スリ

○駅・ホーム
閉まる電車の扉。

○電車・車内
満員である。
ぎゅうぎゅうの車内でかろうじて吊り革を掴み、体勢を支えるスーツ姿の根室翔太郎(27)。
後ろのポケットには、財布が入っている。
駅員のアナウンス「次は、新宿〜、次は、新宿〜」

○新宿駅・ホーム
根室、電車から降りる。

○新宿駅・改札
改札につき、財布を取り出そうとする、根室。
ない。
焦る根室。
リュックを下ろし。バッグの中も見る根室。
根室「あれ?え?」
必死に探すも、見つからない。

○警察署
窓口で相談している根室。
警察官「いや〜、スられたつってもねー、捕まえるの不可能ですよ」
根室「いや、全部入ってるんですよ。免許証・マイナンバー・キャッシュカード・ポイントカード・パスモ・歯医者の診察券・妻と初めて見た映画のチケットの半券・あと、おにぎり半額のレシート、その他もろもろ、いっぱい入ってるんすよ!」
警察官「まぁ、財布ですからね〜」
根室「財布ですからねって……」
警察官「とりあえず、盗難届書いてもらって」
根室、徐にため息つく。

○駅・ホーム(日替わり)
閉まる電車の扉。

○電車・車内
満員である。
満員電車で、かろうじて吊り革を掴む根室。

○新宿駅・改札前
階段を上がってくる根室。
しかし、肩には何も背負っていない。
背負っていたリュックがなくなっている。
根室「……え?あれ?」

○警察署
窓口で相談する、根室。
根室「色々、入ってるんです、あの中に……」
警察官「そうでしょうねぇ、リュックですから」
根室「絶対同一犯です!早く捕まえてください!」
警察官「いや、そもそも、気付かなかったんですか?」
根室「そうですね、いつの間にか、無くなってて」
警察官「犯人も異常ですけど、あなたもちょっと」
根室「僕も異常って言うんですか??」
警察官「もう少し、注意した方が、いいんじゃないですか?」
根室「……そうですよね、すいません」
警察官「とりあえず、盗難届、書いてもらえますか?」
根室「また?」
警察官「はい」
根室、仕方なく、盗難届を書く。

○駅・ホーム(日替わり)
電車の扉が閉まる。

○電車・車内
満員である。
ぎゅうぎゅうの車内で、かろうじて吊り革を掴むスーツ姿の根室。
リュックも背負っていない。

○新宿駅・改札〜ホーム
階段を上がると、周囲の人が、なぜか冷ややかな目でこっちを見てくる。
疑問に思う根室。
根室、パンツだけで、それ以外の身ぐるみが剥がされている。
根室「……え?」

○警察署
窓口で相談している、根室。
根室「……あの、盗難届を」
警察官「申し訳ないですが、公然猥褻罪で、逮捕します」
根室「逮捕!?いや、ちょっと待ってください!本当に盗まれたんです!」
警察官「ええ、でも、すいません」
根室「いや、すいませんって、逮捕は困ります!仕事もあるし、スーツを盗んだ犯人が必ずいるんです!捕まえてください!」
警察官、テーブルに、根室の財布、リュック、スーツを出す。
根室「……?」
警察官「ここに全てあるので、安心してください」
根室「……どういうことですか?」
他の警察官が、根室の後ろを囲う。
警察官「あなたは自分の素性を明かそうとしないので、困りましたよ」
根室「素性?」
警察官「あなたが中々自首しないので、申し訳ないのですが、強行手段を取らせてもらいました」
根室「……」
警察官「奥さんと初めて見た映画……嘘ですよね?あなたは、結婚などしていない」
警察官、根室の財布から、映画の半券を出す。
警察官「あなたは、奥さんにしたかった人と映画を見た、そしてこの日に、彼女を殺した。違いますか?」
根室「……何を言ってるか、ちょっと」
警察官、根室のスーツの裏ポケットから、血のついたハンカチを取り出す。
警察官「……形見ですか?奥さん、失礼、彼女の?」
根室「……」
警察官「詳しいことは、署の方で」
別の警察官「もう、署ですよ」


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