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小説の種02◆雨の匂い

コイン・パーキングを出て、通りを歩き出した途端、雨の匂いがした。手のひらを上に向け、空を見上げる。脚本のト書きを忠実に。苦笑したくなるほど臭い演技。とんだ大根役者だな。

 

「これでいいかい?」

 俯瞰する空の眼に意識を向けないようにピンマイクに呟く。

「続けてくれ」

 イヤホンに指示。

 

このオープニングカットの後、オレは死ぬ。ストーリーの全貌は回想に託され、壮絶な死というクライマックスを迎える。

 

ヒールが床を叩く音。できる女と持てはやされるアラサーOLにありがちな余裕と自惚れが、歩くテンポに絡みついている。皮のライダースにハイウエストのフレアデニム、キャメルのショートブーツが、日本人離れしたメリハリの効いた腰から尻にかけてのラインを際立たせている。一番いいのは、嫌味な微笑を含んだやや大き目の口元。完璧すぎる。これ以上の適役はいない。

 

このパスタソースの隠し味は、砂糖を焦がしたカラメルだと説明する。こだわりを押しつけるような物言いに辟易する。いちいち音楽もムーディーで、キモ過ぎて吐き気がする。抱くために呼びつけた女なんだから、とっとやることやればいい。だいたい料理の腕を女に見せつけている時点で、まともに付き合う気がない本音を明かしているようなものだ。なんとも愚かで救いようのない男。こいつの親の財産だけが魅力だ。

 

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