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DX

由来がわからない

"DX"は、数年前からありとあらゆる場所で使われるようになってきたビジネス用語。「何の略ですか」と問われて元の”digital transformation”が咄嗟に出てこないくらい、もとの言葉と離れて単体で多用されて一般化している。その由来を知りたいと思い調べてみたのだが、これがよくわからない。Wikipediaによれば、"digital trasformation"は2004年にスウェーデンの学者により提唱された概念とのことなので、その略称である”DX”もせいぜい数年から長くても十数年くらいの歴史しかない言葉だと思うのだが、私のネット検索能力が至らないせいか、誰がいつ頃使いだした言葉なのかという情報が見当たらないのである。

「なぜDXなのか」という説明しかない

由来がはっきりしない一方で、なぜ”digital transformation”の略語なのに”DT”ではなく”DX”なのかという点についての説明はいたるところで目につく。
概略をいうと①transformationの接頭辞の"trans"は「交差する」と意味を持ち"across"と類義②acrossは、接頭辞a+cross③crossは意味や形状的連想からXという文字で表されることがある④以上の連想で接頭辞”trans”も”X”で表されることがあり、Digital transformation→Digital X-formation→DXと略されるようになったということのようだ。
この説明は、筋は一応通っているし、間違ってはいないとは思うのだが、正直いってなんとなくすっきりしない。

自然発生的とは思えない

なぜすっきりしないかというと上述の説明が、直接的にそういっているわけではないが、「英語ネイティブの社会の中で"digital transformation"という言葉がいろいろなシーンで使われているうちに使いやすい略語として”DX”が自然に発生してきた」という印象を与える説明になっており、これが自分の感覚に反しているからだと思う。
 というのは、crossをXで置き換えている言葉は結構あるけれども、transをXで置き換えている言葉をあまり見かけない。そもそも"transformation"を"X-formation"で置き換えている用例を見たことがないし、transを接頭辞として持つ他の単語についても、接頭辞をXで置き換えて表記している用例は稀。自然に略語が発生してきたとは考えにくい。(ただし、用例については単に私が無知なだけかもしれないが…)
 また、英語圏では”digital transformation”はそのまま使用するのが通例で、”DX”という略称はほとんど使用されないという事実がある。使用例が皆無というわけではないが、使用されている場合も”digital transformation”と並行して使われている場合が多く、日本のように”DX”単独で使われている例はほとんどないといってよい。これはそもそも略語が必要とされていないということだろう。必要がないところで自然発生的に略語が生まれるとは考えにくい。英語版のwikipediaで"digital transformation"をみても”DX"についてはまったく記述がない。

日本での造語?

私の勝手推測だが、この言葉は、「自然に略されるようになった」のではなく「長い用語なので、誰かが略そうと考えて、その際に上述のようなロジックでDXという略称を考えた」ものではないかと思う。つまり、最初の使用者(考案者)が特定できる類の言葉だと思うのである。
上述のように、米国などの英語圏では"DX"はほとんど使われていない。多用されているのはアジア、その中でも特に日本である(アジアで使用例が多いのは日本の影響ではないかと推測している)。日本語の「ディジタル・トランスフォーメーション」は長ったらしくこのような用語を頻繁に使うとなると、日本語話者としては略したい気持ちになるのが自然。ということで、日本語話者の誰かが、論文か、プレゼンかわからないけれども、デジタル・トランスフォーメーションを略したいのだが、「デジトラ」では「デジタルトランジスタ」みたいだし、「DT」では「Cherry Boy」みたいだし、ということで上述のようなインテリロジックでひねり出したのが「DX」であった、ということではないだろうか。なお、「DT」は既存のIT用語と混同する可能性があったので避けた、という説明をしているサイトもあったが、IT関係で混同しそうな既存の”DT”というのはおよそ思い当たらない(htmlに<DT>があるけど混同の仕様がない)ので、やはり「Cherry Boy」との混同を避けたものだろう。

他力本願の結論

お読みいただけるとお分かりのように、以上、何の根拠もない私の妄想である。このような推測は全く的外れで、普通に米国のビジネスシーンで自然発生的に生じた可能性もあるし、そもそも由来が分からないからといって実務には何の影響もないのだが、語源オタク見習いの身としてはやはり気になる。
仮に、"DX"が日本で考えられた造語なら、日経新聞の過去記事検索などで2010年前後あたりを調べれば、考案者が誰かはわからなくても、初出時期はわかりそうなものではある。そういう情報を調べて開示してくれる者がどなたかおられないものだろうか。

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