12/27(日) 子どもが子どもであるためにー『呪術廻戦』のすすめ
終わらない仕事が嫌すぎて、残業時間は動画を観ることに決めていた。
せっかくだから話題になっているものを、と『呪術廻戦』を最新話まで視聴したが、ずいぶんこの作品を気に入ってしまい、原作も最新刊まで購入してしまった。
作品のあらすじとしては、「呪い」が人を殺す世界で、事件に巻き込まれた主人公・虎杖(いたどり)が自身も「呪い」の力を身につけて戦っていく…というダークファンタジーで、王道の少年漫画だ。
迫力のあるバトルシーンや虎杖の真っ直ぐなキャラクター、五条(ごじょう)先生のイケメンっぷりが気に入った…といえばわかりやすい理由だと思うがいずれも後付けで、実際に気に入るきっかけになったのは2つのシーンだった。
一つ目は呪術師を育てるための学校「東京都立呪術高等専門学校」の入学面談。
入学の動機を学長が問うと、主人公である虎杖は「祖父の遺言だから」と答えるが、不合格とはねのけられてしまう。
すわ圧迫面接かと思いきや、学長は呪術師というものが自分の死や誰かの死と隣り合わせで、危険で不快な仕事だと話す。
「他人」を動機にすると、いつかその「他人」を呪うことになる。「自分のため」でなければ入学は認めないと。
素質があり、特殊な力をもつ少年をすぐさま巻き込もうとせず、意思を問い直す。アニメの中に「分別のある大人」がいる!と、思わず再生し直して確認してしまった。
二つ目は一級呪術師の七海(ななみ)が虎杖と任務に同行した時の言葉だ。
七海は「労働はクソ」だから会社勤めから呪術師に出戻ったというキャラクターで、冷静でつかみどころがない。虎杖のことも呪術師として認めていない。
任務が開始すると七海は虎杖に標的を割り振るが、「勝てないと判断したら呼んでください」と続ける。
それだけ弱いと思われているのかと不服そうな虎杖に、「ナメるナメないの話」ではないと七海は補足する。
「私は大人で君は子ども、私には君を自分より優先する義務があります」
たった数秒間のシーンだ。決め台詞でもないのだろう、すぐに過ぎ去ってしまう。
けれど私はこの、情熱的には見えず気だるげな雰囲気すらあり、虎杖に好感も持っていなさそうなこの指導者がなんの気負いもなく、あまりにも自然に発した言葉に痛く感動してしまった。
アクションやバトルをテーマにする作品では、いつも主人公はすぐに戦闘に放り出される。早々に成熟を求められ、時に覚悟のなさを叱責される。特別な才能を持つ少年たちは最前線に配置され、大人も当たり前のように寄りかかる。
そういう構図が、どうやら私は嫌いだったようなのだ。初めて明確に自覚した。
もちろん学長や七海だけではない。
虎杖を呪術高校へ連れてきた五条も適当なノリで生きているように見えるキャラクターだが、
一時的に虎杖が身を隠す必要にさらされたシーンでは早く学校生活へ戻すように、「若人から青春を取り上げるなんて、許されていない」と、さらりと言ってのけたりもする。
この作品全体に根付く、大人から子どもへの配慮。育成と責務。
自立と自由意思の尊重が、なんて優しくて豊かなのだろうと、世界観に一気に引き込まれてしまった。
子どもが、子どもとして生きていくということ。それができなかった人々が、どんな傷を抱えて暮らすことになるか。または無自覚に受け継いでいく負の遺産がどんなかたちになるかを、私は知っているから。
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