、水浴びにやってくる。その先には孟宗竹(モウソウチク)や真竹(マダケ)が鬱蒼と生い茂る竹林があるほか、いろとりどりの百日紅(サルスベリ)やアジサイなど、美しい木々が生い茂っていた。さらに椎茸やなめこの原木、山椒、茗荷など、ご飯のおかずになりそうな食材が多数揃っていた。ここなら自給自足も叶いそうである。先生がミョウガを好きなだけ掘らせてくださったので、それを袋に入れて持ち帰ることにした。


その後、私たちは植物園へ向かった。大きな温室のなかには熱帯植物やテラリウム、アクアリウムが沢山あり、思い思いに楽しめた。Jr.達は帰り際に天然石のガチャをやって持ち帰った。はるぴょんJr.のほうにはピンク色のローズクォーツが多めに入っていて、元子Jr.のほうには大きめのアメジストが入っていた。

お昼にはお寿司を買いこみ、つっぴょんの家で食べた。魚屋を母体とするスーパーなので、生の魚介類はもちろんのこと、新鮮な刺身や寿司が豊富に揃う。食いしん坊の元子は本マグロに舌鼓を打った。

それから少し休憩したあと、道の駅に行った。美味しそうな特産品が沢山売っていたので、私は旦那用のお土産を買い、わんこ番長とソフトクリームを食べた。

ここで、ちろりんとはお別れした。お名残惜しいけれども、別の予定があって帰宅しなければならないらしい。つっぴょんが車で最寄り空港へ送っていく間、私はJr.達を風呂に入れることにした。元子Jr.は仲良くなった女の子と一緒に風呂に入りたがるので、それはそれは一大アトラクションのように楽しんでいた。私が一方の全身を洗ってあげている間、他方は水圧の強いシャワーを浴びせてワーワーキャーキャー、大騒ぎだ。湯船に入ってからはそれぞれが洗面器と手桶を持ち、お湯を掛け合ってはしゃいでいた。

風呂から出るとつっぴょんが帰ってきていて、はるぴょんと共にお蕎麦を茹でてくれた。美味しくて何杯もおかわりしてしまい、まるでわんこ蕎麦のようである。さらに、わんこ番長が先ほどのスーパーで買ってくれたエビやカニやタコの唐揚げを出して、夕食を囲んだ。

その後、またしても私とはるぴょんは寝かしつけ業務に取り組む。はるぴょんと、今日は早く寝てくれるといいねと言いながら、それはあっさりと叶った。どうやらJr.達は体の隅々まで疲弊していたらしく、ものの30分で眠りの世界へ飛翔した。

さあさあ、今夜も楽しい宴の始まりだ。先に楽しんでいたつっぴょんとのとにゃんとわんこ番長の元へ行くと、今日は早かったねと歓迎された。合流した私とはるぴょんは、日本酒とワインを出してもらった。美味しいおつまみと共に飲む、飲む、そして、飲む。すると、私の対面にいたわんこ番長がこっくりこっくりし始めたので、ちょっと寝室で寝てくるといいよと提案した。番長は昨日、寝ていないのである。本人もそれを自覚してか、大人しく寝室へ引き上げていった。

私はその後、かおちゃんにメールを打った。今回の巡礼旅に参加できなかったから、テレビ電話しないかと誘ったのだ。かおちゃんはこの集まりに合わせて、またよもぎバームを送ってくれたのだ。かおちゃんのよもぎバームで火傷が綺麗に治ったので重宝している。その御礼も言いたい。すると本人はすぐに承諾し、家族が寝静まったら参加すると言ってくれた。

かおちゃんとテレビ電話がつながったのは深夜一時頃だ。事前に、現場の4人はいい感じに酔っ払っているため、かおちゃんにも手元に酒を準備するよう伝えておいた。小さなスマホの画面に私たち四人の顔がなんとか収まるよう一列に並び、画面の向こう側にいるかおちゃんに挨拶をした。かおちゃんは色が白くて綺麗で、可愛い人だった。私より年上だけど、掲示板で散々「いちごパンツが似合う人」としていじり倒しただけあって、独特のガール要素が滲み出ていた。且つ、相手を一人一人立てながら、屈託のない笑顔を絶やさずおしゃべりに付き合ってくれた。


かおちゃんとの電話を終えた後も、楽しい話や、悲しい話、辛い話、笑える話をたくさん続けた。いろんな話を肴にしながら、いったいどれだけ飲んだのだろう。少なくとも私は一人でアルゼンチン産の赤ワインのボトルを掴み、半分は空けてしまった。つっぴょんとのとにゃんとはるぴょんは日本酒を何種類か、精力的に飲んでいた。この晩、それぞれが寝床へ引き上げたのは明け方の4時頃だった。

次へ続く