身代金ZOOM

○高堀家・居間(夕)
高堀美里(40)が、日比谷浩二(45)のスーツの襟を引っ張り。

美里「刑事さん、息子は助かるんでしょうか?」
日比谷「落ち着いてください。息子さんは、我々が必ず助けます」
美里「あの子がいなくなったらもう、私は……」

と崩れ落ちそうになった体を、氏家寛人(38)が支える。

氏家「大丈夫です」

と、ソファーにゆっくり座らせる。
日比谷、テーブルのパソコンを開いて。

日比谷「犯人は、今回、ZOOMで交渉を要求してきました。私たちも、こちらのモニターでリモートの様子は拝見してます。ただ、我々の存在はバレる訳にはいきませんので、くれぐれもこちらを見たりなど、第三者の存在を匂わす行為は注意してください」

美里、頷く。
日比谷、URLをクリックし。

日比谷「このボタンをクリックすれば、入室できます」

日比谷、時計を見る。
17時まで、残り1分。

日比谷「氏家、準備しろ」
氏家「はい」

日比谷、氏家、美里とは対面のソファーに座り、テーブルの小型モニターを注視。
美里、日比谷と目を合わし、お互い覚悟を決め、首を縦に一度振る。
美里、クリックし、ZOOMに入室する。

○ZOOM画面
画面上には、美里の顔と、画面オフで人のアイコン画面が並ぶ。
美里、顔を近付いけたりして動作を確認する。
突如、画面オフが解除され、目出し帽を被った男が映る。
目出し帽の男、画面オンに切り替えてたからか、顔が近いが、映ったことに気付き、カメラから遠ざかり。

目出し帽男「……」

目出し帽男、口は動いてるが、音が聞こえない。
銃を天井に発射する目出し帽男。
しかし、音は聞こえない。

美里「銃?息子は、息子は無事なんですか?」

笑っている目出し帽男。

○高堀家・居間(夕)
日比谷、横にいる氏家に喋りかける。
日比谷「聞こえる?」
氏家「いや、聞こえなっす」
日比谷、モニターを見て何かに気付き、ペンで紙に走り書きし、美里に見せる。
美里、その文字をチラッとみる。
紙には『ミュート解除させて』と書かれている。

○ZOOM画面
美里「あの……ミュート、じゃないですか?」

目出し帽男、喋るのをやめ、カメラにちょっと近寄る。

美里「声聞こえないんですけど、ミュート、じゃないですか?」

目出し帽男、PCを操作している様子。

○高堀家・リビング(夕)
氏家「こいつ、あんま機会強くないのか?」

○ZOOM画面
ミュート解除のボタンを探している目出し帽男、しばらくして。

目出し帽男「……聞こえます?」
美里「あ、聞こえます」
目出し帽男「あ、よかった、どこまで言いましたっけ?」
美里「あ、聞こえなかったので分かんないです」
目出し帽男「あ、じゃあ、最初からやります」

目出し帽男、声色を低くし。

目出し帽男「ふふふ、いかがお過ごしですかな?高堀さん、むふふふふふ」
美里「む、息子は無事なんですか!?」
目出し帽男「騒ぐんじゃない!」

と、銃を天井に向けたところで、画面が固まる。

美里「? あれ?もしもーし」

○高堀家・リビング(夕)
日比谷「固まった。通信状態は?」
氏家「こっちは異常なしです……あ」

○ZOOM画面
固まっていた目出し帽男の画面が動く。
そこには目出し帽男はいない。
画面右から、目出し帽を片手に持った素顔の男が出て来る。

○高堀家・リビング(夕)
氏家「あ、顔出てる」

○ZOOM画面
男、画面が正常に動いてるのに気付き、すぐに目出し帽を被る。

目出し帽男「聞こえますか?」
美里「はい、聞こえます」
目出し帽男「すいません、フリーwifiの充電が切れてて、再接続するのにパスワード打ってました」
美里「あ、お疲れ様です」
目出し帽男「どこまで行きましたっけ?」
美里「銃のところ辺りで止まりました」
目出し帽男「銃?あ……(切り替えて)黙れ黙れ黙れ!」

と、銃を天井に向け発射する。
美里、3回目からか、軽くびっくりする。

○高堀家・リビング(夕)
日比谷「黙ってたけどな」

○ZOOM画面
目出し帽男「いいか、息子は無事だがな、返して欲しけりゃ、現金1000万用意しろ!」
美里「い、1000万!?」
目出し帽男「用意できなきゃ、息子の命はねえ」
美里「……分かった。で?一体どこに届ければいいの?」
目出し帽男「ふっ、話が早いな。場所だが」

と、画面を共有し出す。
画面には、地図が。

目出し帽男「これ、見えてますか?」
美里「見えてます」

目出し帽男、地図上で赤くなってる部分にカーソルを合わし。

目出し帽男「ここの倉庫に、明日の12時だ。いいか?」

目出し帽男、引き続きカーソルを合わせながら。

目出し帽男「電車なら、ここ駅で、A6出口から降りたら近いぞ、分かったか?」

○高堀家・リビング(夕)
バタンとPC画面を閉じる日比谷。
慌ただしい居間。
美里「ちょっと!」
日比谷「江藤理一。26歳、都内の中小企業に務める会社員です。今、現場に向かってます」
美里「現場?」
日比谷「思ったより情報が多かったので、早く特定出来ました。僕もびっくりしてます。なぜ、そこまで機会強くないのに、ZOOMにしたのかと」

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