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七夕の願いごと【1分間小説】


※この小説は約1分で読了できます。


「メインホールに笹がありますので、もしよろしければ願い事を書いていって下さいね。」

ショッピングモールの入り口でそんな言葉を言いながら短冊を配っている女性が見えた。

(あぁ、もうそんな時期か)
僕は心の中で呟く。
明日は7月7日。時間が過ぎるのは本当に早い。
いつものことだが、僕は街がこういったイベントの雰囲気になってから、もうそんな時期かと気付くのだ。

せっかくなので僕はメインホールに足を向けた。
いつもはイベントが行われている広いスペースに大きな笹が数本置かれている。
すでに沢山の短冊が飾られており、様々な願い事が書かれていた。

『恋人ができますように』
『宝くじにあたりますように』
『就職活動がうまく行きますように』

書かれている内容は違うが、どの願い事も凡そは自分に関することばかりだ。

僕は幼い頃に、七夕が織姫と彦星が一年に一度会うためのイベントだと知ってから、ある疑問を持っていた。

七夕は年に一度、晴れの日にしか会う事の出来ない恋人達のための日なのだから、願い事もその二人の為の物であるべきではないか?

当時は同級生にこんな事を言っても誰にも理解されなかった。

しかしこの考えは今でも変わらない。

自分の願い事が沢山あるのは人間として素敵なことだ。
でも、それを願うのは七夕じゃなくてもいいじゃないかと思っている。

もし願いを叶えてくれる神様がいて、
「七夕は皆の願いを聞くためにある。」と言っても、僕は二人の為に願うべきだと思う。

もちろんこれは強制することじゃない。
僕には短冊に飾られた願い事を否定する権利もない。

だからせめて僕一人だけでも…

なんだか恥ずかしかったが、勇気を出して短冊とペンを取る。
そして、願いを書く。

『二人のために、雨を降らせないで下さい。』

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