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ライナーノーツ(など)@逆噴射小説大賞2019

序文

よくきたな。わたしは餅辺です。

前回の小説大賞が終わり、ガーデナーの連載を終えてしばらく経った私は、再びnote荒野が活気づき、酒場に真の男たちが集まる気配を察しました。『逆噴射小説大賞2019』……戦いの時が再び訪れたのです。私もまたGUNを携え、酒場の門を叩きました。

そこは大勢のパルプスリンガーが居並ぶ、まさに魔境。己のGUNを整備するもの。胡乱ポーカーでニューロンを焼き合うもの。静かにメディテーションするもの。そして肝の据わった眼光で大賞の座を狙う、新たなる真の男たち……肌をヒリつかせる、灼けた戦場の空気が立ち込めていたのです。

中でも前回の決戦を戦いぬき、さらに1年荒野で戦い抜いた真の男たち。彼らの放つオーラは圧巻でした。彼らの周囲の空間が泥めいて濁っているようにすら思えました。私の中の腰抜けが警鐘を鳴らします。「やめときな。お前程度が戦場に出たところで無駄に命を散らすだけだぜ……」と。

だが私はそいつやっつけ、弾丸飛び交う荒野へと躍り出ました。「面白い作品を書いたぞ。読んでみろ!」そう叫び、引き金を引いたのです。すると真の男たちはニヤリと笑い、パルプの弾丸を撃ち返しました。「俺の作品も面白いぞ、読んでみろ!」と。

……5発の弾丸を撃ち込み、無数の弾丸を撃ち返され、『逆噴射小説大賞2019』という名の決戦は終わりました。しかし戦いはまだ終わってはいません。GUNを整備し、戦いを振り返り、次の戦いに備えねばならないのです。それが過酷なる戦いの日々の掟……PRACTICE ……NEVER……

というわけで、投稿作の振り返りを始めます。


エスプレッソの夜明け

ポエムとか、歌詞とか、曖昧なものから内容を読み取るのは楽しい。そんな気持ちから書き上げました。『エスプレッソの夜明け』に収束する物語の冒頭部として、俺(誠吾)とおじさん(正三)の2人と、誠吾の思いなどを書きました。

いつでも心境を反映できるポエム。それは誠吾の想像力の賜物なのか。それとも正三の筆力か。本日の・明日のポエムとは? 売り切れとは? 日常風景の中にフックをいくつか用意し、続きへ興味を持って貰えるように頑張ってみました。「気になる!」という感想もいただけたので嬉しい限りです(餅辺は文面の100000000倍くらい喜ぶ習性があり、内心メチャクチャ喜んでいます)。


前頭葉の天使

不穏の一言です。裕香の性格や、彼女が『手術』へ向かう動機などを冒頭で表現しようとした結果、こんな感じになりました。冒頭の間、裕香はずっと浮いています。都会の町からも、他の登場人物からも、家族からも。短いですが、今まで裕香が感じてきた世界を表現したつもりです。

1人になるのにも自分を折るのにも耐えきれなくなった裕香は、やがて破滅的な手術を受けようと決意します。ですが、事態は彼女の思っているほどすんなりとは進まないようです。先生はなぜ、マンションの一室で手術を行っているのでしょうか。違法だから、それだけの理由でしょうか? 制服の少女は仲間が増えるのを喜んでいるのか、それとも……?


蒸気の花は夜開く

スチームパンクです。一大ジャンルとして成立していることもあり、世界観の描写は最低限に押さえ、冒頭の大部分はエリンとロビー、2人の関係性について語ったものとなっています。当初は舞台が崖の上だったり、エリンが車椅子に乗っていたり、ロビーが少年だったりしたのですが、最終的にこの形に収まりました。

急速な発展と変化に追いつこうともがく世界で、ロビーが変化したのと同様に、エリンもまた覚醒していきます。何もかもが、自分自身すら変わっていく世界で、宿命と使命に翻弄されながらも2人は成長し、コアの、海の、世界の真実へと近づいていくのです。そして彼女らに待ち受けるのは……


『優しさ』は白く燃える

不思議な炉と、優しい王子と偏屈な魔女の話です。作中で表現した通り、2人とも欠点を山ほど持った人物ですが、個人的にはそれが好きです。王子はなぜ、3日の命となってまでも力を求めたのか。そしてそれを知り、魔女は何を思うのか。彼は目的を果たすことができるのか……2人の奇妙な道中の始まりを書きました。

本来4発目は「富士山麓のエクスカリバー(仮題)」という作品が入る予定だったのですが、ミューズの炉の設定を思いついたときにアッとなり、急遽この作品が入りました。おかげで胡乱成分が足りなくなってしまったのですが、これも運命かと思います。


姥捨山で会いましょう

なんでも他人事で片付けてしまう未来を、他人事に思えないような筆致で書こうとしてこうなりました。そのため、冒頭の登場人物は大輔だけです。大輔は端から見れば、全てを失ったようにも見えます。彼自身もそう思っています。ですが、彼の中にはまだ希望が残っており、人生にもまだ続きがあります。

姥捨山にいる、彼が会おうとする人物とは。その人物との出会い、そして他の住人との交流を経て、大輔は何を思うのか……全てを失うというのは、自分で思っているよりもずっと難しいことかもしれません。


未来へ

楽しいイベントだったな、というのが第一の感想です。第二に執筆の苦労がきて、第三にその他の苦労がきます。撃つ前は不安もあったのですが、撃ってる最中に流れ弾に当たってやっつけられたようでした。奴はしつこくリスポーンしてきましたが、皆さんのスキや感想ツイート行為に助けられ、なんとか叩き伏せることができました(いつもありがとうございます)。

私だけでなく、投稿作全体の傾向としては、他の方も述べられていますが、字数制限の倍加と点数の制限が加わったことにより、よりマッシブで力強く、高精細な作品が増えた印象です。読み手に回った現在も非常に楽しませていただいています。序盤の展開とラストの落差によるパワで戦う作品も、力やテンションをたっぷり溜めてから攻撃してくるため、一撃の威力が素晴らしく、一種の心地よさすらも覚えます。

後は私事です。前回から一年が経ちましたが、自分で満足できるほど多くの作品を書くことはできませんでした。中でも悔しいのは、最後まで書ききることのできなかった作品が、パソコン内にいくつかとっ散らかっていることです。しかし、過去を嘆いても前には進めません。小説を書き上げられなかったのが昔の私なら、今の私が小説を書き、未来の私は小説を書き上げられる私になるのみなのです。

この戦いに参加し、冒頭部だけとはいえ明確な目的を持った5作を書き上げたことで、抜けていた腰が戻ってきました。あとはふたたび立ち上がり、前へと進むだけです。まずは書き溜めていた小説を完結させ……FUTURE……未来へ……

(おしまい)











【予告】

瞳孔を大きく見開き、中年の男は荒い呼吸を繰り返す。視線の先には直径20cm程度の椀とダイス。その隣には何の変哲もないリボルバー式拳銃と、弾丸の詰まったケース。

様子を見守るのは、対面に座っていた若い男…否、彼は今や地面から見上げている。北と南、両の壁際に並ぶ男女4人づつだ。そして…

「…知っての通り」

南側。4人の前、椅子に座った老人が口を開くと、緊張に支配された場が一瞬で凍りついた。

「この『ゲーム』はだな、おかしい。何がおかしいってな、言わんでも分かるな?」

男は荒い呼吸を繰り返しながら、彼の言葉を待った。

「天秤に乗せるもんが釣り合ってねェってことだ」

「その通りです」

北側の椅子に座る男が答えた。年若く、切れ長の目元をフチのない眼鏡が覆っている。彼は足を組み、呆れたように老人を指差しながら言った。

「我々『ブルーオーシャン』の一員と、カビの生えた…」

「エリック。お前さんはなァ、俺たち『ゴルデル・ファミリー』にとっては家族の一員ってだけじゃねえ。勘定に、交渉、帳簿の作成…絶対に欠かせねえ存在なんだ」

老人は無視して続けた。若者は肩をすくめる。

「あ…あ…」

エリックはぎこちない動きで振り返った。瞳にわずかな輝きが戻る。親分はニコリと笑い、言った。

「…だがもう始めちまった。今さら引き下がるわけにゃァいかねえ。やってくれるな?」

「あ、えっ、ああっ…」

エリックは答えようとした。だが、言葉にもならない息が漏れるばかり。ゴルデルは厳かに目を光らせた。ファミリーの一員にはそれで十分だった。彼は息を呑み、振り返る…

右手を掲げる。握りしめたのは何の変哲も無いダイス。己の生死を分かつ玩具。

(神よ)

ゆっくりと手を開く。わずかな汗とともに、椀上に滑り落ちたダイスはカラカラと音を立てて転がり…やがて止まった。

『4』

エリックは絶望した。それは4発の弾を込めた銃を、自らのこめかみに突きつけることを意味する数字だった。

【サイコロシアン・ルーレット】
2019年11月中に連載開始予定です。

それは誇りとなり、乾いた大地に穴を穿ち、泉に創作エネルギーとかが湧く……そんな言い伝えがあります。