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死が近づくとあらゆる境界線がなくなっていく。祖父が倒れて感じたこと

90歳近い祖父が、特に理由なくスーパーでふらっと倒れた。数分で意識は戻り、入院も数日で済んだそうだ。もう元気、と話す祖父、たしかにいつもどおり元気であることは間違いない。

間違いないけれど、電話していると去年よりもたしかに祖父が死に近いところにいると感じる。前よりも、記憶の時系列がぐちゃぐちゃになり、会話が成立しているようでしていない。曖昧な、混沌とした、境界線のない世界に住みはじめている。

この混沌の世界は祖母が亡くなる前の数年間にも感じたことがあった。ぼけてしまった祖母は、何をやっても「いいじゃない、いいじゃない」といい、善悪や時間の縁取りがなくなって、ぼや~っとした混沌の空気の中で生きている感じがしたのだ。目の前にいるのにいない、そんな感じ。

もしかしたら、この混沌があの世とこの世の間の世界なのかもしれない。世界の構成はこの世  ¦ 混沌  ¦ あの世 の三層なのかもしれない。 混沌フェーズまでは生きながら体験することができるのだ。祖父は元気だが、混沌フェーズにいる老人としての元気さであって、この世フェーズの老人の元気さとはもう違っている。あの世の匂いや空気は、少しだけ、この世にも紛れ込んでいる。死はある日突然訪れるんじゃなく、グラデーションで少しずつ死に近づいていくんだ。祖父は着実に歩みを進めている。

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完全にこの世 

この世

この世よりの混沌   ←多分この辺くらいまで

あの世寄りの混沌

あの世

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今のうちに声をたくさん聞いて顔を見ておこう。意味がはっきりしなくてもいい。祖父の存在を感じておこう。

そんなことを思った、9月某日。



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