アリシア・ザ・ファンタジア

今、舞台上に親友の千恵子はいない。そこにいるのはアリシア。恋人を、家族を失った恨みを歌う、呪われた歌姫。

彼女の一挙一動に深い意味を感じる。発する一言一言が胸の奥に響く。私は完全に千恵子に…アリシアに呑まれていたのだ。

…力尽きたアリシアが崩れ落ち、舞台の幕は降りた。私は興奮冷めやらぬまま楽屋へ向かう。千恵子に会い、この感動を伝えるために。

だが、楽屋は常に忙しいらしく、入れたのは2時間も後。千恵子はすでに楽屋にいなかった。聞けば彼女は閉幕後、必ず自分のパートを再演するという。

(邪魔しちゃ悪いかな…?)

一瞬のためらいを、舞台から聴こえた歌声がかき消す。そうだ、この感動を伝えてあげなければ。舞台袖から壇上を覗き、千恵子の後ろ姿をすぐに見つける。

「千恵…」

私は息を呑んだ。

彼女だ。千恵子の奥に、アリシアがいる。アリシアが歌っている。

困惑する私の目の前で、アリシアがナイフを振り抜き、千恵子の喉を裂いた。

【続く】

それは誇りとなり、乾いた大地に穴を穿ち、泉に創作エネルギーとかが湧く……そんな言い伝えがあります。