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船を降りよ、とノア氏は言った。

ハッチから放り出されたジェイクが宇宙空間でどうなったのか、想像したい奴は誰もいない。ノア氏は本気だ。それで十分だった。

「私はあらゆる生物のつがいをこの箱舟に載せた。だが人間だけが一組ではない。何故か?」

彼は静かに言った。

「この箱舟内で殺し合わせ、選別するためだ」

世界一の大富豪、ノア氏は自分を伝説のノアの生まれ変わりと信じ込んでいた。彼は洪水で滅びるはずの地球に見切りをつけ、宇宙に新天地を求めたのだ。

「最高のつがいだけが火星の地を踏む」

その言葉だけで船内は戦場と化した。あちこちに死体が散乱し、断続的な銃声が止まない。恐怖と焦燥、殺意の渦巻く中、俺たち3人は出会った。

「こんな戦いは無意味だわ。ノア氏を説得しましょう」

アデリアの言葉に、チェンと俺が同意する。

この優しさだ。この優しさを持った人間こそが、偽物のノアを排除した後、俺が導くに相応しいつがいだ。

ノアの本当の生まれ変わりのはずの、この俺が。

【続く】

それは誇りとなり、乾いた大地に穴を穿ち、泉に創作エネルギーとかが湧く……そんな言い伝えがあります。